馬鹿話#「コンビニの戸締まり」後編
(このnoteは馬鹿話の後半です。)
○遅れてきた後編
さて、大分前に書いた馬鹿話の後半を書こうと思う。正直なことを話せばまったく書こうという気が起きなかった。何せ馬鹿話である。お酒が入った時かよほど暇でないと書く気が起きない。許してほしい。
それにしてもこの年末年始は久しぶりにゆっくりできた。私はAmazon Primeをサブスクし観ることが多かったのだが、最近は「すずめの戸締り」が配信されていることに驚きを覚えた。もう思えば公開は2年前の作品である。その間、私はいったい何をしてきたのだろう。私の思い出は2年前へとさかのぼる・・。
〇街中のヒーリングスポット・・?
ここで前編をざっとまとめると、2年前、私はちょっとふてくされていた。あらゆることから。ついには定職に就くのをバカバカしく思い、コンビニのアルバイトに明け暮れていたのだが、そんな中、私はニュートンよりも素晴らしい発見をしてしまった。
それは深夜のコンビニが実はヒーリングスポットとして機能するという事だ。
どういうことか?それは実際にコンビニに入ってみればわかる。深夜を超えたぐらいの時間帯がなるべくいい。するとそこには煌々とともされたコンビニの灯りの中、ひたすら品出しに追われる店員がいることに気付く。そしてもう一つ。実はそこには静寂が存在している。
そう、静寂だ。現代人が喉から手が出る程欲している、あの静寂だ。そもそも深夜のコンビニは驚くほど音が少ない。コンビニの床と店員の靴がこすれるあのキュッキュとした音、それと店内BGM。それだけ。静けさが支配する空間だ。
しかし悲しいかな、これには欠点がある。それは自分が客だった場合、店員の視線が気になるということだ。コンビニの店員はきっとあなたをちらちらと観察してくるだろう。しかも深夜の店員は目つきが鋭い。米津玄師の目元を十倍鋭くしたような目つきである。たとえあなたが商品を物色したり本をちょっと読んでたんだとしても、すごく居づらくなる。
なので、どうしてもその静寂を思う存分味わい方は、実際にコンビニ店員として働いてみると良い。いつもなら店内のうっとうしいと感じる蛍光灯の光さえも、その時は天からまっすぐ自分の元に届いた神の光かの様に感じられる。つまりそれだけヒーリングと言うか癒しの空間が広がっているという事だ。その瞬間を誰かが絵画にしたためたならば、その絵はどんな中世ヨーロッパの宗教画よりも神秘的な雰囲気を醸し出すに違いない。
〇あるコンビニ店員のヒーリング
時は2022年11月のことである。私は当時コンビニに勤めていた。
深夜のコンビニバイトに入った事がある人ならお分かりかと思うが、夜中の10時頃から納品物がたくさんやってくる。さらに当時はコラボ商品として映画「すずめの戸締り」の関連商品が多かったように思う。私はその膨大な納品物の品出しに追われ、時間をむやみに過ごしてしまっていた。気が付くと時刻はすでに夜中の12時。
すると丁度私が食玩を品出ししている時であろうか、私の耳元にある音楽が流れてきた。それはピアノ伴奏から始まるとても穏やかな歌い出し。そしてこの曲が私をつかの間のヒーリングに導くことになる。この曲は次のような歌い出し。
「神は僕らの心の中にある・・」
のちに調べたことだが、この曲はゆずの「Hey和」という歌の様だ。それにして宗教的な感じ。その、俗世間ではあまりお目にかからない(たまにそういった類の人には出くわすが)響きに私は驚きを覚えた。しかしそれにしてもあまりにも宗教みがするので私は作業に没頭し、聞き流すことに努めた。
