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「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」感想/選び取った分岐の先を生きるということ

「すずめの戸締まり」から始まって「RRR」、そしてこの「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」。ここ数ヶ月の間に観た映画がことごとく当たりでとても嬉しい。映画館まで出かけて行ってチケット買って観るものだから、やっぱりそれなりの満足感は得たいと思ってしまうのだけど、この三作はそれぞれ方向性が違えどもみな「いいもん観た!」という気持ちで帰路につくことができた。どんな媒体であれ、「俺はこれを伝えたいんだ!目ぇかっぴらいてごろうじろ!」というエネルギーに触れられることは何よりの幸せだ。

さてこの「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」(長いタイトルだが意地でも略さない、何故なら略称がダサいので)、事前情報としては最低限の「マルチバース」「おばちゃんのカンフー」「母娘対決」といった要素しか入れないで行ったのだけども、実際は発達障害やクィアなどの要素までもをてんこ盛りにトッピングした(そう、ちょうど作中に出てくるベーグルのように……)「よくこれをうまくまとめたね!?」と驚くような、奇想天外なアイデアとパワーにただただ圧倒される作品だった。
のっけからおばちゃんことエヴリンの娘ジョイが恋人と仲睦まじくしているシーンがあるんだけど、ごくごく自然な二人の演出に「わっすごいな、いい時代になってきてるなー」と静かな驚き。ポリコレとか、とかく叩かれがちだけども(そしてそうなるわなあと思わされるケースも確かに多い……)ただそこにあるものとしてこういった要素を入れるやり方はちゃんとあるんだなーって感心した。またこの恋人がいい子で……もしこれが異性なら多分何も反対されたりしないんだろうなって感じの。だから二人の関係を家族に認めてもらえないジョイの嘆きだったり悲しみだったりがすごいわかる、わかるわーってなるんだよね。家族の中でのジョイの居心地の悪さは丁寧に描かれてたなと思う。

もう一人の家族、エヴリンの旦那さんのウェイモンド、あれズルいよねー!普段が優しいけれども冴えない男である分、アルファバースのウェイモンドに切り替わった後のギャップがヤバい!いやマジで表情から何から別人みたいになって役者さんてほんとすごい。しかもウェイモンド役のキー・ホイ・クァンといえば「グーニーズ」!何度もテレビで見たあの「グーニーズ」のデータ役ということで、なんだか久々に幼馴染に会ったような嬉しさがあったな〜!アカデミー賞の助演男優賞おめでとう、良かったなあ……。
そうそう、アジア系俳優中心ということでエヴリンもウェイモンドもカンフーアクションすごく良かったよねー!特にウエストポーチ拳はメチャクチャ真似したいくらいカッコよかった。身近なアイテムで実践できるので護身用にも良いのでは……?

後半やたら涙が出て混乱したんだけど(家族の物語は好きだしそれで泣くのは普通にあることなんだけど、それで説明できないものがあった)、こちらのレビューを読んでストンと腑に落ちた。

そうか!家族愛をも超えた人間賛歌だったんだ……!(ちなみにこれは対私特攻のキーワードである)

それまで拳で戦ってきたエヴリンは終盤、「優しくあろう」という夫ウェイモンドの言葉で新たな武器を手にする。それは愛だ。
敵として立ちはだかる人々への。家族への。……そしてさまざまな選択の先にある自分自身への、愛だ。
物語の途中、選ばなかった選択の先に素晴らしい成功を収めた自分がいることをエヴリンは知る。当然彼女はそちらの人生を羨ましがるし、その気持ちは観客にも理解できるものだ。何故なら税務署で申告に四苦八苦するエヴリンは、あらゆる並行世界の中でも最低辺に位置する人生を歩んでいるエヴリンなのだ。
そんな彼女がさまざまな自分の人生を体験し、紆余曲折を経たのちに自分の人生を愛し受け入れるようになるくだりは、生きているってとても愛おしいなーと、なんかもう言葉にならないような感動があった。自分の世界で生きていくことを決意する裏に、優しくも冴えない夫の存在があるのがスゲースゲーいいんだよね……。彼女に必要だったのは、腕っぷしの強さは無いけれども与えて許すことのできる強さを持った人だった。それがほんと沁みて、いやあ……いい作品でしたね……。ビッグラブに溢れている。
こういう人間の美しさ、たくさん見たいなあ。

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