弱小吹奏楽部を追いかけた軌跡 第34話 チームの団結
驚きの全体チューニング・合奏練習が終わり、娘と私は帰宅した。そして今日の練習について色々と話し合いました。
私は娘が鬼となって後輩達に接している姿を見て衝撃を受けました。
1、2年生が我を忘れて必死に楽器へ息を入れている姿。
そしてうまく演奏できない子に対して容赦のない指摘。
まさに昭和のスポコンドラマのような光景です。さすがに暴力はありませんが💦
素直で前向き、上達の早い従順な子供たちだけではないはずです。このままでは大会前に吹奏楽部が崩壊してしまう恐れが・・
娘は部活の他にレッスンへ通い、他の子よりも様々な知識や技能を身につけていました。
自分が中途半端に"できる"がために、"できない"子達の気持ちを理解できていないと私は感じました。
頭ごなしに私の意見を言っても仕方がないので、まず娘の言い分を聞いてみます。
大前提として音程を合わせられないと、そもそも良い音作りなんてできない。
合奏前までにパート練習でレベルアップしてきて欲しいし、パートリーダーはその事に気づいてもらいたい。
本番まであと2か月しかない状況で、緊張感を持ってもらいたい。
1〜2年生は日々上手くなっているが、3年生は人によって温度差が大きい。
他にも個人名をたくさん上げて、それぞれの色んな課題の話をしてくれます。
娘なりに深く考え、全体のことを理解し行動しているようでした。
『みんながヤル気を出すために、発言を少し工夫してみたらどう?』
娘の考えにどうも他責感を感じたので、こう問いかけてみました。
本人はイマイチ腹落ちしていません。完全なる熱血先輩のポジションを突き進んでいます。
『上手くいかない原因の半分は自分自身にあるんだよ?』
私ごとき人間が人生を達観したような言葉を話すのは気持ち悪いですが、親ということで言ってみました。
娘は黙って聞いていました。他の3年生の仲間達とも相談しながら活動しているはずです。難しいミッションに挑んでいるのも理解できます。今は頑張れとしか言えないです。
何日か経過して、ある事件が起きます。
2年生フルートのNちゃんが泣きながら職員室で先生へ想いを伝えるということがありました。
毎日のように先輩からキツい言葉をかけられ、なかなか上達しない自分の不甲斐なさに限界を感じたのでしょう。
『もっと上手くなりたい!』
顧問の先生へ切実に訴えたそうです。
顧問の先生にとっても青天の霹靂だったでしょう。行き詰まって涙の訴えをする2年生達を放っておくことはできません。
先生は2年生達の練習環境を変える決断をしました。
娘たちと2年生は別れて練習をするようになります。
本番まで残りわずかな日数しかない状況で、万が一退部・脱落するメンバーが続々と出始めては悪夢としか言えない状況です。
先生は全体を見ての判断だったのでしょう。
娘には言えなかったですが、この局面を娘たち自身が作り出したこと・結果的に練習環境を変えたこと、これで今年のコンクールで成績上位を狙う夢は潰えました。
まずは緒戦の地区大会突破を目指すことが現実的な課題となります。
6月、本番まで残り1ヶ月。ホールを借りての練習です。
しかし今回は去年と違って保護者の見学は無しです。色々と撮影で試したいことがありましたが、残念・・・
まだまだ子供達の問題を抱えていることが想像できました。
週一で通うレッスンではソロ演奏の部分を先生から教えてもらっていました。
この際、中学生最後の大会ということで、グリッサンドを多用した難易度が高めのアレンジで挑戦することに決めました。
中学生ではなかなかやらない奏法とのことでしたが、ジャズのクラリネットでは良く出てくる奏法です。
地区予選を突破すれば、これが2000人収容のホールへ響きわたることになります。緊張で胸が高鳴ります。
レッスンの先生はプロのジャズクラリネットバンドを運営し、プレイヤーとしてもメンバーの中心人物です。何度もライブへお誘い頂き、素晴らしい演奏で楽しませてもらいました。
期待は高まる一方です。
地区大会当日まで残り33日となった日、子供達はカウントダウンの数字と絵をA4サイズの用紙に描いて、音楽室の壁に張り出していきました。
上手にイラストを書く子供もいれば、ガチガチの和風で筆書きをする子もいます。
それぞれの個性が出ていて興味深いです。
残り約20日前くらいでしょうか・・・
ついに娘の我慢は限界に達してしまいました。両目を真っ赤にして腫らした状態で帰宅したのです。
私『どうした?何があった?』
娘『3年生皆んなで泣いてきた』
娘はなかなか子供達のパフォーマンスが上がらない状態に、強い危機感を持っていました。
そんな中、ホルンの3年生Mちゃんが部活中ずっと練習ではなく、楽器の手入れをしていたようです。
Mちゃんは優しい3年生です。後輩にキツい言葉を話すキャラクターではありません。また本人の上達スピードは極めてゆっくりです。
後輩に本音で正直に話さないこと、本人の演奏レベルが上がらないこと、極め付けは練習時間に楽器のお手入れで部活時間を全て使ったこと。
これに対して娘の我慢の限界を超えてしまいました。
『楽器の手入れは家でやって❗️』
異変に気づいた他の3年生が教室へ集まり、同級生だけの緊急ミーティングが行われました。そしてついにお互いの不平不満が爆発し、腹を割って本音の話し合いに。
たった6人の同級生です。吹奏楽部において1人1人の重要度は非常に高いはずです。
6人はお互いのわだかまりを解くまで徹底的に話し合い、徹底的に全員で泣いたそうです。
キッカケとなったホルンのMちゃんは、家で練習させてもらえなかったようです。音がうるさいため親から嫌がられていたとのこと・・
やる気を出して、『明日までこの部分を完璧に仕上げるぞ!』なんてことができません。
でもそれは仕方がないことかもしれません。その家のルールというものがありますから。
長年の弱小吹奏楽部の伝統が、色んなところに息づいています。
3年生たちが泣きながら激論を交わしている様子を、他の学年の子たちは隠れながらも見ていたようです。
ようやく本音でお互いを認め合った子供達。チームが団結を始めました。しかし緒戦の地区予選はもう目の前です。