見出し画像

【こんな映画でした】917.[わたしは、ダニエル・ブレイク]

2017年 4月12日 (水曜) [わたしは、ダニエル・ブレイク](2016年 I, DANIEL BLAKE 100分 イギリス/フランス/ベルギー)

 ケン・ローチ監督作品。観に行って良かった。予想・予感はしていたが、やはり観るまでは確信を持てないのだから。

 題名は原題通りであり、妻を失った孤独な59歳の失業男性が主人公。であるからこそ女性と子供二人の一家との関わりが重要になってくる。この母親で女優(ヘイリー・スクワイアーズ)が魅力的である。もしそうでなければ、この映画は生きてこなかっただろう。やはり映画はキャスティングだ。

 最新の「ビッグイシュー 308号」の「世界短信」によると、イギリス(イングランドのみ)での路上生活者の人数は、公的な数字でも4000人とのこと。イギリスは民主主義のお手本の国だと思っていた。この映画を観て、これが民主主義なのか、これが民主主義国家と言えるのだろうか、と強く思った。

 民主主義というのは幻想だったのかもしれない。つまり、みんなが幸せになれるシステムとして、現歴史的段階ではこれ以上のものはないと考えていた。

 しかしどうだろう。この公務員たちの仕事のやる気の無さ・親身さの無さは。絶望的だ。ダニエルも言う。彼らは失業者の人間としての「尊厳」を冒涜するのだ。 そこで題名のように、自分のアイデンティティとしての名前を強調することになる。

 人間にとっての最後の砦である「尊厳」を踏みにじる。踏みにじられた人々は、手当を受けるために甘んじてその屈辱を受容するしかない。ダニエルのように拒否すれば、手当の不支給どころか、処罰されると脅してくるのだ。

 国家の私たち国民・市民に対する立ち位置がよく分かるところだ。国家にとって私たちは、労働の義務を負ったロボットに過ぎないのだ。かつて「ゆりかごから墓場まで」と言われた英国が、いまやこの体たらくなのだ。

 最後の決着は、予想通りであった。悲しいけれどこれが現実なのだ。そして残された人々には、なにも解決されないまま。すべて放置されたまま。これが市民が主役のはずの、民主主義の結果なのだ。

 あと何でも書類の申請は、パソコンからアップロードするしかないという設定になっていた。そうなのだろうか。パソコン難民、特に年寄りや貧困層はどうすればいいのか、と暗然たる気分になってしまう。

 この先、日本でもそのような時代が来るのであろう。このイギリスの公務員たちよりは、まだましな日本社会であることに感謝すべきか。

 「優しくしないでほしい。心が折れてしまうから」とケイティ。その通りだろう。難しいものだ。

いいなと思ったら応援しよう!