膏薬の土佐弁②『が』
まだまだ土佐弁はわからない
こんにちは、高頻度でFateシリーズの岡田以蔵のことを考えている北川です。
史実の岡田以蔵さんのことも調べていますが、あくまでゲームから入った身でご本人を語るのは恐れ多いので一定の距離を取っています。
初心者の土佐弁学習記録『膏薬の土佐弁』第2回は、土佐弁には欠かせない『が』を調べた成果を発表します。
もちろん!
この記録には決して『正しい土佐弁を啓蒙しよう! この通りに土佐弁を書こう』なんていう意図はありません。
ただ『幕末の男性ネイティブ土佐弁話者が喋りそうな雰囲気の言葉』をふんわりと模索していますよ、という記録です。
『が』について
陸奥守吉行は、坂本龍馬の愛刀です。
上で引用したセリフには他の要素も入っていてわかりづらいかもしれませんが、土佐弁の中で『が』が大きな特徴になっていることはご理解いただけると思います。
土佐弁の『が』を辞書で引くと
確認していただきやすいWebの辞書で、『が』の項目を見てみましょう。
形式名詞・終助詞
(高知・富山・石川など)の、ん、もの。
どうにもならんなっちょるがやき。(=どうにもならなくなってるんだから)
たっすいがはいかん。(=手応えの弱いのはだめ)
という用法が載っていますが、正直この説明では機械的な感じがして、よくわかりません。
土佐弁の『が』と共通語の『の』には何らかの関係があるようですが……。
ですので、共通語の『が』と『の』の関係を紐解いてみます。
格助詞の『が』と『の』
ウィクショナリーの『が』のページを上スクロールすると、格助詞についての説明があります。
格助詞
体言の後などに付いて文節を作り、その文節がそれを受ける文節との係わりにおいて主格であることを表す助詞。
(文語的)上の体言が下の体言を修飾する(助詞「の」と類義。地名においてはヶが用いられることもある)。
我らが英雄。
この予期すべき出来事を、桂屋へ知らせに来たのは、ほど遠からぬ平野町に住んでいる太郎兵衛が女房の母であった。(森鴎外「最後の一句」)
また、『の』にはこうあります。
格助詞
具体的な名詞の属性や状態を示す修飾節の中で、がに代わって主語や、一部の構文では目的語を示す。
紅葉の散る頃。
私の知っている人。
絵のうまい人。
ケーキの切れない非行少年たち。
確かに、主語として使う時には『が』と『の』には互換性がありますね。
土佐弁は古語が残った言葉
土佐は本州と海で隔てられた四国の中でも、さらに険しい四国山脈にさえぎられて孤立しています。
地図上では隣にある阿波や讃岐とも積極的な交流ができず、独自の進化を遂げてきました。
山間部で漬物をネタにして作った『田舎寿司』などは、独自の文化の象徴でしょう。
土佐弁も例外ではありません。
私は土佐弁を学んでまだ2年あまりですが、古語の要素をそこかしこに感じています。
後々もっと詳しく紹介したいところですが、例えば『怖がり』を表す『きょうじん』という言葉は、もともとは『怯人(おそれている人の意味)』という熟語だったかもしれないと妄想しています。
『怯人』は今ではほぼ使われない言葉ですが、厚めの辞書には載っています。
上で見た辞書には、「『の』は古典的用法で『が』の代わりをする」とあります。
つまり、逆に言えば土佐弁の『が』は共通語『の』への代入が可能であり、共通語で『の』を使うべき場面で『が』にすれば、より土佐弁に近い雰囲気になるのではないか――。
と、私は解釈しています。
上に引いた陸奥守吉行の『こがな』も、『こんな』が『このような』の短縮形なので『ん』→『の』→『が』の理屈が成り立ちます。
『がぁ』?『がが』?
『が』の疑問は解決したように見えますが、また次の難問が出てきます。
共通語では『君にあげたのが』という場合、上の公式に当てはめると『君にあげたがが』という言い方になります。
『が』が続くのは文章としても不自然ですし、発音もしづらくなります。
この件について、土佐弁ネイティブの方は『がぁ』になると教えてくださっています。
口語ではその方が言いやすいですよね。
しかし、Fateシリーズの岡田以蔵は、上のシチュエーションの時に『がが』と言うのです。
二次創作を書く際に、現実は現実として受け止めつつ、原作には従わなければいけないようにも思えます。
非ネイティブの悩みは尽きません。
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