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【お話しましょう】#10「走った話」

こんばんは、如月伊澄です。

ついに記念すべき第10回ですよ、第10回!

今回は走った話です。走った話、というとかなり話せるネタも多くあって、マシンで意地で5キロ走った話とか、エリザベス女王杯が見たいがために疾走した話とか、いろいろあるのですが、今回はネタだけあって表に出してなかった没ネタでSSを書こうと思います。多分、5年以上は腐らせてる。

当初の30分一本勝負は今やどこへ、な感じですが、0時を過ぎてしまうと連続投稿が切れてしまうので、ある意味チキンレースの開幕です。
まあ、無理そうなら「つぶやき」を使ってずるするんですけどね、
大人はきたないのではないのです、ただ少しだけ時間がたりないだけなのです・・・・・・。

ということで、今日のお話は「飛べない僕とカナヅチな君と」です。

「飛べない僕とカナヅチな君と」


 まさか、バレるなんて思ってもいなかった。

 僕は走っている。ただ、ひたすらに走っている。
とうに足は限界を迎え、肺は空気を必死で取り込もうと荒い息を上げている。まるでセリヌンティウスの元へ向かうメロスのようにも見えるが、僕はただ、逃げているだけだ。

 つまり、簡単に言ってしまえば、浮気がバレた。

 後ろを振り返る。まだ、追いついては来ていないらしい。
いつ、彼女の金色の髪が、染めたとは思えないほどにきらびやかで、繊細なその色が視界の端に映るかと思うと、気が気でない。

 彼女は泳ぐように空を飛ぶ。まるでクロールするかのように空をかいて、推進力を得ながら前に前にと飛んでくる。階段を登る。ただひたすらに、一段一段飛ばしながら、登る。

「――――」

 声が聞こえる。僕を呼ぶ声だ。彼女の、低くも高くもない、透き通った声だ。憎しみと悲しみと嫉妬と殺意が混ざった、綺麗な声だ。
 きっと手元にはカナヅチが握られているのだろう。まだあの子は無事だろうか。

「――――」

 声が聞こえる。もうすぐ屋上だ。ここは学校。必死で駆けていく僕を、皆は不思議そうな顔で見つめる。ぶつかりそうになって、怒った声が聞こえる。背後の方で、恐怖に怯える悲鳴がとどろく。

「――――」

 近い。走るしかない。とにかく、上へ上へと逃げる。屋上に行けば。屋上まで行けば。
 呼吸はもう限界で、喉が焼き切れるように痛い。水面で酸素を求める金魚のように口をパクパクとさせながら、ひたすらに階段を駆け上がっていく。

 鈍い音が響く。重いモノで何かを叩いたような音だ。何度も、何度も、響いて、止まる。あの子には悪いことをした、いつか謝ろうと思う。でも、今はそれどころじゃない。

 あと一階登れば屋上への出口がある階だ。鍵が開いていることを祈るしかない。もう、呼吸も足も限界をとうに超えている。もしかしたら、呼吸困難ですでに死んでいるのかもしれない。

 悲鳴、悲鳴、悲鳴。何重にも折り重なった声が階下から聞こえてくる。きっと現場は血の海だろう。

「――――」

 また、声が聞こえた。さっきより少し遠くだ。エメラルドグリーンの瞳が脳裏に浮かぶ。宝石のように美しく、猫のように気まぐれで、切れ目がちな瞳だ。

 屋上へのドアだ。助かった。

 鍵は開いていた。外の新鮮な空気を胸いっぱい吸い込んで、吐き出す。走り抜いた疲れも、息と一緒に出て行くような感覚。頭上を見上げれば、雲一つない青空が広がっていて、なんとも飛行日よりだろう。

 この屋上は落下防止のためにフェンスで仕切られているが、一カ所だけ穴が空いている場所を僕は知っている。そう、僕はこれから「飛んで」逃げる。

 屋上を進んでいくうちに、背後でドアがきしみながら開く音がする。
振り返れば鬼のような形相をした彼女の姿があって、血に濡れた制服が非日常感を際立たせている。水色のスカーフが目にまぶしい。

「――――」

「話せばわかるって」

「――――!」

「その・・・・・・彼女とは遊びだったんだ」

「・・・・・・!!」

「交渉には応じない、ね」

彼女が青空の下を泳ぎながら飛んでくる。
ひとかき、ひとかき、鎌のように鋭く手先を伸ばしながら、飛んでくる。
手には血濡れのカナヅチ。陶器のように美しい彼女の手にはふさわしくない凶器だ。

 大丈夫、彼女が飛べるんだから僕だって飛べる。なあに、泳ぐのと一緒さ。大体、彼女はこの夏までカナヅチだったんだ、彼女に泳ぎを教えたのも僕。彼女の飛行を初めて観測したのも僕。だったら、なぜ彼女に出来ることが僕に出来ないのか?そんなこと、あり得ないよね。

「――――?」

 エメラルドグリーンの瞳が目一杯見開かれる。手にしたカナヅチが震える。大丈夫だ、大丈夫。僕は飛べる。飛べるんだ。

「――――!!」

「バイバイ」

 そういって、僕は空への第一歩を踏み出した。

おしまい。


温めすぎて腐らせたネタの供養ができて私は満足です。
初めてノート上でSSかきました、やっぱりワードの方がしっくり来ますね。

ただ、空を泳ぐ少女がかきたかっただけだったんだと思います。タイトルで文字通り「落ちて」ますし。


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