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映画ベルファストを見る

赤穂には幸いなことに映画館が一つだけある。
駅前の小さな商業施設のなかにあり、スクリーンも3つある。これは転地療養の地として街のサイズ感を考えたらとても良い条件の一つだ。

しかし上映ラインナップはほとんどアニメ、邦画、吹き替え洋画と、子どもやライトな層を意識したもので、ベルファストのような「滋味な」洋画ともなると少し遠出する必要がある。
選択肢は2つ。兵庫県は姫路に行くか、岡山県に行くか。どちらも赤穂から車で1時間以上はかかる。映画を見るのもなかなかの大事(おおごと)なので、この間いくつか「絶対みたい映画」を見逃してしまった。

ウェス・アンダーソンの新作「フレンチディスパッチ」やアメリカンユートピアなどがそうだ。
なんとか見ることができた映画「ベルファスト」のあらすじは、以下。

アイルランドのベルファストに住む主人公の少年、バディとその一家。当時のアイルランドで暴徒化したプロテスタントによるカトリック迫害の事件が頻繁に起こっていた。バディ一家はプロテスタントだがカトリックが多く住む地区に住んでいたため、その争いに否応なく巻き込まれていく。監督のケネス・ブラナーが自身の幼少期をもとに作った映画だ。
なかなか重そうなテーマだ。

✴︎ここからネタバレもありますから、これから映画をご覧になりたい方はご注意ください。

「ベルファスト」は事前に見ていた予告映像からはもっと後味が重い映画なのかと思っていた。
しかし映画全体は、主人公バディの子どもの頃の「それでも幸せだった日々」であり、映画館を後にするときの後味は思いのほか清々しいものだった。
映画を見ていて井筒監督、ナインティナイン主演の『岸和田少年愚連隊』を思い出したくらいだから。

もちろん映像の瑞々しさもあるがヴァン・モリスンの音楽がよく効いてる。もしかしたらちょっと流れすぎと思う人もいるかもしれないほどヴァン・モリスン。

彼の音楽がどこか懐かしく瑞々しさもある、もう戻れないけど確かにあった悲惨だが幸せだった日々をうまく演出するのに一役かっている。
街を去るもの、残るもの、死んだもの
時代背景や場所は全然異なるが、それでも最後のシーンは、仕事をやめ街を出た自分にもつい重ね合わせてしまった。
おばぁさんに、映画に、「振り返るな」と背中を押された気がした。日々の諸々で自暴自棄になりたくなるけど、穏やかな気持ちになれた。

他にもセリフのやり取りの多くが互いに尊敬し合い他者を思いやっていて、とても心地よかった。帰りの車の中でたくさん思い出し妻ともたくさん話した。いよいよベルファストに居続けることが難しくなり移住を両親から主人公が「相談」されるシーン。これまで見た映画では、子どもにとって引っ越しは突然親から「宣告」されるものが多かったし、現実にもそれが多い気がするがベルファストは違った。あの家族は子どもに対してもリスペクトがある。
ケネス・ブラナーはあまり意識してみたことがなかったが、アイルランドの井筒監督としてこれからは新作を楽しみに待とうと思う。

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