【R18】それを恋を呼ぶなら 第2話「その吐息は甘く切なく」
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生まれつき体が弱くて、状態が悪くなったら病院へ入院し、快復すると家に戻ってくる。その繰り返しだから、あまり学校へも通えていない。そんな事情でも成績は悪くない。でも、だから友人もできない。伯父さんは静かな声で僕に教えてくれた。
彼女のことを思い出すとき、真っ先に浮かぶのは、いつも着ていた丈の長い白いワンピースだ。長い綺麗な黒髪がほっそりした肩にかかり、白い足がワンピースの裾から伸びていた。色の白い小さな顔。笑ったのは見たことがない。大きな目で見つめられると、いつもどきどきした。そして…。
家の二階には、僕と母が暮らす部屋、それに彼女の部屋があった。入り口のドアは、風を通すためなのか、いつも少し開いていた。僕はしばしば、ドアの隙間から彼女の部屋を覗いた。気づかれないように、そうっとだ。
彼女は、部屋の向こう側にある開け放った窓から庭を眺めていたり、窓に向けて置いた椅子に座って本を読んでいたり。読んでいたのは参考書かもしれない。覗いている僕に背を向けていたから、よく見えなかった。
広い芝生とひまわりが咲いている庭で、蝉の声を聞きながら遊んでいるときに、ふと、視線を感じることがあった。振り返って視線の元を探す。するといつも、二階の窓から彼女が僕を見下ろしていた。僕が気づいても彼女は目を逸らさない。逸らすのはいつも僕のほうだ。
家の廊下で、庭で、どこかで彼女とすれ違うと、彼女は必ずじっと僕の顔を見つめてきた。見つめられるとどきどきしてしまい、顔が熱くなって、僕は彼女と目を合わさないようにした。だから僕がゆっくり、彼女を、その姿を眺められるのは、彼女の部屋をこっそり覗いているときだけだった。
♢
ある日の、よく晴れた日の午後のことだ。僕はいつものように彼女の部屋を覗いていた。しんとした廊下を風が抜けていく。母は朝から出かけていて、伯父さんもいない。一階に伯母さんがいるけれど、テレビでも見ているのか、休んでいるのか。遠くから蝉の声が、彼女の部屋の、大きく開け放った窓の外から、風に乗って入ってくる。
椅子の背もたれと彼女の髪と肩。白い腕。髪が風に揺れる。白いスカート。白い足。裸足だった。
僕は彼女を見つめる。見つめ続けた。彼女は動かない。
何をしているんだろうと、ふと思った。本は読んでいないようだ。庭を眺めるときは、窓辺に立っている。今は椅子に座っている。さっきからずうっとだ。窓に向いて座ったままだ。
彼女の白い足。あれっと気がついた。スカートがたくし上げられ、ほっそりした足が、膝の上あたりまで見えていた。彼女の手は、まくったスカートの中にある。かすかに動いている。真っ直ぐに背中を伸ばして座ったままで。
どきっとした。唾を飲み込む。見てはいけない。よくわからないけれど、僕は今、見てはいけないものを見ている。そう思った。でも、目を離そうとしたのに、見るのをやめられない。彼女から、スカートの中で何かをしている彼女の手の動きから目を離せない。
息を飲んでじっと見つめていたら、それに気がついた。かすかに聞こえてくるそれに、蝉の声に混じって、それが、かすかな息づかいが聞こえた。手を動かしながら、彼女は、ため息をついている。何度も。
具合が悪いのかなと思った。声をかけようかどうしようか。具合が悪いのなら伯母さんを呼ばなくては。でも、何か違う。これは、そういうことじゃない。当時の僕は、まだ何も知らない子どもだった。子どもでも、わからないながらも、本能的にそれを悟った。
伯母さんを呼ぶのはやめた。廊下に立ち、ドアの隙間から、僕は固唾を飲んで見つめ続けた。彼女の手と白いスカート、剥き出しになった白い膝とふくらはぎ、わずかに見える白い太ももを見ていた。
どれぐらいそうしていただろう。彼女の肩がビクッと、そして動きが止まった。そのまま動かない。はあ…という、ため息が、蝉の声に溶けていった。
喉がカラからに乾いていた。彼女に気づかれる前に、僕はその場から離れた。
ジーンズの前が張っていた。足を動かすと生地が擦れて痛かったので、そうっと歩いた。僕のそこは、これ以上ないほどに固くなっていた。
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