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ジャンル変わればモノ盤の扱いも違う
前回はジャズのモノラル盤について気になる点を挙げたが、クラシックのモノ盤も少しずつ買い始めているし、自宅レコードラックの不要盤コーナーから発掘も進めている。ジャズとは少し付き合い方の違うところがあって、面白いものである。
■ピューリタンならざる者の愉しみ
ジャズでは後世の復刻盤でも中電MG-36MN1のマッシブで力強い音が好ましく感じられるものが多く、果ては初期ステレオ盤ですらこのカートリッジで再生した方が好ましい再現を得ることも少なくない。ステレオの発電機構にモノ針を装着するという方法論は、モノ再生ガチ勢にはいささか不評かもしれないが、モノ針でステレオ再生できるというのは、1周回って大きな利点と感じている。
実際に、ジャズの初期ステレオ盤(といってももちろん後世の復刻だが)を、ステレオ用0.7mil丸針のMG-3605とモノ用1.0mil丸針のMG-36MN1で聴き比べてみたら、好みの違いもあろうが、少なくとも私にはモノ針で聴いた時の音が好ましく聴こえる盤が多い。あの図太くパワフルなMG-3605も、MN1の前では細身でワイドレンジな現代的カートリッジに聴こえてしまうくらいである。
まぁMG-36MN1はそんなキャラクターだけに、クラシックではいくらモノ盤とはいえ情感描写や雰囲気などにいささかの欠落感をなしとしない。しかし、それはステレオ再生だって同じことだ。MG-3605が強烈過ぎると感じる盤には、さっさとテクニカやシュアへ交換するなり、いっそのことMC型を使うなりすればよい、というだけの話である。
■フルトヴェングラーに優秀録音があった!
ヴィルヘルム・フルトヴェングラーは20世紀を代表する大指揮者といってよかろうが、残念ながら1954年に亡くなっており、ステレオの音源が残されていない。というか、モノラルですらまともな音のレコードへ当たることが滅多にない。多くのクラシックファンが絶賛するにもかかわらず、録音の悪さからオーディオマニアにとって心から愛することが難しい指揮者、とまで言ってしまうと申し訳ないだろうか。
というような状況だから、これまで私もフルトヴェングラーはあまりレコードを買わずにきた。若い頃2~3タイトル買って、あまりの低音質に匙を投げてそのまま素通りしてきた、というのが正直なところだ。
それが、先日まとめてオークションで落としたモノ盤の中に入っていたブラームス/交響曲第1番は、大変な高音質に感激した。ノイズレベルは低くレンジも十分に広く、骨太で重厚かつ血が沸き立つような熱い演奏がスピーカーから吹っ飛んでくるではないか。
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ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
独Grammophon 2530744
ベーレンプラッテ金子さんの「入手難!」という記述にはしゃいでしまったが、
考えてみればフルトヴェングラーの音源だ。
初発が膨大にプレスされていても驚きはない。
■大定番の演奏、ひょっとしてオリジ?
調べてみたら、たまたま入手した盤は1952年2月、BPOとのライブ盤で、フルヴェンの遺した演奏の中でも大定番だった。しかも生前発売されることがなく、1976年に初版が発売されたというから、オリジナル盤でもおそらくステレオ盤と同じカッターヘッドで切っているのではないか。
ちなみに手元の盤、安かったものだからてっきり後世の再発盤だろうと思い込んでいたら、本国ドイツ盤でレコード番号がオリジナルと同じ2530744、しかも検索で当たった高級中古レコード店ベーレンプラッテで「入手難!」と書かれている個体と、ジャケットのデザインも同一だ。ひょっとしたら、とてもいいものを引き当ててしまったのかもしれない。
こういう盤は、ステレオ針で聴いても問題なさそうだが、やはり最初はモノ針で聴いてみる。そうしたら、骨太でパワフルな再生音ではあるのだが、やはり若干荒いというか、ライブ演奏の空間感、音場感がもう一つという印象となった。
それならわがレファレンスの登場と、オーディオテクニカVM740MLを使って聴いてみたら、おぉ、これはかなり現代的な録音だったのだな、という印象に一変した。しかし、50年代のモノ音源をこういう音で聴くのが"正しい"のかと問われると、若干の躊躇もなくはない。おおらかでガンガン吹っ飛んでくる感じが若干失せ、線が細く神経質な側面がのぞくような気もするのだ。
■無垢楕円のステレオ針でウェルバランス
だったらこれでいってみるかと、VMの交換針を無垢楕円に交換したら、あぁこっちがいいねと思わず顔がほころぶ。固いつぼみが少しずつ膨らみ、薄紅色の花びらが見えてきた、そんな早春を思わせる変化である。これは大切な愛聴盤になりそうだ。
■ステレオ初期のモノ盤、USAプレスだと!?
