独裁者の統治する海辺の町にて(1)
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その町の小高い丘の稜線には熱病にかかったように造営された城壁が連なり、海側の先端に質素な二階建ての教会が見えた。ほんの5年ほど前まで、町民は日曜になると中世ヨーロッパを思わせる石畳の坂道を上り、この教会に集っていた。海風は急勾配の坂道を通って空へ抜けていく。そのため石畳には潮の匂いが染みついていた。わけてもその日は前日の雨のせいで坂道の匂いが濃く、生臭くさえ感じられた。その石畳の上に血が飛び散った。党大会において原始共産制の存在を否定した神学者が、この世から抹殺された