香りがうまれるところ. 3 開聞山麓香料園さん No.2
日本の山は定期的に人が入り、間伐をすることで様々な材木の枝葉を落とし、薪風呂だったり釜でご飯を炊いたり、自分たちの生活に活用してきました。そして山は荒れることなく生態系も保たれ、精油の原料も山から採取されていました。
青森で出会ったヒバの精油もそう。(青森ヒバ、と言われるほど有名)
秋田から白神山地に入り、”青い森” 青森に抜けたときに出会いました。
癒されるというより、”浄化される”に近い感覚の香り。香りに色を付けるなら”青”かも。なんの創造性なしw
(ちなみに生薬名としてはアスナロ)
他に日本の山で取れる、香りの樹木として上げれるのは
「スギ」「クロモジ」「ヒノキ」「モミ」あとなんだろう・・・
と、今回の本題からかなりズレそうなので戻します。
・前回に引き続き、鹿児島県指宿市にある開聞山麓香料園さんの続きです。
もともと曽田香料さんの鹿児島農場で、前回写真で紹介した”芳樟”の栽培を大規模に行なっていました。芳樟は日本に自生していなかったので、台湾から持ち込んだ種から栽培を始めたようです。芳樟の主成分リナロールが高級香料ということで主にヨーロッパにも輸出していた歴史もあります。
(詳しい歴史はこちらより↓↓)
(最近40年前の香料が見つかったそうです!熟されてまろやかにいい香りのものもあれば、そうじゃないものもありました)
・約150kgの芳樟の葉から1500ccほどの精油が取れるので、国内・国外市場に出すためには相当数の芳樟の本数が必要。”葉”って軽いじゃないですか、それを100kgまで集めるのも大変!なので当時、広大な土地が必要だったんです。しかも指宿は温暖な気候なので芳樟には適していた。
(これはティーツリー。これだけ束になると重そう・・・)
(ローズゼラニウム 丁寧に一つ一つカット)
・前々回のvenustar organicsさんもそうなのですが、除草剤等の農薬を一切使用しないため今の時期は草刈りが大変・・・。
「芳樟は木だからほっといても雑草に侵食されることはないけど・・・」と宮崎さん
とは言え、芳樟以外の植物も栽培しています。
(ローズマリーの収穫)
「草をはやしていいところと、刈るところがあるので、うまくバランスを取りながら。冬は逆に草を生やしておいてく。レモングラスは霜が降りないようにマルチの代わりに冬越しをして春に草を取ります」
(レモングラスは少し冬越しに気を使います。周りに草を生やしておけば、虫たちもそちらに行ってくれる)
・香料園の作業は主に親子でされており、園長の泰さん(父)と、副園長の利樹さん(息子)で行なっているけどやはり大きな作業のときは人手が必要なので、近所にいらっしゃるグラフィックデザイナーのサザナミさんもヘルプで。
(野菜の種を巻くため畑を耕す園長)
(草刈り中のサザナミさん)
(サザナミさんにかっこいいレモングラスの刈り方を教えてもらいました)
・利樹さんは元々は香料園にあるカフェの調理をしていました。
社会に出る頃ちょうどイタリア料理が大流行しており(イタ飯って言葉がありましたね!ティラミスとか!)、食べるハーブっていうのか注目されてて調理の勉強をした方がこれからはいいかもしれないと思い、調理の学校に行くことに。
(園内カフェのハイビスカスのシャーベット、おいしい!)
当時の香料園は食用としてのハーブ生産が主で(東京などに出荷)、精油は年に1回採油するかしないか。つまり使う人はいなかったため、なかなか売れなかったのです。
それが・・・約10年前ほどにアロマテラピーの波がやってくる。
・10年以上前からアロマテラピーは日本でもあったんだろうけど、ヨーロッパから入って来たものだから日本産の精油にスポットが当たることはなかったのかもしれません。
(上、HPよりお借りしました。下の写真は昔の香料、"soda" "イランラン"と書いてますね。)
話題が芳樟に戻りますが、
クスノキから取れる樟脳の香りは知ってますか?
ちょっと強くて、鼻の奥がツンと刺される感じがします。そしてちょっと懐かしい感じ?