わが手元にあるオイゲン・ヨッフム指揮/BPOのハイドン/交響曲第88番と同98番のレコードは、レーベル面がいわゆるチューリップ飾りで、LP初期の盤かなと勢い込んだと思ったら、レーベルの文字をよく読むと「MFD. BY RCA USA」と書いてあってズッコケた。しかも、調べてみたら音源自体は1961~62年のステレオ収録で、モノラル→ステレオの過渡期にあって、モノで発売された盤ということらしい。あまり生兵法を振り回すものではないなと痛感する。
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オイゲン・ヨッフム指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
独Grammophon LPM18823
ステレオ時代を迎えてから、あえてステレオ音源をモノでプレスした盤というのが、
結構あるということを、恥ずかしながら初めて知った。
調べたら、意外とステレオにない魅力を備えた盤もあるという話なので、
縁あってステレオ盤が入手出来たら、ぜひとも聴き比べてみたいと思う。
とはいえ音は結構良く、いろいろなカートリッジで聴き比べてみたが、こちらも個人的にはVM730EN(販売されている型番にはないが、VM740MLの針先を無垢楕円に交換して発売するならこの型番になる)が最も好ましく聴こえるが、こちらはマイクロリニア針のVM740MLのクールで伸びやかな再現も捨て難い。
■イコライズ・カーブはほぼ違和感なし
ちなみに、60年代の発売だからいくらモノ盤でもイコライズ・カーブは心配ないだろうとは思いつつ、念のためいろいろトーンコントロールをいじくってみたら、ほんの僅かに高域を上げ、低域を落としたバランスがいいかなと思わぬでもないが、それよりフラットでトーン・ディフィートにした方がトータルの音質的には好ましく、それで聴くこととした。
考えてみれば、RCAで製作されたのなら本盤よりもっとずっと早くからカーブはRIAAになっていたはずである。何といっても、RIAAのオリジネーターというか、同社のNew Orthophonicカーブが即ちRIAAカーブなのだから。
■現役モノ盤はやっぱりモノ針が好相性か
最近入手した盤には、少数ながらモノ時代の現役盤もある。サー・マルコム・サージェントがBBC交響楽団を振ったチャイコフスキー/交響曲第5番である。レーベルはHis Master's Voice、円盤レコードの祖エミール・ベルリナー直系、英グラモフォン・カンパニーのレーベルである。
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サー・マルコム・サージェント指揮/BBC交響楽団
英HIS MASTER'S VOICE ALP1236
アメリカのLiving Stereoほどではないが、
かなり鮮明で音像がしっかりした録音に聴こえる。
もっともMG-36MN1がガッツをつけているきらいはあり、
もう少しジェントルなモノ針で聴くと、また全然違って聴こえる可能性もある。
このレコードも、MG-36MN1から始めていろいろなカートリッジで聴いてみると、当初はやはりVM730ENがいいかと思ったのだが、再びMN1へ付け替えて音を聴いてみると、うむ、こっちの方がやっぱり音溝から演奏者の"魂"を抉り出すような表現が好ましい。音場感は若干下がるのだが、それがむしろモノ盤ならではの味わいみたいに聴こえてきてしまうから、現金なものである。
一方のVM730ENでは、より現代的な表現になる半面、やはり線が細くなり、音楽の中へ入り込んで楽しむというより、客観的に冷徹な目で見つめるような印象となってしまう。まぁ好みの問題でもあるが、私はこの盤、この演奏には、MG-36MN1の表現力を添えたく思ってしまった、という次第だ。
■好みの音になっていればよし
ところでこのレーベルは独自のHMVカーブを採用していたそうだが、1955年発売のこの盤では、ちょうどRIAA統一への過渡期ということもあり、どちらが採用されていたか判然としない。聴感でざっとトーンコンをいじってみると、高域をごく軽く抑え、低域を僅かに持ち上げるのが耳にしっくりきた。こうなると、カーブの違いを聴いているのか単なる音の好みなのか、全然分からない。でも、それでいいとも思うのだ。
■追伸:傷んだ音溝には1mil針先が効く!
ポップスの盤だが、ここでオマケ的なネタを一つ。わが家にあるカーペンターズの「ゴールデン・プライズ」は、例によってジャンク棚で見つけた個体なのだが、針を落としてみるとどれほど丹念にクリーニングしても、カレンの声が歪みっぽくて聴けたものではなく、これも不要盤のコーナーへ追いやっていた。おそらく、掃除の行き届かない環境で酷使された個体なのであろう。
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実はこの盤、狙って買ったものではない。
ジャンク盤を漁っていたら、ニール・ヤングの「ハーベスト」があり、
こりゃいいやと買って帰ったら何と中身がこれだった、という次第。
ニール・ヤングが聴けなかったのは残念だが、その分こっちを楽しんでいる。
MG-36MN1を使ってモノ盤を聴いている時にふと、0.7milの針先ですり減った音溝も、1milの針先は別の位置にスタイラスが接触するから、上手くするとフレッシュな音が再生できる可能性がある、ということを思い出した。
そうなったら、もう試してみるしかない。すぐに引っ張り出して針を落としてみると、100%というわけにはいかなかったが、あのザラザラと耳障りな声は影を潜め、十分に聴きやすい、カレンらしい声が響き渡って感激した。ステレオ発電回路のモノ針ならではの効用に、ニヤニヤが止まらない実験結果となった。音溝の減った愛聴盤は、捨ててしまう前にぜひお試しあれ。