しかし私は疲れていたのだろう。その歌を耳に挟みながら作業をしていると持っていたプリキュアの食玩を落としそうになる位私は衝撃を受けることとなる。そして曲が終わった途端に思う。
「なんだ、この安らぎは。」
穏やかなピアノによる伴奏、そして広がりのあるバックコーラス。どこか穏やかな光が差し込んでくる教会にいるような錯覚を覚えた。耳元に届く福音のような歌が私の心に沁みてくる。
あぁ・・この世から宗教がなくならないのはこういった理由か・・。
しかしそうした音楽もまた時間が来れば終わりを迎える。またいつも通りのPOPソングが始まった。すると私の脳内の教会のイメージはすぐさま新宿区や豊島区のちょっと小汚いビル群のイメージにとって代わり、私の頭はリアリティを取り戻してきていた。私は再び作業に没頭しようとする。
しかしそんな中、またしてもヒーリングが訪れることとなる。藤井風の「grace」という楽曲が流れたのだ。知ってる人は知っていると思うがこの歌には次のような歌詞がある。
「助けて神様 私の中にいるなら」
今になってみれば、なぜこれらの歌は、神が自分の中に居る、という形をとっているのだろうと疑問に思うことはできる。しかし時刻は12時を超えた夜中である。しかもちょっと疲れている。想像してみてほしい。私がどう思ったかを。
「神・・様・・?」
そう、すっかり私は受け入れてしまった。すると私の脳内にはふたたび穏やかな光に包まれた教会のイメージが浮かんできた。しかも今度は教会の一席に座りながら、弱い眠りを覚えるような感覚だ。つまり癒しと安らぎである。私は真夜中のコンビニに居ながらして、つかの間のヒーリングを感じたわけだ。
〇ヒーリングに忍びよる恐怖の足音
そんなヒーリングに浸っている最中だった。コンビニの入店音が聞こえた。その音は心地よいクラシックの音楽にいきなりエミネムの怒鳴り声が聞こえてくるような気持ちだった。勿論私のヒーリングタイムは中断させられる。
「なんだよ、まったく」
私は半ばイライラしながら、それまで見ていた商品棚から目線を外し、店内を見渡した。しかしどうだろう、客の背丈が小さいためか、私の視界には映らなかった。「ったく」。私は仕方なしにレジカウンターに入っていった。
それから数十秒を待ってみた。私の視線は青白い光に照らされた店内を捉えている。しかしそこには誰もいない
「誰かが入口を横切ったのだろうか?」
私は気のせいで過ごそうとし、再び持ち場に戻ろうとした。何しろまだまだ作業が残っているのだ。私はこの夜にすべての作業をやり遂げなければならない。
〇不可解な中華まん
再び作業に戻ると私の納品作業はいよいよ折り返し地点を迎える所だった。私は足元の冷凍食品の箱を開ける。いつもだとその箱にはホットスナックの解凍前の商品が入っている。
すると見慣れぬ中華まんがあった。今まで見たことのない具材だ。
「なんだ、これ?」
私は一瞬、不可解な疑問を覚えたが、よくよくみるとそれは新商品であることが分かった。そういえば、店長が新しい商品が入ると言っていたな・・。確か、「すずめの戸締り」のコラボ商品だ。
私はその商品を収納しようと店奥にバックヤードに行こうとした。するとそんな私を呼び止める様に店舗の入店音。
「タイミング悪いな・・。」私は踵を返しカウンターの方に向かった。
〇誰もいない来店
しかし待てど暮らせど、お客は一向にレジに来ない。来ないどころかいない。なぜだろう。すぐさま入店しては出て行ったのだろうか。それとも人がコンビニ入口の前を横切ったのだろうか。
しかしこんな真夜中に・・?
