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公職選挙法改正と情報プラットフォーム対処法に関する話、または立花孝志さんに臭いお食事を召し上がるプロジェクトについて

 通常国会冒頭で公職選挙法改正を議論する話と並んで、先般兵庫県元県議の竹内英明さんの自死報道などもあって、いろいろと巻きの話になってきております。

 さすがにこのような情勢下でのんびり「とりあえず、公選法改正はポスターの品位規定でも作りましょう」などと議論しているわけにもいきませんので、2020年旧プロ責法改正でプロレスラー木村花さんが自殺してしまった件同様に「もう少し実効性のある、現代のネット選挙にきちんと対応した公職選挙法や情報プラットフォーム対処法の改正を議論しようよ」となるのはせめてものはなむけと申しましょうか… 神の御許に召された竹内英明さんの魂に平安があらんことを祈ると共に、適正規制に向けてきちんと議論し、実現していこうよというのは生き抜く者の側の当然の責務だと思ってます。

 で、今後立花孝志さんや、つるんでいる堀江貴文さん、新田哲史さんや、NHK党周辺の皆さん、また、ガセネタの中核となった須田信一郎さんといった群像が今後どうなるのかという現実の話は別として、法改正に向けた議論の下地として弊所情報法制研究所にも各方面から「お前らどう思っておるんや」というお話がありましたので、以下『JILISレポート』として月内に取りまとめる拙稿をまずは掲載いたします。「何でいま出してるの」と思う向きもあるかと思いますが、審議日程も含めた諸般事情があることはどうかご承知おきください。

はじめに

  2024年11月14日に元兵庫県知事・斎藤元彦氏の辞職に伴い執り行われた兵庫県知事選において、選挙期間中、主にTikTokおよびYoutubeショートなどで辞職の原因とそれにまつわる誹謗中傷や事実関係の確認できない事項(デマ)が大量に飛び交った結果、有権者の投票行動に大きな影響を及ぼしたのではないかという懸念が改めて指摘されている。そんな中で、再選した斎藤元彦氏に対する百条委員会で委員を務めた県議の竹内英明氏が、ネットでのデマや誹謗中傷を理由とするとみられる自死を遂げてしまう事件も発生した。

 本件は、現行の公職選挙法が想定していない新たなSNSプラットフォームを介した情報拡散の課題を浮き彫りにした。特に、選挙運動期間中のSNS上での虚偽情報の拡散は、有権者の適切な判断を妨げる可能性があり、民主主義の根幹を揺るがす問題として認識されるべきである。公職選挙とSNSや動画サイトを運営するプラットフォーム事業者(以下、PF事業者)の関わりは、牧歌的な憲法学が指し示すような公職選挙における表現の自由は最大限に認められるべきという論調から、デジタル立憲主義的な観点から有権者のあいだに不公平で不適切なデジタルサービスが行われている場合には国家は憲法の定めにより適切な介入を行うべきだという方向も想定されていくだろう。

 実務的にも、この事例はデジタル時代における選挙の公平性と透明性の確保という観点から、公職選挙法の抜本的な見直しの必要性を示唆している。2013年の公職選挙法改正でインターネットを利用した選挙運動が解禁されて以降、SNSの急速な進化と普及により、選挙に関する情報環境は劇的に変化している。本稿では、兵庫県知事選の事例を出発点として、現行の公職選挙法が直面する課題と、デジタル社会に対応した法整備の在り方について考察する。

問題の所在

・兵庫県知事選の事例分析

2024年11月の兵庫県知事選は、デジタル時代における選挙の在り方に重要な課題を突きつけた。特筆すべきは、TikTokやYouTubeショートといった短尺動画プラットフォームを通じた、有権者に対する情報拡散の実態である。これらのプラットフォームでは、前知事の辞職理由に関する未確認情報や、対抗候補・百条委員会に関わる県議らに対する誹謗中傷が爆発的に拡散された。特に、それまで再生回数が千回にも満たないような零細Youtubeチャンネルでさえ、「斎藤元彦」や「立花孝志」「兵庫県知事選」のワードでおすすめ動画に掲載されるや数十万以上の再生回数を叩き出すに至る。これらの現象は従来のSNSでも見られたものの、世間的な関心となった兵庫県知事の醜聞にまつわる問題とマッチして、結果的に膨大な再生回数を稼ぎ出すに至る。これらのプラットフォームはアルゴリズムによる推奨機能が強力で、視聴者の興味関心に基づいて類似コンテンツを連続的に表示する特徴がある。その結果、虚偽情報や誹謗中傷が連鎖的に拡散され、その影響は選挙区内外を問わず広範に及んだ。

