札幌でおいしいお酒とごはん #2「山猫バル」(佐々木禎子)
私は、冬の動物園が好きだ。雪の壁があちこちに積み上がり、いたるところが真っ白で寒くて、暑い土地の動物たちは屋内に引きこもり、活き活きしているのはホッキョクグマくらいという円山動物園の冬の光景が好きなのだ。
昔にそう言ったら誰かに「寂しいもんが好きだなあ」ってひと言で片付けられた記憶がある。実際、夏の動物園のほうが活気があるので。でも、私はいままで冬の円山動物園をそんなに寂しいと思ったことはなかったよ。
さて、某日、あまりに原稿が進まず「好きなものを見たい」と発作的にひさしぶりに円山動物園(https://www.city.sapporo.jp/zoo/ )に向かった私だったが、鳥インフルエンザ流行の予防のため鳥類も外には出ておらず、私が大好きだったライオンのリッキーも天寿を全うし、次代のライオンはおらずでノーライオン動物園。さらにトラもいないのよ。それでも新しく、しんりんオオカミはペアでいるし、象と麒麟とカバは元気で、なぜかヒグマは冬眠せずにのしのし歩いていた。
楽しいのは楽しかった。やっぱり私は動物園が好き。しかも円山動物園の冬が好き。
でも、ノーライオンのライオンの部屋。ノートラ。鳥類の名前だけが掲げられて中味はノー鳥類の鳥舎。冬の雪山が形成した自然の迷路みたいな動物園のなかにぽつぽつと点在するアフリカゾーン、インドゾーンを歩いていくとどんどん切なくなってしまった。
冬だからとか寒いからとかそういうんじゃあなくて、いまどきの動物愛護の精神からすると、動物園というのは廃れていくのかもしれないよなあと、ライオンやトラがいない動物園を見て、そう思ってしまったので。次代のライオンとトラは来ていいのだろうか。来たら来たで私はウェルカムで見にくるけれども。
その場でスマホで「動物愛護と動物園」で検索していろんな意見を眺めてしまった。
動物園、廃れないとしても形を変えていかざるを得ないのかもしれないのかなあ。時代とともに価値観は変わっていきアップデートされていく。
ガラス越しに私を力強くくちばしでつつきまくるダチョウと睨みあったところで、どうしてか、小説とか本とか書店とか図書館とか、自分のいる業界についても考えてしまって「うがーっっ」となり――グルメ友だちで編集者で漫画家でデザイナーの藤沢チヒロさんと会社員で兼業作家の秋永真琴さんに声をかけて、夕ご飯を食べたのだ。
前置きが長いね。
今回、チヒロさんにおすすめしていただいたのは「山猫バル」。
動物園で無駄に寂しくなった私にナイスチョイスの藤沢チヒロさん。山猫か。いいぞ。私は山猫のバルにいくのだ!!
教えてもらって即スマホでチェックしたらワインが美味しくて肉も美味しいらしい。夜になるとスペイン風、フレンチ風、イタリアン風のものを出すビストロになるって説明を見て「なんでもありかい」って思いながら、気持ちはけっこうスペインに寄った感じで
待ち合わせの一番はじめに到着しメニューをじっくり眺め……ようとしたら、おふたり次々到着で。
秋永さんとは今年はじめましてだったので「おめでとうございます。今年もよろしく」の挨拶などをかわしつつ、乾杯は全員でスパークリング。最初の一杯はシュワッとしたいのでビールかスパークリングだよなあ。
いろいろ迷ったけど、まずは「前菜五種盛り合わせ」をチョイス。
美味しいのはもちろん大切ですが、盛り付けが綺麗ってテンションが上がるので、プレート出てきてみんな「わっ」って声をあげました。
「にんじんのラペって、好きだけど、自分ちで作るとこういう感じになんないんだよねえ」
と、ぼやく私に、チヒロさんが
「スパイスがあればなんとかなりますよ。あまってるスパイスがあるから今度作ろうかな」
とさらっと言った。料理上手め!
鶏ハムもポテサラも美味しくて、こりゃもう次のワインいきましょうかねと次はボトルで頼みました。
ワインリスト見せてもらって、最安値と最高値をチェックする主婦・佐々木。
「赤で、こっちのお手頃な値段のものをお願いしたいんですけど、他にもありますか」
尋ねると、店の奥からマスターが出てきてくださいました。四本の、ラベルもかわいい赤ワインを持参し、ひとつひとつ味とかワイナリーのこととか丁寧に説明してくれる。
「ボジョレー・ヌーヴォーのヌーヴォーじゃないやつです」
一同、うなずく。
「これは、できたてのヴィンテージなのです」。
ヴィンテージなのに、できたて。
ヴィンテージって古いっていう意味じゃないのか。
なんだかよくわかんないけど、これが飲みたいなという私の勢いに、秋永さんとチヒロさんも「いいよ」と言ってくれたので、それで。軽めの赤で飲みやすいから、するするっと飲めてしまう。怖ろしいワインだった。するする飲んだ……。
「肉がいいなあ。肉追加したいな」
メニューとにらめっこしていたら、マスターが声をかけてくださったので「もう一品、肉が食べたいなって話してたんですが、おすすすめしていただけますか」と聞いたら「冷たくてもいいならこちら」とハムその他の冷肉やコンフィにレバーペーストなどの盛り合わせ「あとは契約牧場の猪野毛牧場の豚に、エゾシカ、そして……」。
待って待って。おすすめがいっばい。
でも食べるお腹の容量は決まってるんですよ。
なので最初にすすめられたハムやコンフィの盛り合わせプレートをいただいたら、ボトルが空に。「まだ、もう一本、ボトルいけますけど」というチヒロさんを、私と秋永さんで止めて、グラスワインをおのおの追加しました。
〆のワインは、国産ワインでヤマブドウも入っている「羆の晩酌」をグラスで。ヤマブドウが入ってる赤ワインの国産のやつ私すごく好きで、これ、ラベルもかわいいし、自宅用にも欲しいな。
ワイン好きな人、肉好きの人、ちょっとずつの前菜をたくさん並べてつまみながらお酒を飲むというスタイルが好きな人に、おすすめしたいお店でした。
札幌時計台裏の暗い一角で電飾キラキラのお店で外観がすでに可愛らしい。
外から覗くと狭そうに見えたのですが、入店してみると、店は縦長に広いです。黒をベースにした内装はどこか山小屋風で落ち着く感じ。奥にカウンター席があり、テーブル席は手前に複数あります。
山猫バル
北海道札幌市中央区北1条西2丁目 11-1 23山京ビル1F
http://www.mamma-cr.com/yamaneko/index.html
文章・象の写真 佐々木禎子(お酒の好きな作家)
https://twitter.com/cheb1988
http://instagram.com/cheb1988/
(告げ口『……秋永さんキタノステラのnoteに三ヶ月に一回、小説書くって、酔って言っちやったのを聞いたよ』)
写真とキャプション・藤沢チヒロ(飲んでばかりの漫画家・編集者)
https://twitter.com/uwabamic
https://www.instagram.com/kulahkitamori/(食べ物)
https://www.instagram.com/uwabamic/(イラスト)
飲み過ぎを制止する係と温和な相づち・秋永真琴(飲んでるときに寝落ちしがちな作家)
https://twitter.com/makoto_akinaga
https://www.instagram.com/makoto.akinaga/