私は不可解な気持ちに襲われた。コンビニの入り口に目を向けた。するとガラス越しに真夜中が広がっている。そうか・・もしかしたら。
私の頭にはある恐ろしいイメージが浮かんだ。実はこの店の近くには火葬場がある。しかもちょっとさびれている。ちょっとホラーな感じだ。もしかしたらその炎に焼き尽くされなかった死人がこの世をさまよっているのかも知れない。もしかしたらその一人がこのコンビニを利用しているのかも知れない。
私の思考は次第に恐怖に支配されていった。背筋に冷たいものを感じる。私の膝は震え始めた。武者震いか・・。いやこれは寒さのせいだろう。季節はもう冬だ。私は自分にそう言い聞かせようとした。
すると突然の入店音・・!しかし誰もいない。私ははっきりとその様子を見てしまった。私は怖くなった。そして極力考えない様にした。しかしそんなことは無力だった。また勝手にドアが開いたのだ。しかも今度はまるで壊れた様に開いては閉じ、開いては閉じ、入店音もひっきりなしに鳴り始めた。そしてそれは誰かが私に何かを訴えかけているような、そんな様子に思えた
「う、うわぁ・・。」
私は青ざめていった。鳥肌が立っている。膝が震えている。余計に寒さを感じる。そして何よりチビリそうになっている。
しかし私はなすすべがなかった。それからずっと入店音は壊れた様になり始めていた。身の危険を感じてはいたが何もしようがない。クソ、こんな時のために塩を持ってくれば・・。そんなことも思ったし、コンビニで私が一人私が倒れている姿を想像したりもした。つまり最悪のことを想像してしまった。ただ、私にはなすすべもないのだ。このままするしかない。
〇そしてハルマゲドンへ・・。
それから時刻は深夜の2時を超えた。時刻は丑三つ時である。その間も私は自動ドアがひとりでに開くのに任せていた。
しかしこの頃合いであろうか。そろそろ作業に見立てがついても来ていた。この調子でやれば朝方五時前には作業が片付く。そんな気持ちを抱いたからであろうか。私の心はどこか勇気を持ち始めていた。それもそうだ。作業の終わりが見え始め、心もとなさがなくなってきてもいたのだ。
すると私は笑みを浮かべた。完璧な独りよがりの勝利宣言であったが、今思うと、完璧な深夜のテンションに突入していたのだ。無理もない。時刻が自国だ。そしてこんなことを思った。
「こうなりゃ、ハルマゲドンだ」
無謀ともいえる、見えざる敵との闘いである。そしてそれは私が勝つか、敗けるかの二者択一だ。しかし、よくよく考えてみよう。店内には、精製塩が売られているではないか。いざとなりゃ私はこれを相手に投げつければいい。もしそれに効果が無くても、そもそもこのコンビニから火葬場は近い。「もし、俺の身に何かあったら火葬場にはこんでくれ・・。」
私はひとりごちた。
そして最終戦争。この戦いに終止符を打つべく一人のコンビニ店員が立ち上がった。そしてそのとどまることのしらない自動ドアに向かって歩き始める。
さぁ、いよいよ。俺とお前の対決だ・・!
〇恐怖の正体
自動ドアはとどまることを知らない。私の膝は震えている。しかし深夜のテンションだけはあった。私が奴と張り合えるとしたら、この一点しかない。私は自動ドアの前に立った。
するとあることに気付く。店の前には「すずめの戸締り」の公開記念を祝うのぼり旗が立てられてあった。それは青々とたなびいている。しかしそれは余りにも激しくたなびいている。風が強く吹いていたのだ。そして思えばその旗は自動ドアにとても近い。。
え・・?
そうだ。つまりそののぼり旗が自動ドアに悪さをしていたのだ。そのせいで何度も自動ドアが開けられ、私はチビリそうになったわけだ。
「な、なんだよ・・。」
すると私の恐怖は怒りに転じていった。最終戦争を覚悟しただけに余計に腹立たしい。なにせ 私は死を意識していたのだ。そんな私を知る由もなく「すずめの戸締り」ののぼり旗がひらひらと舞っている。
「お前が一番戸締りできてねぇじゃん」
〇最後に
話はここで終わりである。あんまりおもしろくなくてもここまで読んだ人はどうかイイねを押していただきたい。意見はウェルカムであるが、面白くなかったという意見は余り送らないでほしい。ショゲちゃうから。