芳樟もちょっと懐かしい感じがするんですが、ツンとせず優しくて甘すぎずとても心が落ち着きます。つまり鎮静効果が高い。
(わたし芳樟のオイルで練り香水を作ったことがあるんですが、なぜか沈香の香りに似てて落ち着くという友人たちの声)
と書いても、文章でも写真でも映像でもなかなか伝えられないのが香り。
感じないとわからないのが香り。
そんな香りの、アロマの世界にまさか自分が関わるなんて夢に思っていなかった、と利樹さん。
「そのとき思ったのが人生、決めつけちゃダメだなあって・・・もちろんこの道で行く、という姿勢はとてもいいんですがそこにあまりこだわり過ぎるのは自分はちがうかなと思って。ちょっと柔軟にというか、窓口は開けておいた方がいいかなと。」
・これまで通り、ハーブを育てることにはなんら変わりはないけど、outputが変わるだけ。柔軟だからこそ突然やってきた、
天然香料を求める
波にうまく乗ることができたのかもしれません。と言っても、蒸留とアロマの知識も、技術もほとんどないところからスタート。
私は香りは好きだけど本格的なアロマテラピーを自分ではやらないです。そういうサロンに行ってブレンドしてもらうのは好きですが、いろんなオイルを集めるのにコストがかかってしまいます。
いろんな精油を試すのは好きなので、試供品で試したことはあります。
そこで気になったのが、なぜ当たり前のようにmade in 外国 なのか?
「種類が日本にはないんです。アロマテラピーで欲しい成分がなかったら、どうしても外国のものを買う、というふうになります。そのため日本産はなかなか広まらない」
「日本は樹木系が多い、そうすると限定されてしまう」
そう、冒頭で書いたヒバ、クロモジ、ヒノキ、スギ、モミ等
んーー、、ヴィーナスターの永仮さんとお話させていただいた時と同じ疑問というか思いが出て来たので利樹さんに聞いてみました。
日本人にそんなにたくさんの成分というか、種類が必要なのか?
野菜と同じく香りも”地もの”がいい場合もあるのでは?
(もちろん輸入ものを否定するわけではなく)
と。
「最近はアロマセラピストさんにもそう考える人が出てきました。食べ物だってそこで採れたものの方が体質にあっていたりしますよね?つまり、その土地でできたものを取り入れる方がいいんじゃないか?アロマの勉強会でそんな声が出てきて、国産の香りを取り入れようって人が増えて来ています。」
ヨーロッパから来たからいい、というものではなく、日本にアロマの歴史がなかったので国産の香りにどういう効果があるのか調べた人があまりいないという実情もあるようです。
日本が、というより世界規模で香りの研究は遅かった。
19世紀に入って、化学療法がメインになりそこで目に見えるものだけ、結果が数字になるものだけが研究対象になり、香りの効用に科学的に光が当たるのは20世紀後半。
「これからエビデンスが出てくれば、安心して使えるようになりますよ。やはり、感覚ではいいと思っていても実際使うとなると躊躇する人もいるだろうし」
実際に、今、この香料園のレモングラスと芳樟の精油の香りの医学的な効果をある医療機関に研究してもらっているようです。学会でも興味深い発表が行われているようなので、医療の現場で”香り”が心身に役立つようになれば本当にすばらしいですね!
患者も病院の人もお互いの境界線超えて一緒に癒される
”共感力"が香りにはあり、”心”が動く
人が病気を治すには、心ってとても大切だと思います。
ただ、医療で使うには保険適用とかエビデンスという大きな壁があるので少し長い道のりかもしれませんが、多くの医療関係者に興味を持ってもらえたら・・・。
そして8月には同じ指宿市にある、芋焼酎をつくる老舗
大山甚七商店さんで、香料園さんの芳樟が使われたジンが販売予定です。
芳樟は、エッセンシャルオイル以外での利用はほとんどないので、このような取り組みは世界で初めての試みと言っても過言ではないでしょう。ということです!
利樹さんの、香料園の、窓口がいくつか開かれようとしていますが、まだまだ香りとハーブの可能性がこれから増えて行くことを願います。時代が多様化してきているので、今までにない使い方があるはずなんです。
香料園自体の魅力ももっとたくさんの人に知ってもらいたい。意外と鹿児島の人が知らなかったりしてもったいないなあと思います。この森では日常では感じれない芳しい香りと森林の静かな息づいがあるので、日々忙しくやかましく(笑)しているなあって思ったらぜひ足を運んでみてください。この精油の香りがこの植物かあ、と生息の確認をするのはなんだか豊かになります。
(マグノリアも見れますよ。これは果実ですが、デザインが・はみ出し感がすごいです)
定期的に収穫体験・蒸留見学会をやられているので、その機会で訪れるのもいいかも。蒸留の際に出るハーブウォーターがもらえますよ。次回は秋だそうです。
(芳樟の収穫体験)
いろいろ興味深いお話を伺ったのですが、長くなりすぎるのでいつか何かのタイミングで書いてみようと思います。
・7月26日に香りの講座があるようです。
「芳樟とクスノキ〜その歴史と利用法ぜひ、お近くで興味がある方はぜひ参加してみてください!
次回は 蒸留 について書いてみます。
https://note.com/kisohsen/n/n56a042499dfb?magazine_key=m5be646a5688e