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夢と現実の狭間に立たされた社会人に寄り添う国内映画&ドラマ13作品(『花束みたいな恋をした』編)

「アラサー 夢 映画」とか「アラサー 仕事 ドラマ」とかで検索しても全然いいまとめ記事が出てこなくて「もっといい作品あるだろうがー!!」となったことから始めたこのマガジン(前回は「仕事」をテーマにした『獣になれない私たち』編)。

小さな生活の声を掬い上げた国内映像作品をまとめてみました。近年の名作映画&ドラマ1本をベースに、その時々の境遇に合わせた作品を紹介していきます。

と意気揚々としてますが、今回は割と近年の作品ばかりなので、すでに全作鑑賞済みな人は結構いるかも。。。まあ、とりあえず行ってみよう!夢の世界へ行ってらっしゃい!今回は『花束みたいな恋をした』編・13作。

『花束みたいな恋をした』あらすじ

東京で暮らす男女の5年間の恋模様を描いた物語。互いの趣味趣向が共通していたことから運命的な恋に落ちる麦と絹だったが、環境の変化や時間の経過とともに、関係性は少しずつ崩れていく。夢を抱いていた日々、就職後の鬱屈した生活、恋人との出会いと別れ……理想と現実の間で揺れ動く20代をあらゆる角度から捉えていて、誰に視点を置くかで見え方も変わってくる作品。(監督:土井裕泰/脚本:坂元裕二/配信:Netflix 、U-NEXT、dTV)

ドリカム度:★☆☆☆☆
共感度:★★★★★
救われ度:★★★★☆

ドリカム度 →アラサーが観て夢が持てるかどうか
共感度 →アラサー視点で共感できるか
救われ度 →観終わった後に「人生なんとかなりそうだ!」と思えるかどうか

●鬱屈した日常を送る麦に共感したら

大学卒業後イラストレーターを志しながらアルバイトを続けていた麦だったが、親の仕送りが断たれたことで生活が厳しくなり、絹との暮らしを続けるために就職を決意する。しかし、仕事に忙殺されていくうちに夢への熱意も薄れ、やがて絹ともすれ違う。そんな麦と共通した4作。

『佐々木、イン、マイマイン』
(監督・脚本:内山拓也)

ドリカム度:★☆☆☆☆
共感度:★★★★★
救われ度:★★★★☆

何も思うようにいかない鬱屈した日々を過ごす人を鼓舞してくれる映画。俳優を目指すも鳴かず飛ばずなうえ、彼女との別れを受け入れられないまま同棲を続けている27歳石井が、とある出来事をきっかけに高校時代のヒーロー・佐々木を思い出す。佐々木や仲間たちと過ごした青春の日々、彼らの現在の生活にふれていくうち、中途半端になっていた現実と向き合っていく。

【配信】
Amazonプライム、Netflix

『春眠り 世田谷』
(監督・脚本:山田英治)

ドリカム度:★☆☆☆☆
共感度:★★★☆☆
救われ度:★★☆☆☆

サラリーマンのままで人生を終えることに疑問を抱き、30歳手前にして退職した男の物語。彼女の家でひたすら堕落した生活を送るも、虚無感に苛まれて生きる意味すらわからなくなっていく。これは観る時期をだいぶ選ぶ気がするけど、私は嫌いじゃなかった。死にたいわけでもないけど生きる意味も見出せなくなってるときに観ると、主人公に共感できると思う。大森南朋演じる主人公が、自分勝手で本当にダメなんだけど可愛くて憎めない。

【レンタル】
TSUTAYA

『ここは退屈迎えに来て』
(監督:廣木隆一/脚本:櫻井智也)

ドリカム度:★☆☆☆☆
共感度:★★★☆☆
救われ度:★★☆☆☆

将来を見据えて何かが欠けたまま身を固めていく様子は麦とも重なる。理想に近づけないまま現実が迫る27歳たち。何者にもなれず地元に戻る「私」、学生時代は“特別”な存在だった椎名、元彼・椎名を忘れられずに地元で暮らす「あたし」……味気無い生活に漠然とした不安を抱き始める、27歳ならではの悩みを映し出す。

【配信】
Hulu、Amazonプライム

『あなたに聴かせたい歌があるんだ』
(監督:萩原健太郎/脚本:藤本匡太、燃え殻、萩原健太郎)

