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呪術としてのセルフネイル

最近、セルフネイルにハマっている。
爪を飾るのはとてもいい。様々あるオシャレの中でも自分の目で直接全容が見れるので楽しいし、私は手がそもそもデカいので、ネイルをすると強さが倍増になる気がして気分がアガる。華奢で繊細な手指はとうの昔に諦めた。

もともと自爪が薄く弱く、すぐ折れて短くなってしまうし、爪の形も反っているという難点もあって、マニキュアが向いていない。大体がじっとしていられないので、乾くのが待ちきれず失敗していた。なのでジェルネイルが登場したときは、本当に嬉しかったものである。

とはいえ、ネイルサロンというのはそこそこハードルの高い場所である。短くはない時間をネイリストさんとサシで対峙しなければならない。ヘアサロンと違って手の自由を奪われるので、施術中スマホを見たり本を読んだりに逃げることも難しい。めちゃくちゃ苦痛というほどではないにせよ後回しになりがちで、たとえば髪の毛には差し迫った状況が定期的に訪れるけれど、爪は無視しようと思えばできてしまう。まあまあお金もかかるのでなおさらだ。かように「行けない理由」をいくらでも捻出できる。
なので盛り上がっているときはサロンを探してでもやりたいーいますぐネイルしたーいとなるものの、そうでもないときはそうでもないものなのである。

思えば、ネイルするとなんかめちゃくちゃアガるのは、この「やらなくても特に死なない」ことを敢えてやるからこそなのではないかと思う。
ギャルなどが爪を異様に長くして過剰に飾る文化があるが、あのようなロングネイル、日常生活などに明らかに尋常でない不便が生じているはずで、つまりそうしたデメリットを引き受け自らに制限を課す縛りによって、本来の実力以上の力を引き出し、威力を底上げしているわけである。生活の中で役立つ「呪術廻戦」。

で、話を冒頭に戻すと、そんな感じで長らく適当にしていた爪だったが、セルフジェルネイルがここのところのマイブームとなっている。昔は高価だった道具類も、今は百均で大抵のものが揃えられるということを知り、俄然やる気が再燃。技術的なことはYouTubeにいくらでも解説動画がある。
さらに、そうして情報を集めるうちに、「ポリジェル」と呼ばれるものがあるということを知った。

ポリジェルは、爪の長さ出しが簡単にできるという、粘度の高い合成樹脂のことである。いくらジェルネイルといえど、基礎部分の自爪が弱いとすぐ剥がれたり綺麗に仕上がらなかったりするのだが、ポリジェルはもうその土台のところから整形してしまおうというものだ。
爪の形をした専用の型に樹脂を引き伸ばし、爪にはりつけそのまま固めた後、型を剥がし取ると、カーブも厚みも理想の爪が現れる。作業難易度も低く1分もあれば完成する。
そこにジェルネイルを塗布すると、本当につるりとなめらかな、少しの乱れもない爪になり、思わずうっとりしてしまう。丈夫でしっかりと爪と一体化しているので、そうそう剥がれ落ちることもなく安定感がある。一定期間美しいまま劣化がない。

メリットばかりのようだが、安定感がありすぎて、オフがしずらいというのは難点でもある。しがない自由業、誰に咎められるでもないのでオフ面倒ならそのままつけておけばいいのだが、単純に今ハマりたてなので、いろんなネイルデザインを試してみたい。何より、このちまちまと自分の爪を作り込む工程が、ある種の精神安定になっているような気がするのだ。

ネイルを施すには、それなりに時間もかかる。机の上にLEDライトややすりやブラシ、ジェルを拭き取るスティックやペーパー、エタノールなどの道具を並べ立て、まず自らの爪を整えるところから始める。最終的な完成まではどのくらい工程があるだろうか。決められた手順をいちいち踏むのは、念を込めることにも近い。完成すればパワーが得られる。呪術的である。
完全体両面宿儺のように指が20本あれば……と歯噛みする毎日である。生活の中の「呪術廻戦」。


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岸田志野
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