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【こんな映画でした】1029.[ブルックリン]

2018年 6月 2日 (土曜) [ブルックリン](2015年 BROOKLYN 112分 アイルランド/イギリス/カナダ)

 ジョン・クローリー監督作品。なるほどこれは良い映画。批評家たちもそのようで。久しぶりに一致した。内容的にはしんどいものがある。アイルランドというのはやはり差別されていたのだろうか。そのあたりの世界史的な知識がないので。いずれまた。

 彼らアイリッシュが集まって住んでいるのが、このブルックリンというわけだ。日本風に言うなら「県人会」のような互助システムがあり、彼らを支えている。エイリッシュ(シアーシャ・ローナン)もそんなアイリッシュの女性が一緒に住む「寮」に。そこでの食事時のやりとりが面白い。

 宗教的にはかなり厳しいものがあるようだ。しかしその神父の紹介でアイルランドからニューヨークへ行くわけだ。要するに、アイルランドでは仕事がないということ。姉のローズはかろうじて簿記の仕事があったようだが。

 ブルックリンでの仕事は百貨店の店員。愛想のない彼女に上司が細かく教えていくシーンが何回か出てくる。テレビドラマ[純と愛]での夏菜に対する吉田羊を思い出す。

 後の展開はもう若者たちのことだから、お定まりの恋愛ものへ。そこへ姉の死の知らせ。帰郷。そこでのラブアフェア。そして再びニューヨークへ。トニーと再会・結婚。ストップモーションで映画は終わる。

 一つあとで考えると意味深だったのは、寮での部屋の割り振り。寮母にあたる女性が、一人の寮生のボーイフレンドについて批評を述べていて、つまりあまり好ましい男性ではない、と。

 その後彼女が寮を出たのか、ともかく外から出入りできる唯一の部屋、地下室といっていたが、そこにエイリッシュが入れることになる。で、何度目かにトニーに送ってもらった後、というか彼の結婚したいという希望を受け入れて、その地下室に、本当はいけないとされているのだが、招き入れ結ばれる。

 その時、一瞬他人の目というか気配を感じるが、エイリッシュは心配ない、と。でも実は寮母の女性がチェックしていたのではないか、と私も気が付いた。もちろん暗黙の了解が得られたからであろうが。

 ファッションは、1950年代のそれであろう。エイリッシュの服装では、緑色のコートが印象的であった。グリーンは私の好きな色である。映画が進んでいくにしたがい、エイリッシュの生活は安定していき、明るい色調の服、たとえば黄色とかに変化していく。あとメイキャップなども変えていってるとのこと。

 涙なくして観られないシーンの一つに、クリスマスの日に、アイルランドからやって来たもはや若くない男たち、彼らは橋やトンネルを作ってきた、と神父がエイリッシュに紹介する。どちらかというと生活に疲れたうらぶれた風体の彼らをもてなすシーンは印象的だ。

 生活のために新天地アメリカへ、アメリカンドリームを求めてやって来た人たちである。アメリカンドリームなど実はどこにも存在しないのだ。彼らはこの一日かぎり食事と酒を供され、故郷アイルランドを思って、その歌声とともに涙するわけだ。

 もっとも本当に涙していたのはエイリッシュだけで、あとの男性たちは深く刻まれた皺の顔で、ひたすら涙を出さないように、そして孤独に耐えているように見えた。――いずこも同じ。移民たちの大変さが描かれている。

 ラストシーンは原作の小説『ブルックリン』(コルム・トビーン 白水社 2012年)とは違えてあるとのこと。映画的な表現方法と文学的なそれとの違いであると、ジョン・クローリー監督は言う。

 結局、エイリッシュはアメリカという場所を選び、トニーという男性との人生を選択したのであった。逆に言うと、故郷アイルランドと母親に別れを告げ、同胞のジムとの人生は選択しなかったということに。

 監督は「人生には犠牲がつきもの」のように言っていたが、それは言葉の本来の意味の犠牲ではない。残酷なようだが、人は皆、自らの幸せのために「選択」をするのである。
その時、選ばれなかった場所や人は、それを犠牲とは言わないだろう。致し方ないことなのだ。それが人生なのだから。

 ただ監督は、だからこの映画はハッピーエンドとは、簡単には言えない、と。これはその通りで、本当はどんな事柄でも完全なハッピーエンドなどないのだ。誰かがどこかでアンハッピーである可能性があるのだから。

 次のようにあった。
「これをハッピーエンディングと呼ぶことはできないだろう。母親との別れやジムとのいきさつを見てきたからね。そこがこの作品のいいところだ。おとぎ話じゃない。人生は選び取ることができる。だが犠牲が伴う。」

 だからみんな謙虚に、お互いのことを思い合って生きていかねば、ということにもなるのだろう。映画のラストは、これまでにもシアーシャ・ローナンの映画ではあった彼女のナレーションで終わる(映像はストップモーション)。
「and you'll realize that this is where your life is.」

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