 さらに注目すべきは、これらの情報拡散が選挙運動の収益化という新たな問題と結びついていた点である。視聴回数や engagement率の向上を目的とした刺激的なコンテンツ制作が行われ、選挙に関する情報が商業コンテンツとして消費される事態が生じた。これは、選挙運動におけるボランティア原則を形骸化させるだけでなく、供託金による候補者乱立の歯止め効果をも減少させる結果となった。同様に、再生回数を稼げる芸能やスポーツといった国民の関心事やテレビ番組の面白いところをそのままピックアップして動画に違法転載する「切り抜き」は、昨今PF事業者も著作権や肖像権的な観点から積極的に動画削除するようになったため、これらの違法な動画再生数稼ぎの手法としてこれらの動画削除に至る危険の少ない政治家や政党、減税・社会保険料などの公共政策への批判を煽る形で動画を作ることが一種のセオリーとなってしまっている。

 加えて、本選挙では立花孝志氏による「当選を目標としない」候補者という選挙の攪乱行為も見られた。これは従前の公職選挙法は明確には想定していない行為であり(法87条:重複立候補の禁止まで)、公職の候補者としての適格性や、重複立候補禁止の趣旨との整合性など、法制度上の新たな課題を提起している。もっとも、後述するように内面の問題である「当選を目標としない」立候補については、候補者本人がそう公言しない限り認定が困難であるとの実務上の問題もつきまとう。

 このように、兵庫県知事選は、デジタルプラットフォームの進化と選挙制度の齟齬、選挙運動の商業化、候補者資格の在り方など、現行の公職選挙法が対応できていない多層的な問題を明らかにした。これらの課題は、一地方選挙の問題にとどまらず、デジタル時代における民主主義の根幹に関わる重要な論点として認識される必要がある。

・SNSプラットフォームによる情報拡散の実態

 現代のSNSプラットフォームは、2013年の公職選挙法改正時に想定されていた「ウェブサイトと電子メール」という枠組みを大きく超えて進化している。特に、スマートフォンを主要デバイスとする短尺動画プラットフォームの台頭は、選挙に関する情報流通の様相を一変させた。インターネット上での表現形態は既存のテキスト主体から画像、動画も含めた渾然としたコンテンツに移行しており、若者にウケる縦型動画から、高齢者が自宅のテレビでネット接続して視聴するテレビ番組なみの動画まで影響が及ぼせる範囲が拡大している。

 この変化の特徴として、以下の三点が挙げられる。第一に、プラットフォーム事業者のアルゴリズムによる表示制御が、情報の拡散に決定的な影響を及ぼしている点である。特にTikTokやYouTubeショートでは、ユーザーの興味関心に基づいて類似コンテンツが連続的に表示される「フィードアルゴリズム」が実装されており、これが特定の主張や情報の「エコーチェンバー化」を促進している。特に、世間的な注目を集めている事件において、そのキーワードが関係する動画については、各PF事業者もおすすめ動画に掲載したり、自動で「次の動画を観る」場合のセレクションで優遇される。同じ問題について、あたかも複数のチャンネルやポスト主が類似の主張を繰り返し動画やSNSで垂れ流すと、結果的にダークパターンにハマり、有権者の投票行動を動かす可能性が高く案る。

第二に、選挙区外からの影響力行使が容易になっている点である。地理的制約を持たないSNSの特性上、選挙区外の利用者による投稿や共有が選挙区内の有権者の判断に影響を与える事例が増加している。特に、政治的な主張を専門とする影響力の強いアカウントが、地方選挙においても積極的に情報発信を行い、地域性を無視した形での議論の誘導が行われている。PF事業者は告示・公示が行われている特定の地域の有権者に対して、これらの政策・候補者の情報を公平となるよう制限する、というような仕組みは持っていない。したがって、注目される選挙であるほど選挙地域外からのアクセス稼ぎ的なデマや誹謗中傷の羅列が起きて、当該地域の有権者が閲覧することを止めることができない。

