見出し画像

8本目「ミッシング・チャイルド・ビデオテープ」-感想ダイニングテーブル

■登場人物紹介
T 映画や小説が好き。目に焼き付ける。寒色好き。
K ゲームや漫画が好き。何かと写真を撮る。暖色好き。

感想ダイニングテーブル 登場人物紹介

■導入


「俺は説明より行動で魅せる作品が好きだ」

Tさんがそんなことを言っている。画面の向こう側で。というのも僕たちは今同じ場所にはいないのだ。前回のGQuuuuuuX鑑賞後、僕は用事があるので帰宅し、Tさんはそのまま映画鑑賞を続けていたのである。
で。家についた僕は今日の夕飯どうしようかな~なんて考えていたわけなのだが。そこに連絡が来て何かと思えばリモート連絡アプリの通知だったのだ。
繋いだ途端に、説明もなくこれである。いつものTさんだけども。

「はあ。何の話ですか?」
「だが、説明も必要だ。少なくとも大衆作品においてはそうであるべきだと考えている」
「あー。ええと、Tさんてさっき何観たんでしたっけ?」
ミッシング・チャイルド・ビデオテープだ」

■ミッシング・チャイルド・ビデオテープ 感想

※この感想は、ミッシング・チャイルド・ビデオテープを全力で楽しむことのできなかったTの書き残しです。そのような内容になること、あらかじめご了承ください。

全体的に否多めなので注釈。よろしければ続きをどうぞ


Tさんはすこぶる冷静な表情で言った。あれ?でもその映画ってホラーじゃなかったっけ?

「あれ、あんまり怖くなかったんですか?」
「あんまりどころか、全くだった」

Tさんはそのまま渋い顔をしている。

「よかったじゃないですか、怖くないなら」
「よくないだろう。何のために劇場で観たと思ってるんだ。俺はそこでしか得られないリアルな恐怖を摂取したかったんだ、全身で」

めんどくさ。怖いなら怖いで文句言うのになこの人。

「えーと、で、なんですか?じゃあつまんなかったんですか?」
「そうはっきりと言いたいわけではないが、なんというか、難しかったんだ」
「難しい?ホラー映画にそんなんありなんです?」
「受け取り手の意識の問題なんだよ」

Tさんは眉間にしわを寄せて言葉を選んでいる。

「もしかしてあそこに幽霊がいるかも、もしかして怨念がこの現象を生んでいるのかも、もしかしてとっくに手遅れなのかも、みたいな、無数の可能性を鑑賞者に提示して、想像力を働かせて怖くなるみたいな、そういう映画だったと俺は解釈した。あくまで俺は、だが」
「ええと、つまり」
「はっきり言えばかなり退屈だったんだよ。読み取れない側からしたら」
「ああー」

だからさっき説明がどうとか言ってたのか。

「中盤から終盤にかけて、展開が加速する場所はあるにはあるんだが。そこも怖さが増すというよりはばら撒かれた謎が若干解かれる的な印象が強い。そもそも全体的に、本当に断片的かつ些細な展開の寄せ集めというか。ひとつひとつの要素を丁寧に描きすぎてて、全体的に間延びしているように思えてしまう。多分わざとなんだろうが、その長尺の中に緊張感が保たれているかと言われると、俺はそうは感じなかった。このあたりは本当に難しいな」
「どんな話なんでしたっけ?」
「主人公の弟を山の中に捜しに行く話だ。行方不明になった弟が、自分を待っているかもしれないって」
「最近行方不明になったってことですか」
「いや十年単位で時が経ってる」
「もうとっくに亡くなってるじゃないですか!?」
「そうなんだがな、なんというか、生きているか死んでいるかはあんまり関係ないのかもしれない。捜したい、見つけたいという思いがすべての元凶なんだろうから」
「はあ」
「ああ、もっと細かい話はあるんだ。主人公は二人いて、その片割れは幽霊が見えるとか。あともう一人主要登場人物がいて、そいつは記者で霊にストーカーされていて、みたいな。この三人にスポットを当てつつも、基本的には弟のいなくなった山を歩き回る部分が映画の印象的な箇所になっている、とは思う。ただ全体的に絵面がな、どうしてもな。いや地味な絵面が悪いと言っているわけじゃないんだが、ぱっとしないというか、なんというか、難しいんだ俺には」

