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樹木の首が絞まる理由(わけ) 後編

最初に結論を言ってしまうと、
幹の、巻き付けた資材の上がふくらみ、
その下が細い、
というケースで起きているのは、
光合成でつくった糖が、
締め付け部よりも下に移動できずにたまっているから、
なんですね。

ですが、糖を全く下方に輸送できなかった場合、
それよりも下にある組織は、
エネルギー不足で、
そのうち生きていけなくなるはず。

だから、幹の一部がひどく圧迫されていても、
光合成でつくった糖の一定量は
下に降りているのだろうと思われます。

それでも、糖の通路を遮られ、
下に行けない糖は、
資材の巻かれた部分のすぐ上に
どんどんたまっていき、
その部分の材が太ってきます。
で、あんな風な形になるのでした。

もう少しだけ、話を続けると。

木は、葉で光合成をしています。
そこで稼いだ糖を
下方に輸送する通路は、
コルクの樹皮のすぐ内側にある
「篩部(しぶ)」という組織です。

その通路を通って、
糖は幹の下の方や、根に向かって
輸送されているわけです。

参考までにいうと、
篩部は、生きた細胞で構成された組織です。

一方、土壌中から、
水や水に溶けたミネラルの類いを運ぶ通路は、
木部(もくぶ:材の部分)にある
「導管(どうかん)」です。

導管は、最初は生きた細胞だったのですが、
その細胞が死んで、中身がなくなり
トンネル状(空洞)になってはじめて、
水の通路として機能することができます。

ときどき、木に薬剤を注入したら、
ぐるぐる循環して、効いている!
みたいに言う方がおられますが、
それはたぶん気のせいです。

木の輸送は一方通行なんですね。

水(ミネラル・窒素とかリン酸とか)は、
下から上に向かって移動し、
光合成でつくった糖は、
上から下に向かって移動する。

だから、ぐるぐる循環する、
と言ってしまうと、
ちょっと違うような気がします。

それはさておき。
木って、地味な、地道な存在なので、
日々、光合成しつつ
必要なことをコツコツやりつつ、
静かに暮らしています。

だから、日々、年々の変化には
人間は気づけないことが多いです。

で、あるとき、変化に急に気がついて、
「ええっ! いつの間にか、
こんなに大きくなっちゃって」
とかいいます。

ですが、人間にそう言われると、
木はとても困ってしまうのです。

きっと、そんなときの心の声は、
「今頃、気づいて、そんなに驚くなよ」
だと想像します。

人間のためにも、知ってほしいな、
と思っていること。

木は、年々少しずつ材をつくり、
成長しながら生きています。

バーム・クーヘンの年輪が、
外側に、一年輪ずつ増えて、
直径が大きくなっていくイメージです。

だから、伸縮性のない紐とか、ワイヤーなどを、
木の幹にくくりつけておくと、
早ければ、数年も経たないうちに
首締めがはじまり、
年々、その圧迫が強まっていきます。

木はかしこいし、
いろんなことができるので、
飲み込めるときは、
ぐっと飲み込んでしまいます。

ですが、それがムリだった場合、
圧迫する資材を
はずす手はもたないので、
首を絞められるまま、になります。
それは気の毒ですよね。

なので。必要ならば、
資材を巻き付けてもらってもよいです。

その代わり、ときどき、様子を見てあげて下さい、
苦しいことになっていないかどうか。

紐やワイヤーのすぐ上がひどく膨れているのは、
「そろそろ限界よ! なんとかして!」
という、助けての叫び声です。

すでにそうなってしまったら、
できるだけ早く
紐やワイヤーは取り除くか、
付け替えましょう。

最後に、人間への影響でいうと、
首締めは、木の安全をおびやかします。
極度なケースでは、そこで折れますから。

けっきょく、木のために、は
人間、自分のためでもある、という、
いつもの結論になってしまいました。

これが早く、みんなの常識になればいいな、
と願いつつ、
ヒムロの代弁の記事を終えさせて頂きます。

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