 第三に、既存メディアの影響力低下と相まって、SNSや動画サイトが選挙情報の主要な入手経路となっている点である。特に若年層や都市部の無党派層において、この傾向が顕著に表れている。従来、一定の品質管理のもとで選挙関連情報を提供してきた既存メディアの役割が相対的に低下し、検証を経ない情報が直接有権者に届く環境が形成されている。これは、民主主義の根幹である公職選挙において、国民の知る権利をどう国家が整備し公平で公正な選挙を実現するかを考えるうえで、放送法など制御の効かないインターネット上での玉石混交の情報が有権者に与える影響をきちんと考慮しなければならない。

 このような状況下で、公職選挙法が定めるメールアドレス表示義務等の規定は、実質的に機能を失っている(公職選挙法第142条の4第6項・第142条の5第2項)。また、これらの行為が実際に政治活動と類されるものなのか、選挙運動に該当し「選挙運動又は当選を得させないための活動に係る電子メールで送信される文書図画」とすべきものなのかも、現行公職選挙法上は判然としない。これにより、公式の政党や候補者と選挙報道が流す情報以外、PF事業者のサービス上に流れる政治関連情報のほとんどすべてが匿名または連絡先不明のアカウントによる選挙運動になりかねない。そして、具体的な人物ですらなく、生成AIによって構築されたbotによる自動投稿の大量生成も技術的に可能である。

 さらに、選挙関連動画の収益化という新たな問題も発生している。前述の通り、既存のテレビ番組や芸能人、スポーツ選手などの切り抜き動画は、著作権や肖像権的な問題から、PF事業者により早期に削除されることを鑑み、現在では削除されにくい政党や政治家、年金や減税など国民の怒りを掻き立てやすいレイジベイティング(観た人の不満を掻き立て、分断を煽ってアクセスを稼ぐ手法)のようなダークパターンが横行している。そのようにしてデマや誹謗中傷の矛先を政治に向け、そこで稼ぐことのできた再生回数に応じた広告収入がPF事業者から支払われている、という時点で、公職選挙法で定める資金的にも公正な選挙の実現という法目的からは逸脱していると指摘せざるを得ない。

 特に深刻なのは、虚偽情報の拡散メカニズムである。一度拡散された虚偽情報は、プラットフォームのアルゴリズムによっておすすめ動画やトレンド、推奨コンテンツとして表示され続け、訂正情報が後から発信されても、その到達範囲は限定的となる傾向がある。また、繰り返し虚偽情報を発信するアカウントが「人気コンテンツ」として定着する現象も見られ、プラットフォーム自体の特性が虚偽情報の温床となっている実態がある。公職選挙においては、告示・公示から投票期間の間にこれらの虚偽情報が流れて一度拡散されてしまうと、陣営が削除・訂正を求めてもすでに投開票日には間に合わない。したがって、インターネット上での誹謗中傷やデマは、手がける陣営にとって非常に有効な作戦になってしまう。

 このような情報拡散の実態に対し、旧プロバイダ責任制限法や情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)による規制は、現段階では実効性を持ち得ていない。特に、選挙期間中の即時対応が不可能な現行制度は、デジタル時代の選挙における重大な課題として認識されなければならない。

・選挙の公平性への影響

 SNSプラットフォームを介した情報拡散は、選挙の公平性に多面的な影響を及ぼしている。最も深刻な問題は、従来の選挙管理体制では対応が困難な新たな形態の選挙妨害が発生している点である。

 現行制度下では、各都道府県の警察本部が選挙運動において違反の恐れのある行為に関しては候補者や陣営に直接警告を行い、悪質な場合は警察による立件が行われる仕組みとなっている(法235条:虚偽事項公表罪)。しかし、インターネット上の違法行為に関して、選挙管理の現行体制において警察が24時間体制での巡回監視を行うことは事実上不可能であり、同法虚偽事項公表罪で摘発可能な悪質な書き込みが広く拡散していたとしても、被害届や刑事告訴し、起訴され、百日裁判で有罪となり当選者が連座しない限りは救済の手段はなく、また、選挙地域外どころか中国など第三国からの発信であった場合はやられ損となる。これは、韓国やイギリスなど、中央選挙管理委員会が常時監視と即日削除要請を可能とする制度を持つ国々とは対照的である。