要するにもっとわかりやすい物が見たかったのだろうか。難儀な人だなあ。というかずっと難しい難しいって言ってる。

「あ、ジャンプなんとかはあったんですか?」
「ジャンプスケア。ほぼ、ない、と言っていいだろうな。そういう脅かしに頼るような構成ではないと感じた。そこはいいと感じたが、かといって恐怖を観客に等しく与えられたかどうかは、なんとも、あー、ただひとつ観客が口を揃えて怖いと言うシーンがあるんだ」
「へえ、どこなんですか?」
「途中で山の近くの宿に泊まるんだが、そこの息子だったかな。そいつに山についての話を聞く場面がある。それが怖い、とか。ただ俺はなんというか、怖いより気味が悪いの方が近いと感じたが。それが本筋の弟探しに関係あるのかと言われると微妙に関係性を見出すのが難しいし。現代文の難関問題でも解いてるみたいだ」
「そういうの得意なんじゃないですか」
「得意な方ではあると思うが、これをホラー映画でやるのが正しいかまで頭が回らん」
「ああー」

TPOをわきまえる人だった。

「もうだから、本当に今から滅茶苦茶なことを言わせてもらうんだが」
「はあ」
「概念のような映画だった。Jホラーの」
「概念て」
「ずっと雰囲気は暗いんだ。不気味さもある。だがなあ、そこを活かしきれているかと言うと、なんとも。極論、雰囲気だけだっていい。そういう映画もあっていい。けど、じゃあそれがじわじわ怖いかとか、後々考えてうわあとなるか、とか。そういうのは全くない。うん、まあ、言わせてもらえば、俺には早かった。もしくは合わなかった、かな。俺はJホラーに凄まじく詳しいわけではないし」
「なんか、残念でしたね。結構楽しみにしてたんじゃなかったでしたっけ」
「まあこういうこともある。こういう気持ちになれるのも、それはそれで映画鑑賞の醍醐味だな。俺は比較的わかりやすい話が好きなのもあるから、仕方がないと思う。多分何度か観たら怖さが理解できるのかも、しれない。配信されたら改めて見直そうと思うよ」
「それまでにパンフレット読み込まなきゃですかね?」
「そうだな。はあ」

Tさんは深いため息をついている。

「どうしました?」
「鑑賞者の経験や知識、見識に頼る映画、苦手だ。だがそもそもこの作品自体がJホラーのファンに捧ぐみたいなところがあったような気もしたから、そう考えると正しい映画作りの方法なのかもしれない。ターゲットじゃなかったんだろうな、俺は。はあーーー」

あ、これ若干バッドに入ってるなあ。

「まあまあ。この後もう一個映画あるんでしょ?そっちに備えましょうよ」
「ああ、うん、そうする。このテンションで楽しめるのか、俺?」
「次ってなんですか?」
「ええと、なんだったか。確か香港の映画だったと思ったが。九龍城砦の出てくる」
「九龍城砦!?!?!?」
「声デッカ」
「お、面白かったら教えて下さいね!?」
「わかったよ。お前好きだったっけ。まあ、あー、面白かったらな」
「よろしくおねがいしますよー。それじゃまたのちほど」
「ああ」

軽快なSEと共に通話終了。うーん、でもあの状況だと次の映画は楽しめないかもしれない。結局監督の意図を汲み取れるかどうかって、鑑賞者次第だしなあ。Tさんはできるだけそのあたりを汲み取りたいと考えてる人だから、本当に難儀だと思う。
さっきの顔を思い出してちょっと笑ってしまった。

多分、すっごく面白いって思えた人が羨ましくて仕方がないんだろうなあ。

■まとめ
対象 :ミッシング・チャイルド・ビデオテープ
鑑賞日:2025年1月25日(土)
感想 :難しかった
次回 :「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」

また次回


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集