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AT-LP8X期間限定リファレンス就任!


音元出版・刊 季刊analog Vol. 86 ¥1,680

私は中級プレーヤー5モデル比較試聴のほか、
SP盤のクリーニング法、中電のSP用カートリッジ試聴など、
今号では何だかSPに縁のある特集を多く執筆している。
よろしかったらお目通し下さい。

 発売中の音元出版「analog」誌86号で、私は中級プレーヤー5台を33/45/78回転で聴く取材を担当している。その中で最廉価ながらかなり健闘したオーディオテクニカAT-LP8Xは、一度自宅でも少しだけ試聴して本noteに記事をアップした。

https://note.com/kitamoriya_craft/n/n4ef0de5c2003

■おや、ずいぶん音が違うぞ?

 しかし、音元出版の試聴室で聴くことのできた音は、自宅のテストとはかなりグレードが違うとしかいいようのないものだった。担当の編集子が上手く調整してくれていたこともあるだろう。しかし、1日だけの試聴だったとはいえ、私のセッティングも何かが間違っていたとか条件が悪かったとか、そういうことはなかったと信じたい。

「これはnote読者とオーディオテクニカに悪いことをしてしまったかもしれないぞ」と考えざるを得なかったもので、誌面でも「しばらく借りてみようか」と書いた。それで雑誌の取材を終えて間もなく、オーディオテクニカの広報担当Kさんに連絡して、AT-LP8Xを少し長期で借りられないか打診したところ、「ぜひじっくりテストして下さい」と、試聴機を1台融通してくれた。


愛用のパイオニアPL-70を暫時撤去し、
ベストポジションへ迎え入れたAT-LP8X
PL-70よりずいぶん小さい。

 こうなったら腰を据え、覚悟を決めて愛用のパイオニアPL-70をしばらく撤去し、「期間限定リファレンス」としてじっくり使いこなしてみようと思う。

■付属品・アクセサリーも金がかかってる!

 改めて、先日のレポートでは触れられなかった部分を、少し詳細に解説しておこう。現在のところ、78回転も回せてアームの高さまで調節可能なマニア向けプレーヤーとしては、テクニクスSL-1500Cと並んで最廉価クラスの本機だが、それでも電源ケーブルとフォノケーブルはすこぶる立派なものが付属している。どちらも十二分に太く、手触りの良いシースが用いられたものだ。シングル盤のアダプターがアルミ削り出しのブラックアルマイト仕上げというのにも驚いた。


15万円弱のプレーヤーについてきたとはとても思えない、
太く作りのしっかりしたフォノケーブルと電源ケーブルに驚く。
シングル盤アダプターもアルミ削り出しだ。
オーディオテクニカ以外では考えられない原価計算なのではないか。

 この両ケーブルに関しては少々思うところあり、しっかりエージングを終えたところでいろいろ実験してみたいと思っている。

 付属カートリッジは前述の通り同社のAT-VM95Eだが、新製品のヘッドシェルAT-LT10が装着されているところがまた気に入った。といっても、AT-LP7で標準だったヘッドシェルAT-HS10が単に私の好みに合わないというに過ぎないのだが、しかし両者をじっくり見比べてみると、やはりLT10の方が作りが良く見えるのは私だけだろうか。AT-LT10、そのうち単体でもじっくり試聴リポートを上げたいと思う。

AT-VM95Eの「交換針道楽」も楽しいが、
付属シェルのAT-LT10がまた作りの良いものだ。

■完全新品をエージングする苦労と楽しみ♪

 自宅へやってきた個体は、多くの雑誌や評論家宅を経てきたものではなく、ほとんど使われた形跡のない新品だった。それで取るものもとりあえず組み立ててセットし、片っ端からレコードを食わせている。こういう事態には慣れているが、それにしても最初のLPは歪みっぽく情報量が少なく耳障りな音だった。

 皆さんもよくご存じだとは思うが、特にこういう回転系、摺動系を持つオーディオ機器は、くれぐれも最初の音で何者かを判断してはならない。最低でも10枚、できたら数十枚はレコードを鳴らしてやって、初めて実力の片鱗が見え始めると考えてよいだろう。

