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北からほろほろ読書日記📖2024年12月

十二月某日
 
 朝起きて、窓の外を眺め、「もう根雪か……?」となる。
 気象用語では「長期積雪」と呼ぶらしい。地面に積もった雪が溶けきらず、そのまま春まで残る状態を指す。ここ2、3年は年明けまで根雪にならなかった気がするけど、今年は早いな。
 子どものときは待ちわびた白い妖精だけど、大人になると別に嬉しくないのだった。クルマは渋滞するし、JRも止まる。もし積雪がない街に住んでいたらスクーターがほしかった。実質半年しか乗れない環境だと購入をためらう。
 お気に入りのサボを、冬に入っても寒さを我慢して履きつづけていた。ラクなので。しかし、足が濡れるのは耐えがたい。ついにサボはシューズボックスで冬眠に入ることになり、革の靴を履いて出かけた。
 今朝も少し降っているけど、傘はささない。
 公園の前を通りかかると、海外からの観光客とおぼしき人が、両手を空に伸ばし、その場でくるくると回りながら、舞い降りる雪を嬉しそうに受け止めていた。忘れかけていた大切な気持ちを思い出しそうになった。通り過ぎたらまた忘れた。
 
 短歌アンソロジー『雪のうた』(左右社)を読んだ。
 現在進行形で活躍中の歌人100人による100首を集めた本だ。雪をテーマにしているので、北海道ゆかりの歌人も多く参加している。
 トップバッターが雪舟えまなのは、そうしない理由はないって感じですね。
 
 雪よ わたしがすることは運命がわたしにするのかもしれぬこと
 
 穂村弘のとても有名な雪の短歌も収められている。
 
 体温計くわえて窓に額つけ「ゆひら」とさわぐ雪のことかよ
 
 美しい雪、切ない雪、ユーモラスな雪……さまざまな雪が歌われている。私が忘れたまま思い出せない大切な気持ちが詰まっている。はじめて歌集を買う人にもお薦めだし、小さめのハードカバーで装丁が美しい本なので、贈り物にもぴったりの一冊です。
 

十二月某日
 
 今年が終わっていく……。
 時間を戻してほしいと思いませんか?
 やるべきことをしっかりやって充実した2024年であり、来年が楽しみなのでそんなことは思わないのなら素晴らしい。
 じゃあ、一年間という範囲に限らず、過去のいずれかの時点に戻ってやり直してみたいという気持ちになることは? ない? 後悔はひとつもなく、未来だけを見据えている? そうですか。帰ってくれ。嘘です。続きも読んでいってください。
 私はと言えば、連休が終わる夜に、最初の日の朝に戻って浪費した時間をもっと有意義に使いたい、などと思う。本当によく思う。ダメすぎる。
 けれど、十年前、二十年前に戻りたいかというと、それは悩む。
 その間に起こったいいことや、出会った人たちとの思い出は大切だ。それに、また長い人生の山あり谷ありを全てやり直すのもぞっとする。受験勉強となんて二度としたくないし。
 
 松藤かるり『死に戻り騎士団長は伯爵令嬢になりたい』(角川ビーンズ文庫)を読んだ。
 題名通り、暗殺された女騎士のエリネが、謎の力で少女時代に生まれ変わる物語だ。剣と魔術が飛び交うアクションあり、本心が見えない美青年とのロマンスあり、王道の少女小説の愉しさがある。私もビーズログ文庫という同じジャンルのレーベルでデビューした作家なので、このジャンルには愛着を感じる。
 騎士になったことがきっかけで妹も両親も失った(少なくとも本人は自分のせいだと思っている)エリネは、お淑やかな令嬢として人生をやり直そうとする。しかし根が勇猛果敢なので思うように行かない。揉めごとに首を突っ込んで解決し、前の人生で仲間だった騎士たちから、やはり尊敬されてしまったりする。
 自分が自分である以上、まったく違う人生にはならないのだろう。
 エリネはそれでも(詳しい展開は読んでのお楽しみですが)いいほうに流れを変えていくけど、私の場合は過去に戻っても、ニューゲームの結果がさらに悪くなる恐れもある。作家になれなかったり、この年まで生きていないかもしれない。
 おとなしく2025年を少しでもいい一年にすることを考えます。
 
 
秋永真琴(あきながまこと)
札幌在住。2009年『眠り王子と幻書の乙女』でデビュー。ファンタジー小説や青春小説を書いています。ビールとスープカレーが好きです。日本SF作家クラブ会員。
Twitter(X):https://twitter.com/makoto_akinaga
note:https://note.com/akinagamakoto


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