新作歌舞伎FFXを観に行ったら、ちゃんとFFXが歌舞伎になってるし観客席は回転するしFFX未プレイの歌舞伎ファンが号泣してた
オオアカ屋、よろしく!
どうも、きすけ(鳥)と申します。
「新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX」、皆さん見ましたか?おそらくなんですが、FFXは遊んだことあって興味はあるけど、歌舞伎か……と迷っている人が結構いるんじゃないかと思います。
自分は先日鑑賞に行ってきまして、どうだったのかというと、これが、もう、期待を越えに越えすぎているぞと、迷っているまま見ない決断をするのはヤバいぞと、そういうわけで俺の熱意を伝えなければと、そう思ってこの感想記事を書くことにしたわけです。
ここでは、自分が「新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX」を見てきて感じた、圧倒的なFFXと歌舞伎のコラボレーション体験について熱意のままに語っていきたいと思います。
参考までに、自分は歌舞伎は全くの素人で、知識ほぼゼロで見に行きました。ちなみにFFXは一回クリアまでプレイしたのみ。こっちも超やりこんでたってわけではないですが、今回の記事はFFX経験者の目線から、「FFXのことは好きでストーリーとかは知ってるけど、歌舞伎をあまり知らなくて行ってみようか迷っている人」に向けてお話しようと思います。
歌舞伎は大好きだけどFFXはしらないよって方は、公式のYoutubeチャンネルに上がっている解説を見ておくか、当日にプログラムを買ってあらすじとキャラクター一覧に目を通しておくだけで楽しめると思うのでぜひ行ってみて下さい。しかし!後編の解説、あらすじはどっちかと言えば見ない方がいいかもしれません。重大なネタバレが入ってましたので!
歌舞伎でFFX、できてた?
はい、わかります。そう思います誰しも。自分も少し不安だったんですけど、とりあえず結論から言います。
えー、ぶっちゃけ、相性抜群でした。FFXだからこその和との融合させやすさと言いますか、他のFF作品にはないあの独特な雰囲気だからこそ、歌舞伎との相性がめちゃくちゃに完璧でした。
世界観がかなり宗教的で、それでいて異世界の浮遊感を感じさせる味わいなので、ぶっ飛んだ宗教的世界観を再現するのに優れた歌舞伎には、うってつけだったんじゃないでしょうか。
あと当然すべての原作付き舞台作品にそうあってほしいものですが、この作品は企画・演出・脚本そして主演を務める尾上菊之助さん含め関わっている方たち全員の原作に対する理解度が非常に高い(原作を一回しかプレイしたことのない自分よりも断然理解している)ので、全体の雰囲気を損なわないまま、限られた上演時間のなか、生舞台という制約で、歌舞伎の要素をしっかり取り入れて新たに解釈されたFFXを形作ることができていました。
以下では細かいところに踏み込みながら、歌舞伎という伝統芸能との見事な融合、そして舞台に落とし込むうえでの演出に感じた面白さについて話していきますが、とにかく一言でこの作品を表すとすれば「原作のツボをしっかり抑えながら、歌舞伎という伝統芸能の魅力と、圧倒的な舞台上の表現技術を駆使して再解釈された、もう一つのFFX」と言えると思います。
伝統との融合
FFXが歌舞伎になるということを知った時の自分の最初の反応は「か、歌舞伎になっちゃうの!?FFXが!?」でした。
そりゃそうでしょう。もともと歌舞伎に対して持っていたイメージが古風な言い回しと立廻りと見得くらいしかなかった解像度ガビガビの自分には、到底二つが融合して出来上がるもののイメージがつかなかったからです。後々調べて新作歌舞伎というジャンルの存在をはじめて知ったくらいですから。
そんなわけで、歌舞伎をほぼ知らない自分はどんな感じになるんだと期待半分不安半分で会場に足を運んだのですが、実際に見てみると、なんとこれは、凄い、うまく融合してる。
・歌舞伎特有の演出
歌舞伎には見得や立廻り、あと自分がこれまで知らなかったものでいえば六方やぶっかえりなんていう独特の演出があったり、ツケといって木板をカカンと打ち鳴らすアレもある(アレは動きに迫力をつける演出だったんですね、実際アレによって立廻りから感じる緊迫感が倍増してました)のですが、この辺の演出がもちろん作品を彩り、形作るわけですね。
そんで見に行く前の自分は「そういう演出と古風な言い回しだらけで、置いていかれるかも……」とか思っていたわけですが、そんなことない。そういう独特の演出や言い回しは場面的にもかなり盛り上がっているタイミングで登場し、平常時は現代語でお芝居してくれます。ティーダなんかは普通に「~ッス」っていうし、ワッカが「なァんで寺院に、ア、機械が、アんだよォ~(イヨ~っ、カカン)(見得を切る)」なんてことはなかったです。
セリフがいかにも歌舞伎な感じになる場面もあるのですが、激熱な戦いが始まる前の盛り上がりに向かうところなどで使われるので、歌舞伎でしか演出できない勇ましい心の高鳴りを感じました。
通常の進行はわかりやすい言葉で、盛り上がりの場面では存分に歌舞伎らしい演出を使うことで、鑑賞のしやすさと歌舞伎ならではの盛り上がりとキメを両立しています。感覚的には普通の舞台鑑賞をしながら、重要な場面では歌舞伎の面白さも味わえるって感じですね。なにそれ新作歌舞伎って最高やん。
・衣装とキャラクター、そして女方
歌舞伎というわけなので、当然キャラクターのスタイルには歌舞伎らしさを出していかないといけません。歌舞伎なのにルールーの胸元がガン開きだったら、集中できないでしょ?
