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夢をあきらめる覚悟を描いた「水もれ甲介」

「味噌汁」は「おみおつけ」。
「トイレ」は「便所」。

ビールや焼酎より、日本酒をとっくりで飲むのが普通。

と、1974年放映当時の風俗がうかがわれるのも興味深いテレビドラマ「水もれ甲介」ですが。
東京・雑司ヶ谷の下町を舞台にした人情劇でして。
映像には撮影場所の住所もばっちり写ってるし。

何より興味深かったのは主人公2人が「夢をあきらめている」ことでして。

「夢を追いかけている」んじゃないんです。「あきらめている」んです。
それも「父親との約束」や「家族のため」という理由でして。
その覚悟を描いたドラマなわけです。

主人公の長男甲介はジャズドラマーを目指していたものの、父親(森繁久彌!)を看取った際に「後は頼んだぞ」と言われて一念発起。
実家の水道屋(三ツ森工業所)に戻るんです。

ところがジャズドラマーを目指して家出した兄の尻ぬぐいのため、弟輝夫が後を継いでまして。
輝夫はそのために大学を中退。造船技師になるという夢を断念してたわけで。

夢をあきらめた兄弟の葛藤を描くところから始まるという、今的には実にしみったれた内容なんですが。

血のつながらない妹との感情の揺れや、突然姿を現した産みの母親といった複雑な家族関係を描きつつ、兄弟2人が家業を継ぐ覚悟を軸に物語は進むわけです。

この点に時代の違いを感じました。

いつからか「夢を追わなくちゃ幸せじゃない」「夢を追い続けなければいけない」みたいな空気が時代を覆ってますが。
人生とはそんなに単純なものじゃない。
「幸福や不幸はもういい。人生には全て意味がある」
という業田良家さんの傑作「自虐の詩」のセリフを思い出しました。

重要なのは自ら選択することだという点は今でも変わらないものの。

「生きる証とは何か」を描いた数ある名作の1つに数えたいかな、と。

ちなみに甲介が先輩のバンドを見に行くという設定で、当時の新宿ピットインのステージを見ることができます。


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