てくてく北へ #4 「近畿の旅」(森山智仁)
【この連載について】
フリーライター・森山智仁さんが、2023年4月から半年間、鹿児島の開聞岳から北海道の羅臼岳まで、各地の山に登りながら、ほぼ徒歩で日本縦断する旅「#日本縦走」。このチャレンジを「食」の観点から綴るフォトエッセイです。今回は和歌山~大阪、修験道の聖地をたどります。限られた食糧をやりくりしてのテント泊に、下界の食堂で味わうほっこり定食…メリハリがすごい! 森山さんの旅の様子は、Twitterやyoutubeから、リアルタイムで発信中です。
(前回の記事はこちら)
大峯奥駈道(おおみねおくがけみち)とは、吉野と熊野の二大霊地を結ぶ、全長170km・水平距離90kmの山岳道で、日本最古のロングトレイルと呼ばれています。当然日帰りで行けるものではなく、相当健脚の人でも3〜4泊はかかるでしょう。僕は5泊6日で計画しました。
白浜から滝尻までバスで移動し、5月15・16日はゲストハウスに素泊まりしつつ、熊野古道を歩いて熊野本宮大社へ。17日、備崎橋を渡って、大峯奥駈道スタートです。
初日が標準10時間超、累積標高差+2000mを超える最難関。なんとか標準以内で玉置神社に辿り着き、予約してあったタクシーで十津川温泉へ。
玉置神社の駐車場でテント泊する人も多いようですが、この旅では闇テン(非公式のテント泊)禁止のルールです。それに、十津川温泉に一度下りることで、しっかり休めるのと、初日から大量の食糧を持たずに済みます。
これから3泊、天気予報によるとおそらく停滞して4泊、持ち込んだ食糧で頑張ることになります。スーパーで明日以降の食糧をよーく考えながら買い揃え、その日の夜と翌朝は限界近くまで飲み食いしておきました。
具体的には、
・チョコモナカジャンボ
・紅生姜揚げ
・野菜揚げ
・和歌山カップラーメン
・ピザポテト
・サワー2缶
・アーモンドスペシャル(パン)
・BIGプッチンプリン
・コーヒー豆乳
です。
18日、朝6時にお願いしておいたタクシーで玉置神社に戻り、行動再開。
15時過ぎ、「行仙宿(ぎょうせんしゅく)山小屋」に到着。
予報通り低気圧が迫ってきて、翌日はかなり強い雨だったので、移動せず、ここで2泊しました。
4日後の夜、山上ヶ岳の宿坊を食事付きで予約してあり、それまでの食糧はこれが全て(※非常食として計800Kcalのカロリーメイトと練乳もあります)。停滞日は少量のお菓子だけで凌ぎました。
雨が上がって20日、深仙のテント場まで10時間。丸1日、運動しないで休んでいたはずなのに、元気は最大値の7〜6割といったところ。十分な食事とお風呂、やわらかなオフトゥンという、日常ではごく当たり前の因子たちがいかに大切なものか痛感します。
21日は百名山の一つである八経ヶ岳(1915m)と、この山域で唯一の営業小屋である弥山小屋を通過して、行者還避難小屋に宿泊。
22日、日本最高所の重要文化財・大峰山寺にお参りして、櫻本坊の宿坊に投宿しました。
実に5日ぶりとなる、人様が用意してくれたごはん。ただの白米と味噌汁が輝いて見えます。それをおかわりしていいという事実。たぶん人生で一番心を込めていただきますとごちそうさまを言ったのがこの時です。
そして、お風呂も5日ぶり。過去最長は3日なので初めての境地です。石鹸・シャンプー使用不可なのですが、それでもかけ湯をした瞬間、「んばっ」みたいな変な声が出ました。
同じく5日ぶりのオフトゥンでぐっすり寝て、23日、吉野へ無事下山!
質素な精進料理に感動した矢先であっても、ごちそうがあれば飛びついてしまうのが人間というもので……
おいし過ぎて意識飛びそう。
麺にもつゆにも吉野葛が使われていて、とぅるんとぅるんの神食感。柿の葉寿司の豊かな香りと、胡麻豆腐や葛餅の上品な甘さで、お菓子しか食ってなかった脳が修復されていきます。夢見心地。
しかし、これだけではまだ満たされませんでした。動物性タンパク質がすっかり欠乏しています。何しろ最終日はずっと「肉……肉……」と念じながら歩いていたほどです。
おにくをやいて、たべました。とてもおいしかったです(IQ低下)。
どこで焼いたかというと、吉野神宮から徒歩圏内にあるゲストハウス「鍼灸院ボスケット」のキッチンです。この旅で、ゲストハウスというものへの熟練度がだいぶ上がってきました。同宿の外国人とペラペラ喋ったりはしないんですけど、共用スペースを物怖じせずに使えます。
24日は行程が短いので朝のんびり出発。道の駅・吉野路大淀iセンターのレストラン「ときん」にて、遅めのお昼をいただきます。
予想以上にうまい! しめじの佃煮の濃さと薄めの卵とじがマッチしていて、ガツガツ食べられます。ちょこんと乗せられたスナップえんどうの天ぷらも良いアクセント。
お店のお兄さんが山をやっている人らしく、大峯奥駈道と日本縦断の話をすると「すげー!」と褒めてくれました。ただでさえ困難な大峯の一気駆けを日本縦断の途中にやった人間は何人も存在しないはずで、内心「俺わりとすごいことやったんだよなあ」と思っていたので、人から言ってもらえて嬉しかったです。
奈良盆地を北西に王寺まで歩いて、27日から、奈良・大阪・和歌山の県境に位置する「ダイヤモンドトレール」の攻略を開始。トレイルランニングのコースとして有名らしく、速い人は全45kmを1日で走り抜けるようですが、僕はテント泊でじっくり3泊4日かけて行きます。
大峯奥駈道に比べると料理を楽しむ余裕があったので、サトウのごはんで手軽に何か作れないかなと検索。
ごま油でごはんを炒め、鯖の蒲焼缶を汁ごと投入し、混ざったらごま塩を振るだけ。こんなに簡単ですんげーうまい! 汁を使い切れるあたりが非常に野外向きです。
というか、サトウのごはんってレンチンと湯煎以外に「炒める」のもアリだったんですね。これは良いことを知りました。
ダイトレ3日目の29日、雨に打たれ、蒸し暑さに耐えながら滝谷へ下りてくると、「湖畔観光」の食堂がまだ営業中。おばちゃんに「これから光滝寺キャンプ場へ行きます」と話すと、「誰かおるやろか」と電話をかけてくれました。
予約受付なし・当日のみという情報だったので、飛び込みで来たわけですが、「予告なしで誰もいない日もあるんか……」と戦慄。ともあれ、誰かいることがわかって一安心です。
そんでもって湖畔観光のコロッケ定食がうまいこと。
じゃがいもってこんなにふっわふわになるんですね。クリームコロッケじゃないのにクリーム並み。近所の惣菜屋さんにあったら毎日買って帰ると思います。
5月末に大阪のど真ん中あたりに到着。
大峯奥駈道とダイヤモンドトレール、まったく様相の違う二つのロングコースでしたが、色々な角度から「食」を楽しめて良かったです!
【北海道上陸まで残り118日・車道最短距離で1066km】
文・写真:森山智仁
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