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弱小吹奏楽部を追いかけた軌跡 第35話 奇跡を信じて

 数々の試練を乗り越えてきた吹奏楽部は、いよいよコンクールの時を迎えます。

 3年生6人は入部した頃とは見違えるようにたくましく成長、最後の戦いへ向かいます。
 2年生は今回のコンクールで大きく成長しそうな予感がします。
 1年生はもう一杯一杯w

 朝の音出しと合奏練習で最終確認を行います。なかなか良い感じに仕上がっています。

 会場は車で40分ほどの少し離れた場所にある市民ホールです。
 去年とは別会場で、響きが違うという噂でした。
 楽器の搬出入は舞台袖からではなく、客席最前列の両端から階段で登っていきます。 
 あまり見たことがないホールの作りで驚きましたし、各学校の保護者サポート部隊が懸命に打楽器を運搬していました。
 この保護者たちにもそれぞれの物語があるんだよな〜って思うと、心から応援したくなります。

 娘たち吹奏楽部の出番は10団体中9番目です。幸運にも最初の出場団体から全てを鑑賞することができるスケジュールでした。
 楽器運びを担当してくれた1年生の保護者さんに感謝です。

 そして最初の団体が演奏をスタート。
 私が感じた、素人に毛が生えた程度の評価です。

 最初は市内のR中学校です。部員は約10人程度ですが、一生懸命さが伝わってくる素晴らしい演奏です。人数が少ないため、演奏技術の未熟さが分かりやすく出てしまっていました。

 2番目はO中学校。曲の頭がサックスのソロから始まる曲でした。なんと明らかにリードが合っていない感じで・・しかもソロが長めの珍しい曲でした。本番でこんなミスが起きるのかと、衝撃的でした。

 3番目は私の母校G中学校です。人数か少なくて泣けてきます。来年度を最後に他の中学と合併する運命でした。卒業生として思い入れのある私に冷静なジャッジはできませんでした。

 4番目はS中学校で、とても綺麗な音を出していました。しかしタテが合わないようで、緊張のせいか急に走り出す奏者がいました。

 5番目のK中学校は中低音が厚い印象です。まとまっている感はあるものの、全体的におとなしい感じです。

 6番目は地元のNK中。ここは先生の趣味でしょうか、毎回明るい雰囲気の曲を演奏してくれます。奏者が楽しそうです。演奏も悪くありません。

 7番目は妻の母校、I中学校です。隣にいる妻はどんな心境なのでしょうか。
 山奥にある学校ですが、演奏曲は『蒼き海と船乗り』
 少人数ながらメリハリの効いた演奏で良かったです。

 8番目はA中学校。人気曲の『マードックからの最後の手紙』に挑戦です。奏者がとても少なく、音程も外れてしまい、残念ながら演奏が崩壊気味でした。

 そして我が吹奏楽部の出番がやってきました。
 クラリネット・フルート・サックスと木管チームの出だしから始まりますが、良い雰囲気を出しています。
 金管チームが途中から入りますが、トランペットの音程がやや外れていて、おとなしい感じ。緊張しているのか・・
 例のホルンMちゃんも懸命に演奏しますが、音量が不足しています。
 娘のソロが始まりました。グリッサンド全開で駆け抜けます。
 終盤に入りますがなんとか皆んな持ちこたえながら終了。
 他の団体と比較しても悪い方ではなさそうですが、圧倒的に上手とは言えない印象。

 最後は同じ市内のF中学校でしたが、子供たちを迎えるために会場を出てしまい、鑑賞できず。

 ひとまずロビーで子供達に声を掛けて、保護者同士、感想を話します。皆さん何とも言えない表情をしています。安堵感で一杯のようです。

 昼食後に審査結果発表・表彰式があります。娘たちにとって会場で結果を知るのは初めての経験です。昨年、一昨年と感染症対策のために表彰式はありませんでした。

 そして表彰式が始まりました。各中学校の生徒代表者1名がステージに整列します。
 子供達は固唾を飲んで見守っています。それは我々もまったく同じ。
 会場はいつの間に超満員になっていて、立ち見のお客様もいます。

 演奏順に代表者はステージを移動し、表彰状を受け取る流れです。ステージ上を移動している間に、県大会出場のための推薦の可否が発表されます。
 
 今年は前年度支部大会へ進んだ団体がいたことから、県大会への切符は1つ増えて5団体です。10団体中、半分が天国と地獄に分かれてしまいます。

 最初は市内のR中から発表です。代表の女の子がステージを歩いていきます。
 推薦はありませんでした。女の子は悔しくて泣いています。全団体の発表が終わるまで、正面に立っていなくてはなりません。
 他校の事ですが、何とも胸が苦しくなります。

 2番目のO中、3番目のG中も落選です。4番目のS中が落選した時は会場が一瞬ため息に包まれました。お客様の評価は高かったのでしょう。

 この段階で残り6団体中、5団体が県大会への推薦をもらえることになりました。
 かわいそうですが8番目のA中学校の演奏が今ひとつだったため、娘たちは次の上位大会へ進めると私は確信しました。

 子供達はそんなことを知りませんし、冷静に分析している子なんていないでしょう。
 ずっと皆んなで手を取り合い、祈っています。

 5番目のK中、6番目のNK中、7番目のI中が推薦をもらいました。
 残りは3団体、そして8番目のA中が落選。娘たちは微動だにしません。騒がないように先生から忠告されていたのかもしれません。

 そして9番目の娘たちは無事に県大会への推薦をもらいました!
 大きな歓声が上がりました。2・3年生は全員泣いています。1年生は笑顔一杯です。
 右隣の妻と、左隣の3年フルートHちゃん母も泣いています。しかも号泣です・・

 全員が客席を離れ、ロビーに集まります。そこには歓喜の輪が出来上がっていました。
 
 顧問の先生と目が合いました。私に向かって笑顔で何度も頷いてくれます。私も両手でガッツポーズです。

 まるで映画のワンシーンを見ているようでした。崩壊寸前まで落ち込んだ吹奏楽部が、奇跡の復活を果たした瞬間でした。

 先生が叫びます『県大会まで二週間だよ!全力で頑張るぞー!』

 先生、生徒、保護者が一つになった瞬間でした。
 娘はずっと泣いています。ここ1ヶ月、理由はどうあれ泣きまくっている娘です💦

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