【こんな映画でした】343.[天国の門]
2021年 8月30日 (月曜) [天国の門](1980年 HEAVEN'S GATE アメリカ 216分)
マイケル・チミノ監督作品。公開当時、不評で一週間で上映が打ち切られたという。もっともその尺は、編集されてこのように長いものではなかったらしい。私も長いのと、中味のしんどさに一気には観られなかった。
それにしても、何とも凄まじい。こんな映画を作るという、この監督の気骨に驚かされる。こんな勇気のある人間がいるのだ、と。これが事実だとしたら、アメリカ史の汚点であり、アメリカ人たちは決して見たくない歴史事実ということになる。で、上映打ち切り。もちろん儲からないからという理由だろうが。
その汚点をひとことで言えば、金儲けのために東部の人間たちが、ワイオミングに合法的に流れ込んできた移民たちを排除(殺すこと)しようとする、いや排除した歴史である。もちろん移民の中には、生活苦から牛泥棒となった人たちも存在した。1890年のシーンは、いきなりその牛泥棒として一人の男が惨殺されるものだ。
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一度オープニングシーンに戻ろう。時は1870年のハーバード大学の卒業式である。演説シーンがある。国家のために尽くそうという理想論が語られる。愛国心を掻き立てられた学生たちがそれぞれの場所で生きていくことになる、と示唆するものだ。その際の代表演説をした男の、なれの果ても後で出てくる。
その式のあと中庭で卒業生たちが「美しく青きドナウ」に乗ってワルツを踊る。これには驚かされた。アメリカでウィンナワルツなのだ。調べてみるとこの曲は1867年に作られているようで、すぐに伝わっていたということか。それだけヨーロッパとアメリカは結びつきがあったということか。
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映画の作り方としては、タップリと一つ一つのシーンを見せる。これでは長尺になるのも無理はない。そのかわりあわてる必要がないので、こちらもゆっくりじっくりそれらのシーンを観ることができる。悠揚迫らざる、といった感のある映画の作り方。大したものだ。
俳優は主人公ジョンにクリス・クリストファーソン(撮影当時42歳くらいか)、エラにイザベル・ユペール(撮影当時26歳)でとても魅力的だ。ネートにクリストファー・ウォーケン(撮影当時36歳)。
ラストの見せ場は戦いのシーン。素人が元軍人もいる傭兵たちと果たして戦えるものか。結果としては途中から駆けつけたジョンの作戦もあるにはあったが、全滅といっていいだろう。
戦いの終わった荒涼たる無人となった場所に流れるのは風と砂埃と、アレンジされていて耳をすますことでようやく聞き取れるメロディー、すなわち「美しく青きドナウ」なのである。華やかな卒業式と無残な虐殺現場との対比を、同じ曲でつないでいる。
このあとジョンとエラとが出発しようとするところを襲撃され、エラは死ぬことに。これで1870年は終わる。
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ラストシーンは飛んで1903年。船上でジョンがその妻(ワイオミングでは写真立てで登場?)と居る。その妻にタバコの火をつけてやったあと部屋を出て甲板に。そしてフェイドアウト。4分ほどの異な時間と場所とを映し出す。傭兵たちとの戦争やエラの死の衝撃を緩和させるかのように。
原題は意味深である。平和な楽土へのゲートなのか、はたまた戦いの末に死んでいく(殺されていく)その先のゲートなのか。いずれにせよ「門に似た狭い通路」ということで、幸せへのゲートは狭いものだろう。それが現実だ。
なお史実としては「ジョンソン群戦争」と呼ばれているとのこと。映画はその一部を描いているのだろう。ネット上で見たが、映画[シェーン]も同じ場所での同様の事件を描いたものだ、と。開拓者が攻撃されて、土地を離れていくというところか。規模の違い・戦い方の違いはあるが、同様のことなのだろう。