■恐ろしげだがよく効く促成エージング法

 とはいうものの、そんなに何十枚もかけないとエージングが進まないのか、とガッカリする向きもおいでだろう。そんなあなたに、故・江川三郎氏の促成トーンアーム・エージング法をご伝授しよう。用意するのはシングル盤と2~3cmに切った割り箸の切れっ端、これらのみである。

 まず、アダプターを使わずにシングル盤をできるだけ軸から偏心させてプラッターへセットする。そしてどこか一端に割り箸の切れっ端を挟み込み、針を落としてプラッターを回してやる。そうすると、左右/上下の両方にトーンアームが揺さぶられ、サポートの軸が劇的に動きやすくなる、というわけである。軸や針先の破損する確率がゼロとはいえないから、くれぐれも自己責任で実行をお願いしたい。


一体何をやっているんだろう? と思われても仕方ないが、
これがまたよく効くエージング法なのである。
私も新品プレーヤーやアームを試す前には、よく励行する。

 わが手元の個体は、レコード3枚まではデフォルトでかけ続けたが、どうにも音が鈍くて歪みっぽく、ちょっと時間がかかりそうだったので、この手を使ってシングル盤片面分かけ続け、然る後にリファレンスのLPを改めて聴いたら、あはは、呆気にとられるくらい音が真っ当になり、歌姫が勢い良くシャウトした際などにはまだほんの僅かに歪みが乗るが、一気にゴールが近くなったと実感できた。

■交換針で好みの音質へ整えよう

 特に付属のAT-VM95Eはロック/ポップス系の音楽と極めて好ましい相性を有し、レコード5枚+例の急速エージングを済ませた段階で、ほぼパワフルでスイートな質感を聴かせ始めている。ところが、その一方クラシックは未だナローレンジで弦が歪みっぽく、苦痛とまではいかないが、あまり聴き心地がよろしくない。

 このカートリッジは交換針を替えることによってどんどん上級品に変身させることが可能で、標準品は接合楕円針だが、これを無垢楕円のAT-VMN95EN(¥13,200)へ交換するだけで、一気に解像度が上がって音場が広がり、また澄んだ空気感が得られることは保証してもよい。今回は交換針を借りていないのだが、いつかそう遠からず借りられる範囲で上級の交換針を試し、本noteでリポートできればと願っている。

■ガマンできずにカートリッジ交換


というわけで、VM740MLにカートリッジを交換した。
当然のことながら、劇的に解像度も音場も広がり、
俊敏さ、抜けの良さも圧倒的だ。
AT-LP8X、カートリッジの音の違いをよく表現するプレーヤーである。

 という次第で、クラシックをこのピカピカのAT-LP8Xがどう鳴らすかを聴きたくて、早々にカートリッジを交換する。同社の上級VMカートリッジVM740ML、わが絶対リファレンス・カートリッジの1本である。同社の上級ヘッドシェルAT-LH13occに取り付けたVM740MLは、付属カートリッジ+ヘッドシェルの17g程度に対して22g程度とかなり重くなるので、サブウエイトを取り付けなければならない。なに、簡単な作業だ。


標準状態では14~20gのカートリッジ+シェルに対応するが、
それ以上の自重を持つセットにはサブウエイトを取り付けて対応する。
17.5~23.5gまでの対応となる。

 その状態でクラシックを聴くと、先に書いた音質、音の情景がまさに眼前で展開する。さらにいえば、無垢楕円どころではない俊敏さと伸びやかさをマイクロリニア針は聴かせてくれるから、もうケタ外れに上級で現代的な表現を得たといってよい。まぁ当然の話ではあるが、その音の大いなる違いを、AT-LP8Xは当然のように示してくれる。やはり絶対的な性能はかなり高い。しかも、まだまだこれから大幅な伸びしろを歩んでいくのだから、成長の過程が大いに楽しみである。

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