公立病院改革5-10【事務長職の極意を見る】〈2008年〉中国地方S病院 104床

事務長のお話を聞いていくと、S病院が今日に至るまでどれだけ工夫し、ギリギリ黒字を保ち続けてきたか。
その努力や工夫の甲斐なく、いま現在わずかな赤字に転落しつつある、そこで防ぐために何をしてきたか。

事務長のお話は、財務分析や施設基準の改善というようなミクロ的な話では無かった。
医療情勢の動きを捉えて、いまある人員と財政状態の中で施設基準、人事政策を組み立てていく。

そういう限られた経営資源を最大活用していく、病院マネジメントの全てがあった。

その事務長の必死の知恵と、寝食を削って地域医療を保持する院長の想いが、この病院のギリギリ黒字を支えてきていた。

地域医療を、自分の病院を、これだけよく知っている事務長がいて、コンサルは何をすべきなのだろう。
本気で今回、委託業務を受注した意味とすべきことを、改めて考え直さないといけなかった。

僕は、公立病院の事務長をちょっと低く見たり、かじったばかりの施設基準への薄っぺらい知見を恥じた。
この事務長との出会いは、今日に至るまで、僕に数多くの気付きをもたらしてくれた。

つくづく、現代は病院経営のみならず、諸方面において「長く見てきている人」が少ない。
人がすぐに変わってしまうから、ノウハウも長期的視野も何もかもが蓄積されない。

データが残っていても、その残ったデータをじっくり解析して引き継がねば意味はない。
結局あらゆる業界や地域で、人が去る都度に未熟者たちが未熟な仕事を転がしている光景が、散見される。

この事務長が一人いることで、数多くの医療や業績が守られてきたことを、議員たちも行政も理解していないのだ。
理解していないから、病院からではなく議会や行政から、コンサルを入れて何とかしようという発想になる。

しかし我々は、業務としてここに来たのだから、ともかく、全力で取り組む以外にない。

いいなと思ったら応援しよう!