そのため、モブ含む各キャラクターの衣装やメイク、ヘアスタイルは、隈取や髷など歌舞伎テイストを取り入れたアレンジが施されているわけですが、これがまた秀逸。
原作と照らしてみても違和感がなく、しかしながら一目みて「歌舞伎っぽいな」と思わせる雰囲気を漂わせています。
公式ビジュアルの立ち絵だと正直違和感を感じるキャラクターもいましたが、動いているところを見ると皆本当に自然で、歌舞伎の場に降り立ったそのキャラになっています。
ちなみにモンスターたちも時折舞台に上がってくるのですが、こいつらはモンスターそのまんまの形で出てきます。人が入ってるんだよね?その動きで?ってなります。あ、でもシンのコケラは原作とすこし違っていてかわいいので見に行くときは楽しみにしていてください。
また、FFXにはいくつかの種族が登場しますが、彼らのそれぞれが独自の衣装テーマを持っており、統一されたイメージのもとに衣装が制作されています。特に、アルベド族なんかは、まさに歌舞伎っぽい江戸っ子な衣装で登場します。シドさんの衣装すきです。
そして、衣装とメイクで仕立て上げられたビジュアルに演技が乗ることでその魅力はさらに増していきます。おそらく不安材料のナンバー1という方も多いであろう女方(女性を演じる男性役者)についてですが、これは女方役者さんの技量が凄すぎて一瞬で不安吹き飛びます。てか女より女です。
ルール―やリュックは、クールなお姉さん、元気っ娘というそれぞれのイメージをしっかりと感じさせる演技でしたし、ユウナはまじでユウナでした。これは見に行ったら分かります。ユウナなんですマジで、信じてください、そこにユウナがいました。
女方に限らず、他のキャラクターもしっかりと原作を理解し取り込んでいるプロの歌舞伎役者さんが演じており、原作通りの、いやそれ以上の(?)生き生きとした様子で舞台を駆けていました。
舞台装置の活用
さぁ、前項冒頭ではFFXが「歌舞伎」になったことに存分に驚いておりましたが、考えてみればそもそも、根本的に重要なことがここに起きているのですが、お気づきでしょうか。
それはFFXが初めて、舞台で、実写で演じられているということです。歌舞伎にしろそうでなかったにしろ、実写の舞台にティーダたちを立たせる試みそのものが、FFXにとっては初めてだったわけです。
実写キャラクターの違和感のなさについては上で語ったので、次は舞台装置がどんなふうに活用され、場面を彩っていたかを述べていきます。
・ぐるぐる回る観客席
今作が上演される舞台は、東京は江東区の円形劇場「IHIステージアラウンド東京」。こちらの劇場はなんと、日本で唯一の観客席が回転する舞台なのです。観客席を取り囲むように舞台がありまして、円形の内側にある観客席を載せた円盤がぐるりと360度、回転します。まずこの体験が凄い。
この劇場にくるのは初めてだったので、動いているのを感じるたびに「おお」と言いそうになってました。言ってたかも。実際のところはこの回転は、全然気づかないぐらいスーッと回ってくれます。
さてこの回転する観客席をどう生かすのかというと、まず一つ、スムーズな場面転換です。
FFXってまぁ色んなところに行くじゃないですか、旅、なので。これは想像ですが、一つの舞台セットで場面切り替わりの度に暗転して大道具を引き入れて、出してってやってると時間めっちゃ使いますよねきっと。そこで回転を有効活用です。
円形360度の舞台にメインとなる下地のセットが三種類くらい分けて配置されていたと記憶してるんですが、それらのセットが回転によって入れ代わり立ち代わりで隠れ、現れることで、スムーズに物語が進行するんですね。三種類のセットそれぞれに特徴があって、毎度毎度そのセットをフル活用した演出があるのも面白かったです。
そしてもう一つの利用方法として、歩きながらの会話シーンにおける活用がありました。FFXはパーティメンバーの誰かとティーダが一対一で歩きながらしゃべる場面がちらほらあります。その辺の再現を、観客席の回転と役者さんの歩きの動きを合わせることで行っています。
普通の舞台なら役者が歩いてったら舞台から消えちゃいますけど、それに観客席が追い付いていけるんですね。
