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「あ」 「え?」 「何か、へばり付いてる」 「……あ」 どこから飛ばされてきたのだろう。 灰色だらけのこの道に、不釣合いなほど鮮やかな黄緑を纏う生き物がいた。 「蟷螂、だね」 「……蟷螂、だな」 「何処から来たんだ、ん?」 「答えるワケないだろ……」 「この辺に公園か何か、あったよねぇ」 「もう少し先にあったような気も」 するけど、あまり覚えてないな。 俺がそう言うよりも先、助手席に座りフロントガラスを凝視する北風(きたかぜ)は、言を継いだ。 「じゃ、其処まで行くよっ」 …
彼女に手を引かれてやって来たその通りは、午後の賑わいに埋もれて息すら上手く出来ないようなところだった。人々の声、様々な機械音、建物の内へと誘う流行りの音楽。それに時たま、泣き叫ぶ幼児の高音が響く。 太陽光と明るい空に視線を奪われがちなイルミネーションがほんの少しだけ哀れで、それらが必死に照らしているショーウィンドウを眺めてみた。 けれどもそんな努力など必要ないと言わんばかりに、やたらに明滅する輝きが阿呆らしくなる明るさでもって網膜を刺激するから。 ……可愛気、ないよなぁ。 そ
午後四時半の教室ではいつものように、先生が奏でる念仏のような声色で補習が進んでいる。それをぼうっとした頭に辛うじて流しこみながら、あたしは自然と聞こえてくる歓声に惹かれて窓の外を眺めた。 狭い一室に押しこめられた人の気も知らずに、文句を言いたくなってしまうほど清々しく晴れ渡った空の下では、補習を受けていない生徒達が部活動に励んでいる。 別に必要もないのに汗を流したがる——これは多分、すごく穿った見方——運動部の子達の考えはどうしても分からないけれど、そんなみんなを見ているのは