ドリカム度:★☆☆☆☆
共感度:★★★★☆
救われ度:★★★☆☆

夢を諦めた人たちを肯定してくれるようなドラマ。夢と現実の狭間で揺れ動く27歳の男女5人と、かつて彼らの高校教師だった女性のその後を描く。夢に見切りをつけていく彼らの物語なので、現役・夢追い人にはちょっと苦い内容かも。

【配信】
Hulu

●夢追い人の青春残酷物語として共感したら

『花束みたいな恋をした』は夢を持った若者たちが直面する社会の厳しさが描かれてる。夢を閉ざされた麦がやりたいことのために転職を決めた絹を「遊びの延長みたいだ」と軽視する場面からは、夢を諦めた者と夢を目指す者どちらの苦しみも感じ取れた。

『ばしゃ馬さんとビッグマウス』
(監督・脚本:吉田恵輔)

ドリカム度:★☆☆☆☆
共感度:★★★★★
救われ度:★★★☆☆

『神は見返りを求める』『BLUE/ブルー』でも夢と現実の狭間で葛藤する人々を扱ってきた吉田恵輔の“夢追い人映画”第1作。脚本家スクールで出会った男女を主人公にしたヒューマンコメディで、夢を諦めきれない不器用な二人を厳しくも温かい目線で描く。夢追い人映画は美しく描かれがちだけど、そんな甘っちょろいことはしない。ちゃんと滑稽で、悲しくて、孤独。夢があっていいねとは言うけどさ、現実はこんな感じだけどそれでも?を残酷に突きつけてくる。吉田恵輔は夢追い人たちが経験してきた羞恥を理解してくれてるから好き。

【配信】
TSUTAYA

『泣き虫しょったんの奇跡』
(監督・脚本:豊田利晃)

ドリカム度:★★★☆☆
共感度:★★★☆☆
救われ度:★★★★☆

将棋棋士・瀬川晶司の自伝を映画化。年齢制限で新進棋士奨励会を退き夢を諦めた主人公が再びプロを目指していく。「26歳までに四段昇段しなければならない」という奨励会の規定は、何者でもないアラサーたちの焦燥の理由とも繋がってる気がする。監督自身も新進棋士奨励会に所属していたこともあってか、才能を持った若者たちが次々夢を諦めていく描写が淡々としていてかつ異様にリアル。また、美しいとは言えない戦い方をしなければ上がっていけない将棋の世界は、私たちが生きる社会そのものだった。

【配信】
amazonプライム(レンタル) 、U-NEXT、TSUTAYA

『殴る女』
(脚本:田渕久美子/演出:小椋久雄、高丸雅隆、加門幾生)

ドリカム度:★★★★☆
共感度:★★★☆☆
救われ度:★★★★★

やりたいことはあるけどなかなか踏み切れない、もしくは夢を諦めきれないまま就職した人(就職後の麦と絹のような境遇の人)に勧めたい作品。エリートサラリーマンの人生を捨て、夢を追いかけるも負け続けなロートルボクサーの物語。馬鹿にされても命をかけてボクシングに挑み、自分のいるべき場所を見つけていく澤田の姿は、夢追い人たちの背中を押すはず。

『火花』
(脚本:廣木隆一(総監督)、白石和彌、沖田修一、久万真路、毛利安孝  /脚本:加藤正人(脚本統括)、高橋美幸、加藤結子)

ドリカム度:★★☆☆☆
共感度:★★★☆☆
救われ度:★★★☆☆

日本のNetflix作品は批判されがちで、『火花』の影が薄くなってることがいつも悔しい……。若手芸人の徳永と先輩芸人・神谷による10年間を描いた青春群像劇。徳永と神谷が笑いや夢をただ語り続ける日々を描いた前半では、何者でもない二人の日常を刺激的で特別な時間として映し出していく。だからこそ、時間の経過と焦りによって関係性が崩れていく後半が苦しい。道半ばで夢を諦めた者たちの青春物語は、何者にもなれない私たちだけでなく、すでに何かを手にした人にも響くはず。

【配信】
Netflix

『カルテット』
(脚本:坂元裕二/演出:土井裕泰)