前述した場面転換のスムーズさを、さらにこの会話シーンが補ってくれています。歩いてたら本当に次の目的地(セット)についちゃいます。そんな感じで、観客席の回転が結構演出の上で役に立ってました。自分なんかは幼稚なので回転するだけで楽しかったです。遊園地のティーカップは嫌いなんですけどね。酔うので。
セットもそれぞれ特徴があって楽しいよって話をさっきしたと思うんですが、特にブリッツボールの決勝戦の場面は、そう表現するのか!って面白さがありました。選手がちゃんと泳ぎます。ホントです。
・ミストに映像が映る!?
舞台では、演出に煙が使われることが多いです。だれかが消えるときとかに煙を発生させて、隠しながら舞台袖に向かうとか。
ただ今回のこのFFX歌舞伎では、霧以外にも神秘的なミストが演出に使われており、さらになんと、このミストを映像を投影する膜としても利用しているんですね。最近だと呪術廻戦って漫画の舞台版でもそんなのやってた気がするんですが、やはり最近は技術も進歩してきたのでしょうか、思っているよりきれいに映像が映っていました。自分は正面よりまぁまぁ左手側の席だったので、若干映ってるものが見えづらい場面もあったにはあったんですが、大半はしっかり見えました。
この演出、やる場面がいちいち上手いんですよね。たとえばグアドサラムにある異界でチャップとかと対面するシーンだと、ヒュルヒュルと降りてきたミストにチャップが映ります。ミストのミステリアスさも相まって、ますます異界という感じでした。
あと何とか送りとか、何とかーニャの森とか、みんな大好きな場面でも使われてるんですけど、その辺は劇場でのお楽しみということで。
ストーリー
これが一番気になっているという方もいると思うのですが、限られた時間の中でどのようにストーリーを紡ぐのか、これは全ての原作付き舞台が抱える問題ですよね。
こと今回の原作はゲーム。プレイヤーが自分の手で進めるので、アニメや漫画と違い、それぞれの人に独自の体験と物語があります。しかも50時間とか優に超えてきます。
ですが今回のFFX歌舞伎の上演時間は12:00開場の21:00閉場と、たったの9時間しかありません。はいそこ、ビビッて逃げない。ちゃんと休憩がところどころ挟まるので、実際には6時間くらいです。
50時間を超えてくるゲーム体験を、いかにして6時間に収めるか。これはもう、仕方のない事ですが、テーマを絞るしかない。
・テーマは「親子」に焦点を
ゲームのFFXは色んなテーマをはらんでいます。過去の過ちと未来の償い、人種問題、親子関係、それと自己犠牲、あと、レベル上げとか。この辺が大きなテーマでしょうか。
実際にゲームをプレイすると、この大きなテーマ達のそれぞれに、ゆっくりと触れ、立ち止まり、考える時間が与えられていたように思います。
FFX歌舞伎においても勿論、レベル上げを除いてそれぞれのテーマに触れていく場面は用意されているのですが、特に親子関係、ここにテーマを強く置いているように感じました。
親子と言えばもちろん、ティーダとジェクトでしょう。ユウナとブラスカもそうですね。この辺りの親子の話にフォーカスしつつ、オリジナルストーリーとして、シーモアの親子関係の話も出てきます。
父であるジスカル老師と、そしてシーモアの母親との間の話ですね。やりこんでた方は多分察しがつくのですが、シーモアが歪んだ狂気を内に秘めるまでのストーリーがゲームよりも丁寧に描かれます。
そういったオリジナルストーリーにも支えられ、新作歌舞伎としてのFFXは、親子の物語である、という見方を自分はしました。
もちろん見る人によってビビッと来る部分は様々だと思うので、自分のテーマを探してみるのもよいと思います。
・ストーリーはわかりやすい
ちゃんとテーマが伝わるように、ストーリーは非常にわかりやすいです。
あの難しい話を分かりやすくできるだろうかと思っていましたが、こまかな単語の解説、1000年前の戦争とザナルカンドなど、分かりにくさを助長している複雑な構図については、そういう場面が設けられて丁寧に語ってくれており、既プレイの自分もよりはっきりとした理解が改めてできました。
