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大聖堂 彫金「菩提樹」について

学術研究室 北村友里江

立正佼成会 大聖堂4階には、ご本尊のご安置されている聖壇のちょうど上に菩提樹の彫金が掲げられています。これは、重さは一トンにも及ぶものです。彫金界の重鎮である帖佐美行氏の作品です。

大聖堂4階に掲げられている彫金「菩提樹」
出典:立正佼成会 公式サイト(https://www.kosei-kai.or.jp/official/)

大聖堂のご本尊とその上にある彫金の菩提樹は、インドでお生まれになったお釈迦さまが菩提樹の下でお悟りを開かれたことをあらわしています。開祖さまは、「大聖堂のなかにはいって修行する会員の皆様に、お釈迦さまのみあとをしたって修行させて頂こうと決定して貰いたいというのが、私の全会員に対する希望なのであります」と願われていました。[1]

この菩提樹を作った帖佐美行さんとは、どのような方なのでしょうか。

帖佐氏は数々の彫金の芸術作品を作られた芸術家で、多くの展覧会を開催。高い評価を得ています。大正四年、鹿児島県に生まれました。文化勲章受章、文化功労者、日本芸術院会員。日展常務理事、日本工芸家連盟会長、日本金工作家協会会長など、数々の要職を務めながら、様々な優れた作品を発表してこられました。[2]

帖佐氏は展覧会で高い評価を受けながらも、貧しい生活を余儀なくされていました。そんな時、立正佼成会の庭野開祖から、「日展の作品を観て感心した。作家として有名無名は問題ではない。大聖堂を飾るのにふさわしい生命感のある、勢いのある作品を造ってくれ」と依頼があり、横15メートル、高さ5メートルの大菩提樹の壁面装飾作品を制作することになります。これは大変な仕事であり、1962年秋の制作から完成には二年を要しました。[3]

大菩提樹の制作は、作品の規模も大きく、大聖堂にふさわしい作品を制作するために、肉体的にも精神的にも闘いでした。帖佐氏は菩提樹のデッサンを繰り返し、下絵だけでも1か月かかったといいます。作品が巨大なため、寸法が少しでも狂うと全体的に描き直しになりました。[4]帖佐氏は、制作中のエピソードを次のように語っています。

「制作には、助手になる若者を一〇人ほど集めて開始したが、彼らには手に負えず、結局はほとんど私一人でやらざるをえなかった。全体を鉄パイプでつなぐのに古いのは使えず、新しい大小の鉄パイプをトラックで数台分運び込み、それらを溶接する。溶接で組んだパイプに乗って作業するため、よく真っ赤になったパイプに足を乗せてしまい、踵を火傷したり、落ちそうになったり、命拾いしたことが何度かあった」[5]

大聖堂に入り、間近で見るとわかるように、とても大きな作品なので、制作は非常に大変だったであろうことがうかがわれます。

この大菩提樹制作のプロセスについて、帖佐氏は次のように述べています。

「デッサンの段階で、裏板を一メートル幅の漆の板を一五枚、縦に貼っていくことを思いついた。漆の光沢を太陽の光として表現。板の継ぎ目は金具でとめたが、そこを隠すために、菩提樹の木を被せるかたちで乗せていった。菩提樹は何枚もの板で、部分的につくり、それを一本の木として表現した」

この大菩提樹は帖佐氏の40代最後の大作で、1964年に完成しました。[6]この作品を制作したことは、帖佐氏にとっても大きな節目になりました。

「この作品が完成できたことで、壁面パネルへの自信のようなものができた。それとともに、これまで以上にテーマとしての自然、また精神性の面でも自然への畏敬のようなものが心のなかに生まれはじめた」[7]

帖佐氏はこのように述べていて、立正佼成会大聖堂の彫金 「菩提樹」が芸術家帖佐氏にとっても心に残るものであったことは、とても喜ばしいことのように私は思いました。

帖佐氏は当時、今後の彫金の方向性について考えていたようで、「菩提樹」制作を契機に、次々と壁面作品を制作していったとのことです。[8]

今回調べていく中で、大聖堂の「菩提樹」は、参拝に来た人々が、釈尊が菩提樹の下でお悟りを開かれたように、修行精進することで自分たちも悟りに近づけるという、勇気と励ましを与えてくれる作品であると思いました。同時に、制作者である帖佐氏にとっても、ご自身の芸術家人生の上で大きなチャレンジとなる作品であることを感じました。

私も、大聖堂に参拝する際は、開祖さまの願いと帖佐氏の思いの両方に心を馳せてみたいと思います。


[1] 『佼成』「法話 大聖堂の落成式を終えて」1964年7月号。

[2] 『立正佼成会’94 A Pictorial Record of Risshō Kōsei-Kai』佼成出版社、1995年、p.123.

[3] 清水光夫『千年の美 帖佐美行の世界』新評論、1995年、p.74.

[4] 同、p.79.

[5] 同、p.80.

[6] 同、pp.80-81

[7] 同、p.81.

[8] 同、pp.81-82.

[9] 

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