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【R18】それを恋を呼ぶなら 第6話「眠れないのは君のせい」

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 彼女との秘密の遊戯にふけるようになってから、夜が更けても眠れなくなった。ゲームもやる気が起きない。目を閉じれば、彼女の白い太ももや白い胸や、あの大きな目が浮かぶ。そして、僕のこの手が、指が覚えてしまった感触…彼女の太ももの、濡れてヌルヌルになった中心と、胸の柔らかな二つのふくらみの感触がまざまざとよみがえってきて、ベッドに横たわる僕を苛むのだ

 そして…キスをしたことも。僕のファーストキス。生まれて初めてのキス。ああ、眠れない。

 隣のベッドで寝ている母に気づかれなように、彼女を思い浮かべながら、横たわったまま自分の体を、パジャマの上から股間を触ってみる。そこはすでに固くなっていた。どうしようもない。

 秘密の遊戯のたびに、パンツの中がベトベトになってしまうのは困った。洗濯は母がしてくれる。でも、こんな、べっとりした生臭い液がいっぱいくっついている下着を母が見たら、きっと変に思う。いったい何をしているのかと怪しむに違いない。

 もしも…もしも母に、彼女と、沙耶さんといやらしいことをしているのを知られたらまずい。絶対に知られてはいけない。

 だから、彼女の部屋から自分の部屋に戻ると、僕は真っ先にトイレに駆け込んだ。トイレでパンツを脱ぎ、ぬるついた臭い液を洗面所でこっそり洗い流した。固く絞ったパンツはまた履いた。濡れて不愉快な感触がするのは我慢した。

 夜。悶々としながら彼女のことを考える。今頃どうしているだろう。ぐっすり寝ているかな。夢でも見ているかな。

 彼女がいる部屋は、廊下に出て、まっすぐ、突き当たりを左に曲がってすぐのところにある。

 ああ。会いたい。

 開け放った窓から涼しい風が入ってきた。この家は丘の上にあって、八月だというのに夜になるとひんやりした。朝まで窓を開けていると寒いほどだ。

 両親と暮らした家は都会の住宅街にあったから、熱帯夜が幾晩も続く真夏には、冷房を入れておかないと暑くて眠れなかったのに。

 遠くから虫の声が聞こえる。静かだった。

 …何か聞こえたような。窓の外から、虫の声に混じってかすかな声のようなものが聞こえた気がした。猫か、犬かな。横たわったまま耳を澄ます。何も聞こえない。気のせいだったみたいだ。

 眠気はやって来ない。今夜も朝まで眠れないのか。

 また聞こえた。今度は、はっきり聞こえた。ハッとなって体を起こす。気のせいなんかじゃない。彼女の声だ。沙耶さんの声だった。

 そうか。彼女の部屋の窓も開いているんだ。だから、だから?

 なぜだろう。なぜこんな深夜に彼女の声がするんだ。

 伯父さんたちの寝室は一階だ。二階は大学生のお兄さんの部屋と彼女の部屋、それに僕と母が住まわせてもらっている部屋がある。お兄さんは今はいない。だから僕たち以外は彼女しかいない。彼女は自分の部屋に一人で住んでいる、はずだ。

 今、僕がいる部屋と、彼女の部屋の位置関係を思い浮かべてみる。二つの部屋の窓は、距離は離れているけれど同じ方角にあった。

 そうか。だから聞こえたのか。でも、何をしているんだろう。

 また聞こえた。泣いている?いや違う。これは、この声は、あのときの彼女の声だ。秘密の遊戯のときの。

 固くなっていた僕の股間がもっと固くなった。
 
 ひとりでしているのかな。こんな夜中に。きっとそうだ。僕がここに来る前は、彼女は一人でしていたんだから、そうに違いない。

 悶々しながら耳を澄ます。また聞こえた。いたたまれなくなった僕はベッドからそうっと起きた。ゆっくりそうっと床に降りて、裸足のまま入り口のドアまで行く。風を通すためにドアはいつも少しだけ開いている。そのドアをそうっと開け、常夜灯に照らされたほの暗い廊下に出た。

 耳を澄ます。何も聞こえない。彼女のあえぎ声も聞こえてこない。

 ゆっくり、そうっと、彼女がいる部屋へ向かって歩き出す。足音を立てないように、そうっと。

 廊下の端まで来た。左に行けば彼女の部屋、右は一階に降りる階段がある。

 曲がり角から顔だけを出し、彼女の部屋の様子をうかがう。昼間は開いていたドアは閉まっていた。

 閉まっていたら覗けない。どうしよう。ノックしたら…訪ねて行ったら怒るかな。怒らせたくはないけれど、会いたいな。顔だけでも見たい。

 一歩、踏み出しかけたその時、物音がした。ドアノブの音だ。ドアが開く。僕は急いで顔を引っ込めた。足音を立てないように、急いで廊下を戻る。自分の部屋に戻るには遠かった。隠れる場所は無い。だから常夜灯がのあかりが届かない暗い位置で、壁にくっつくように張り付いた。

 ドアを開けた人物が、さっき僕がいたあたりを、廊下の突き当たりを通り過ぎた。階段を降りて行く。なぜか足音を忍ばせるように。そうっと、階段を降りて行った。

 僕は母が寝ている部屋に戻った。そうっと自分のベッドに戻る。横になって耳を澄ます。しばらくそうしていた。でも彼女の声はもう聞こえなかった。聞こえてくるのは虫の声だけだった。

 たった今、自分が見たものを思い出してみる。その意味も。

 彼女の部屋から出てきたのは…伯父さんだった。


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第7話「君のそばにいたいから」へ続く


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