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ウマ娘以降の、競馬界隈の入口にたたずむひとたちにお贈りする競馬ちょっといい話

というタイトルを付けはしたものの、30年前に出た書籍の紹介です。そこ、なーんだ、とか言わない!

だが、馬は人以上に愛を知っている。人以上に信頼すべきものに対して誠意を示す。人以上に自分の使命に対して勇敢であり、使命から逃れようとはしない。人以上に我慢強く寛大で律義である。そうしたことのすべてが、現在の人間に最も求められているものでもあるのではないだろうか。

これ、どういう文脈で書かれていると思いますか。前段はこう。

馬は人のように手を使って器用にものをつくることはできない。馬は草食動物として限られた世界観のなかで生きている。それだけに人と比較すると極めて単純でナイーヴな存在であることは否定できない。しかし、それは進化史においてそのような必要性がなかったからで、馬が草原の中だけを生活圏としてきたので青から黄色までの色しか判断できないのと同じである。
だが、馬は人以上に愛を知っている。

って続くんです。よくない?

同じ本を、別のところから引用します。

遠くから暴走してくる馬に出合ったとき、その勢いと馬の興奮状態にとても恐ろしいものを感じるが、それでも馬は私の手前で停止するか、私を避けて走っていく。これが車なら馬ほどの興奮を伝えないにもかかわらず、確実に私を轢き殺しているだろう。

筆者が実際に「遠くから暴走してくる馬」に遭遇した経験があるとは思いませんけど、情景としての説得力があると思うのは、もちろん私がこの書き手にシンパシーを抱いているからで……どんなもんですかね、フラットに見たときの、この文章。
なんか分かる気がしません?(賛同が得られるまで聞き続ける奴)

故人(生没年1939-2017)をしのぶ会におけるスピーチで、最晩年に得た愛弟子が次のようにことばを選んで、筆者のひととなりを語っています。

何と申し上げますか、非常にラジカルな精神をお持ちの方でしたので、なかなか周囲の理解が追いつかない、という側面もあったようです (出典)

出席者各位の苦笑が目に浮かぶ情景。
「知ってる」「いやというほど知ってる」
……そういうひとの作品が一筋縄でいかないのは、まあ当然の帰結で、いまや著作のほとんどがSF傑作選を除くと絶版の憂き目にあっており。

ウマ娘を経由して競馬に関心を持つひとが増える世の中においてこそ、諸作品を紹介する甲斐がある、と長年の読者として思うものの、正面からのレビューではどうにも魅力が伝わる気がしない。かといって、いまさらツイッターbot作るのもなあ。
というわけで、僅々200ページ弱の書籍『サラブレッドの誕生』(朝日選書1990、著者:山野浩一)を、のんびり紹介してみるか。と思い立ちました(結局5回分になった)。

競馬は一面で親子という神の領域のものをもてあそぶものであるが、それがやはり神の領域のものであることを知らされるのは、あまりにも親子がよく似るからであり、時として全く似ないからでもある。サラブレッドの血統は作るものではなく、できてきたものを知るものというべきだろう。

最後の一文の口調が懐かしい。
「サラブレッドの血統は作るものではなく、できたものを知るのだ」ってすんなり書かないところなー。

Texts quoted, all from the book shown above, except as otherwise noted.

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