そういう場面では話し方も、もともと歌舞伎がそうであるようにゆっくりはっきり、滑舌よく話してくれるので、ストーリーの記憶が薄っすらという方も、よくかみ砕きながら構図を再び思い出せるはずです。
後で聞きましたけどそもそも歌舞伎のファンの方にもしっかり伝わってましたからね、それくらいわかりやすく話は展開してくれます。
・分かってても泣くし、分かってなくても泣く
やっぱりFFXって、感動するじゃないですか。究極召喚の真実が分かるとことか、ジェクトの不器用な愛情とか、アーロンのかつての旅の結末とか。もちろんその辺の名場面はしっかり残っていて、自分もところどころ泣きそうになりながら見てました。
隣のFFファンの女性も、後半はハンカチ片手に鑑賞してましたね。わかる、涙腺に効くシーンが結構ありました。素直に感情を揺さぶられるのは、違和感のない素晴らしい役者と演出あってこそだと思います。
ところで自分がこの舞台に行くうえで一番気になっていた部分が、果たしてこのFFXのストーリーは、初見の歌舞伎ファンの人にしっかり伝わり、涙させることが出来るだろうか、というところでした。
やっぱりFFXのファンとしては、歌舞伎好きにもこのストーリーの良さが伝わってくれ!と思うわけですが、如何せん年齢層も高めで、FFのお話がうまく刺さってくれるかなぁ、という不安がありました。歌舞伎の畑の人たちに「物語の面白さがよく分からなかった」なんて言われてたら立ち直れないよ俺たち。
さてそんなわけで、私はひとり歌舞伎の畑の人に目をつけておいて、どんな反応するかっていうのをちょっと観察させていただきました。おまわりさん、俺です。
なんで歌舞伎の方だってわかったかというと、実は上演前に少し歌舞伎の解説が挟まるんですね。23代目オオアカ屋が語り部を務めるのですが、幕が上がる前に「オオアカ屋、よろしく!」とふらっとやってきて、いろいろお話してくれます。その時に歌舞伎見たことないよって方、FFXをプレイしたことないよって方、手を挙げて!ってそれぞれ確認する場面があったのですが、それのおかげで何となく、ふむふむ周りはこんな感じかと、どっちの派閥か把握できたわけです。
ちなみにちゃんと歌舞伎もFFXも両方履修済みって方もちらほらいました。強すぎる。
そうして歌舞伎のファンの方だってわかった人の反応をちょくちょく見ていたのですが、やっぱり見入ってしまうと客席をちらちらする暇なんてありませんね。席が前の方なのもあってかなり没入していました。
いよいよ物語が最終盤に突入し、あの最後のティーダとユウナ対面の場面。あー、ヤバい、無理、目がグッとなる……。とか思ってると、視界の端に例の歌舞伎ファンの方が見えました。
ハンカチを、持ってる。顔を、拭ってる。
全然杞憂でした。ちゃんと伝わってました。
普遍的なテーマなので、どこの畑の何のファンとかは関係ない。みんながみんな、それぞれの思いで感動できるストーリーでした。自分はさながらアルベドを全然理解しようとしないワッカでした。歌舞伎ファンは別物なんじゃないかとか思ってました。ごめんなさい。
FFX歌舞伎は最高だった
改めてなんですが本当に最高の作品でした。こういう生の舞台系の余韻ってすさまじくて、終わった後絶対もう一回行きたくなってしまうんですよね。これは配信とかDVDとかで見ても感じられない、生で見るからこその余韻だと思います。あの空間にもっと居たかった……。
まとめとなりますが、歌舞伎にして大丈夫かなぁと思っている方、安心してください。間違いなく楽しいです。終わった後は必ずもっかい行きたくなると思います。あの舞台で確かに歩き、葛藤し、そして生きるティーダと仲間たちを、ぜひ、生の舞台で、見てあげてください!
そして今回の企画を考えた尾上菊之助さん、並びに演じてくださった役者の皆さんと裏方、黒子さん、脚本や音楽を演出してくれたすべての人たちに、感謝したいです。こんな素晴らしい舞台を作り上げてくださって、本当にありがとうございました!
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