夢を諦めきれない4人の演奏家の物語。従来の夢追い人物語的な起承転結は一切出てこない。ストイックな練習風景も出てこない。夢を叶えてきた人から見たら甘っちょろい志に見えるかもしれないし、劇中では4人に冷酷な言葉を投げかけてくる人もいる(「志のある三流は四流だからね」というセリフが強烈)。だからこそ夢の途中にいる人々には刺さる。残酷な現実を突きつけながらも、社会に馴染めないものたちのささやかな夢を肯定するようなドラマ。

【配信】
TBSオンデマンド、Hulu、Paravi、dTV、U-NEXT、TSUTAYA


●東京で暮らす麦と絹に共感したら

明大前駅で終電を逃したことで出会った麦と絹。二人を繋げていたものも、切り離したのも、東京だった。穏やかだけど刺激的な二人の生活は、カルチャーや夢追い人が密集する東京という街の上で成り立っていたと思う。きっと、絹も麦もこの4作に共感するんじゃないかな。

『東京女子図鑑』
(監督:タナダユキ/脚本:黒沢久子)

ドリカム度:★☆☆☆☆
共感度:★★★★★
救われ度:★★★☆☆

主人公・綾の約20年間を描いたドラマ。東京で派手に生きる人というよりも、“なりたくなくてもそうなってしまった”という人物像がめちゃくちゃリアル。順調満帆だと物足りない、上手くいかなくなると平和な日常が欲しくなる。女性の欲望と願望が入り乱れていく様子は『フリーバック』に近いヒリヒリ感。

【配信】
Amazonプライム

『東京男子図鑑』
(監督:松本佳奈/脚本:村山竜平)

ドリカム度:★★★★☆
共感度:☆☆☆☆☆(不明)
救われ度:★★★★☆

これは男子Ver.もあるのが面白い!男性ならではな競争社会の厳しさを知れる。彼女の年収と自分の年収をどうしても比較してしまったり。女子Ver.と比較しても気にするポイントが微妙に違う。男性Ver.は常に劣等感に苛まれてるんだけど、その原因は女性のプライドや見栄にあったという話でもあり、考えさせられる。

【配信】
Amazonプライム

『あのこは貴族』
(監督・脚本:岨手由貴子)

ドリカム度:★★☆☆☆
共感度:★★★★★
救われ度:★★★★★

地元にも東京にも家にも居場所が見つからない人に寄り添った映画。東京に暮らしながら異なる人生を歩む20代後半女性たちが主人公で、階層の違いや女性の哀しみを隅から隅まで丁寧に映しだしていく。それでも最後には気持ち良さが残る作品にもなってるから凄い。特に美紀と親友の会話がよかった。東京で女性が生きることの厳しさと、そこから這い上がろうとする力強さの両方を感じる。

【配信】
Netflix、dTV、U-NEXT

『ブルーアワーにぶっ飛ばす』
(監督・脚本:箱田優子)

ドリカム度:★★☆☆☆
共感度:★★★☆☆
救われ度:★★☆☆☆

東京⇄地元物語といえばこれも!東京での仕事や恋愛に疲れた主人公が大嫌いな地元に帰る様子を描く。優しい夫もいて浮気相手もいて仕事もできるのにそれでも心は荒む。地元と東京の光と影が残酷に描かれているのが面白い。

【配信】
Netflix、dTV、U-NEXT

【まとめ】

『花束みたいな恋をした』は20代後半の若者たちの“今の姿”に至るまでの物語だと思う。夢はあるもののストイックにはなれず、挫折して、成功と呼べるものを手にできないまま、何となく人生が確定していく。小さな挫折と現実の積み重ねによって生まれた複雑な葛藤を、一つの作品にまとめていることに当時衝撃を受けた。

これに近しい作品をもっと観たいと思うんだけど、『花束〜』みたいに満遍なく全てが詰め込まれた作品というのはなかなかないから、ベースにするにはちょうどいい気がしたのだった。

にしても、現実的な夢追い人物語ってドラマにするのが難しいんだろうな。練習→挫折→ちょっとした成功体験→挫折→練習→挫折→練習……って感じだから地味なのかも。そう考えると『カルテット』や『火花』は小さな夢物語を描いてるのに、ずっと面白いから凄い。



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