Eb管界隈のあなたと私
「G線上のあなたと私」というドラマを見ていて、思い出したことがある。
大人の音楽教室、そういえば私も行ってたよね?!
私は2年間ほぼ毎週金曜日の夜に、愉快な仲間たちと楽器を鳴らしていた。もう、10年以上前のことだ。
父親くらいの年齢のおじさんサラリーマンが2人に、ちょい歳上のお兄ちゃん的な実業家1人、一個下のかわいい妹風女子に、私、の計5人。
アルトサックスで私たちの人生は交わった。今まで別々の人生を歩んできたけれど、みんなの中で何かのきっかけがあって、同じタイミングで「よし!!」と決めたわけだ。そんな風に出会えた仲間と仲良くならないわけがなかった。久しぶりに、好きなものを通して新しい友達と出会えたことが、何よりも嬉しかった。
そんな私たちの時間は、ドラマととても似ていた。
まぁ、私たちには恋愛という要素は全くなかったので、その部分は大きな違いかもしれない。どちらかというと、少し編成がおもしろい感じになるが、父親二人と兄と妹がいる家族みたいな感じだった。
大人の音楽教室というのは、ドラマでも言われていた通りで、楽しければそれでいいのだというスタンスの元で存在していた。もちろん発表会はあるけれど、プロを目指すなんて、滅相もございませんレベル。
うまくなりたい願望はみんなにあったけれど、日頃溜まったストレスをサックスの音に乗せて吐き出している、サックスを吹いている自分に酔いしれることで現実逃避している、という雰囲気も強かった気がする。私たちの音は、もっと、リアリティに根差した音楽だった。実際、金曜日の夜のこの時間は、1週間のリセットボタンを押すような、いいタイミングだったのだ。
ある程度続けていると、やはり借り物の楽器ではなくて自分専用のサックスが欲しくなってしまった。
そうなると、「大人」である私たちは強いのだ。
ある程度毎月お給料もらっていて、年に2回ボーナスもらっているのだから、お母さんにおねだりする必要なんてない。やりくり次第で自分の相棒を手に入れることができるのだ。それが、「大人の音楽教室」。
とは言え、新品のアルトサックスは高かった。
先生に付き合ってもらって、5、6本を吹き比べて、悩んで悩んで、最後に私が選んだサックスは、なんとお給料2回分以上の金額。
車も家も購入したことのない私にとって、フランス製のその相棒は、「人生で一番高い買い物」の座を瞬く間に勝ち取ることになった。
でも、あの頃はその選択に後悔なんて、ひとつもしていなかった。
人生を共にする相棒を4◯万円で手に入れられるなら、悪くはないはずだ、と思っていた。
ドラマの話に戻るが、カラオケに行ってバイオリンを練習するシーンが多く出てくる。
それもまた、「わかるー!」と叫びたくなるシーンだった。疲れたら歌って、時々練習もして、騒音問題を気にしなくて済む空間。
みんな、同じだ。みんな、ちゃんと自分が思い切り音と遊べる場所を探してカラオケに辿り着いたんだ。カラオケって、ホント素晴らしい。
「G線上のあなたと私」は、見ていて「うんうん!だよねー!」と頷ける場面がたくさんあるドラマだ。きっと、同じ思いで見ている人は私だけじゃないはずだ。
いわゆるドラマの世界は、出てくるみんながキレイであったり、何か大きな問題を乗り越えて結ばれたり、魔法が使えたり、時間を飛び越えたりと、とにかく、自分の現実とは遠い世界のことのような気がしていた。
でも、実は普通にありえる現実も、見方をすこーし変えてみたら、いくらだってドラマになり得るのかもしれない。そんな気持ちにさせてくれたドラマなのである。
そういえば、悩みに悩んだサックス購入、当時の私は確かに後悔しなかった。
しかし、お給料2回分だったアルトサックスが、今ではケースから解放される機会がない。引っ越しを機にグループレッスンを抜けたことと、いつでもどこでも吹けるわけではない、という不便さから、その後私は徐々にサックスから遠ざかってしまったのだった。
今は、後悔している。
自分が吹き続けられなかったこと、そして、何と言っても、サックスがサックスとして輝ける機会を私が奪ってしまったということに。
私はこれを機にもう一度向き合うべきなのかもしれない。
あの頃私を幸せにしてくれたこの楽器が、幸せであり続けるために、私が今すべきことがきっとあるはずだ。
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