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小さな望遠鏡(口径60mm)で出来る事。

先月、小さな望遠鏡がうちに来てくれました。口径60mm(焦点距離480mm)の屈折望遠鏡の鏡筒です。

とある望遠鏡SHOPで見かけたジャンク扱いの小さな望遠鏡。鏡筒の上には汚れがあり、至る所も埃だらけ。接眼レンズを差し込む接眼レンズホルダーの内側にも埃。そして、対物レンズの直径4分の1ほどの面積にコーティングのヤケが見られる「ジャンク望遠鏡」だったんです。凄く悲しい雰囲気が纏わりついていました。

「ねぇ。ボクはどうなるの?こう見えても昔は頑張っていたんだ。でも、長いこと宇宙からの光を集めてなくって…。だって小さいからね。使ってもらえていないの。…ねぇ。ボクはどうなるの?」

ハレー彗星が回帰した頃に見かけたような…そう、あの頃はいろんな望遠鏡メーカーさんが元気でした。造りも良く、なによりもメーカーさん同士も切磋琢磨していました。本気で作った良い物が多かったように感じます。

SHOPの社長さんが口を開く。
「これ、一週間ほど前に誰か使う人がいたら持って行ってくださいって前のオーナーさんが置いていったんです。」と言う。
続けて、「たまたま○○さん(私)がおいでいただいたタイミングでこの子と目が合ったっていうのは何かの縁かもしれませんね。これ、持って行きますよね?( ̄ー ̄)ニヤリ」

私:「あぁ、ちょうどこのくらいの長さの筒が欲しいと思っていたんですよね。いいの?持っていっても?」

そういったやりとりがあって、不思議な縁を感じて、この小さな筒をお持ち帰りしてきました。

翌日。
この子(望遠鏡)を清拭しようと分解清拭に取り掛かりました。まずは対物レンズのコーティングのヤケをどうにかしようとしましたが対物レンズセルが鏡筒パイプから外れず断念。対物レンズはこのまま使う事にしました。ドロチューブ(接眼筒)は全て分解、清拭、磨いて、摺動部分の調整をしました。ドロチューブ(接眼筒)は各部分の構造や小さな部品が真面目に作られていて、調整後は滑らかに摺動し、ドロチューブロック機構は小さな力で確実にロックし、光軸のズレも無い良品であることも判明しました。ドロチューブ内部(延長筒・接眼レンズホルダー含む)を洗浄、清拭し、内部に入り込んでいた埃を取り除きました。多少汚れがあった鏡筒パイプも綺麗に磨いて、見違えるような白さを取り戻しました。


「うわぁ、嬉しいなぁ。ボクはまた星の光を集めることができるんだね。もうちょっと頑張ってみるよ。新品の頃とまではいかないけれど、ボクが宇宙を覗き見るお手伝いができるかもしれないよ?」


うん、わかった。キミができる範囲でいいからね。じゃあ、動き易いように少し部品を揃えてみるよ。
必要なのは、鏡筒バンド・アリガタプレート・天頂プリズムなどの周辺部品でした。幸い、死蔵していた鏡筒バンドを発掘でき、他の望遠鏡に付けていたアリガタプレートや天頂プリズムをしばらくの間借り受ける事にして、この小さな子に星の光を通して見せてもらう事にしました。

そして晴れ間がやってきました。(2023年9月18日)
昼間の景色を見せてもらいました。遠くのビルの上にある避雷針の先端が太陽の光を鋭く反射しています。
22倍----スッキリと綺麗!色づき(色収差)も分からず、ほんと綺麗。
66倍----避雷針の左右にも色づき(色収差)が分からない。そして先端の小さな反射光が丸くて綺麗。「ん?こりゃ凄いぞ?」
120倍----避雷針先端の鋭い反射光の周りには…なんと「ジフラクションリング」が見えている!まじかっ!

夜。
土星を見ても、木星を見ても、みずがめ座ζ星(二重星)を見ても、見ていて全部気持ちいい。光学性能は60mm屈折望遠鏡の教科書的な性能が出ている。文句のつけようがないってば。
光害の多い自宅のベランダで淡くて小さい球状星団が見えるか?と思ってしまい、おひつじ座のM30を導入…できた。見えてる。ぼぉーっと見えている。びっくり。口径60mmでも見られる天体はちゃんとあるんだね。

「キミ、マジでスゲぇや!うちは狭いベランダとか明るい場所なんだけど、他にも星の光を集めてくれるかい?」

小さくても、古くても、倍率が低くても、その子に合った対象を選べれば出来る事は多くある。

大切なのは「星空に向けて見るか/見ないか」の二択なのかもしれません。


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