 また、デジタル空間におけるデマや誹謗中傷の認定、選挙妨害行為の類型化も困難を極めている。警察が直接インターネット上の行為について認定を行うことは、選挙運動への不当な介入との批判を招く可能性があり、慎重な判断が求められる。公職選挙法第147条が定める「選挙に関するインターネット等の適正な利用」は努力義務にとどまっており、実効性を持った規制とはなっておらず、即応的な対処は現行法では不可能である。

 さらに、選挙運動の商業化という新たな現象は、選挙の公平性を根本から揺るがす可能性を持っている。SNSでの収益化を目的とした選挙関連コンテンツの制作は、選挙運動のボランティア原則を形骸化させるだけでなく、供託金による候補者乱立防止の機能をも低下させている。選挙制度は民主主義国家である我が国にとって大事な社会インフラであり、公的な資金により実施が有権者に告知されるにもかかわらず、選挙が注目されるイベントとしてフリーライドする陣営がSNSでの収益化によるビジネス的な収益を得る構造が野放しになっている。

 特に注目すべきは、「当選を目標としない候補者」による選挙の攪乱行為である。国勢選挙においても、地域ブロックの比例代表で議席を確保するために、当選の見込みのない候補者を各小選挙区に立候補させる戦術は適法な党選挙手法として確立しているが、そもそも当選を見込まず、ただ話題になり、SNS上や、そのような騒擾を期待するスポンサーの獲得によって選挙そのものをビジネスにし、選挙の争点どころか地域の分断を煽り、再生回数や知名度アップによる集金で収益を図ることを現行法のままで差し止めることはむつかしい。このような候補者の存在は、公職選挙法が想定する「公職の候補者」の定義自体に再考を迫るものである。自らが公職に就任する意思を持たない者を「候補者」として認めることは、重複立候補禁止の趣旨を没却するだけでなく、万が一の当選時における法的処理という新たな課題も生じさせる。

 類似の案件として、政党が繰り上げ当選を見込んで票を稼げる知名度のある候補者を複数擁立し、当選後に、自ら辞職することで、政党に資金を入れている人物を議員にせしめる、いわゆる当選代行業のようなビジネス化が想定される。これは、過去にれいわ新選組が選挙に強い山本太郎氏を当選せしめ、その後議員辞職し、同党の後任を繰り上げ、自身は別の選挙に出馬し再び当選することで等の議席数を稼ぐ技法となっている(2022年)。

 加えて、PF事業者の対応にも大きな課題が存在する。現行の情報プラットフォーム対処法では、選挙期間中の違法投稿に対する即時対応のメカニズムが確立されておらず、運用ガイドラインの策定だけでは十分な対処が困難である可能性が高い。今後、ガイドラインの策定のパブリックコメントの結果次第で公選関連規定が盛り込まれ、PF事業者に対する迅速化規律も義務付けの対象になる可能性はあるが、この場合、先にも述べた通り虚偽情報であるのかどうかの認定や、これは政治活動による発信なのか選挙運動に該当するのかは判定しがたい。

 これらの問題は、デジタル時代における選挙の公平性確保という観点から、法制度の抜本的な見直しを必要としている。特に、選挙の自由妨害罪に該当する行為の明確化と罰則の強化、当選目的の虚偽事項公表罪の対象拡大、そしてプラットフォーム事業者への実効性ある規制の導入が急務となっている。

デジタル時代における公職選挙法の課題

・現行法制度の想定と現実のギャップ

 現行の公職選挙法が直面している最大の課題は、2013年のインターネット選挙運動解禁時に想定していた情報環境と、現実のデジタル空間との間に生じている大きな乖離である。

 解禁当時、立法者が想定していたのは、主にウェブサイトと電子メールを介した選挙運動であり、これらは従来の「文書図画」の延長線上として位置付けられていた。しかし、現代のデジタル空間では、スマートフォンを主要デバイスとする動画中心の情報環境が形成され、プラットフォーム事業者のアルゴリズムが情報の到達範囲や影響力を決定的に左右している。裏を返すと、従前の公職選挙法や放送法など関連法規は正規の政治報道において、公共機能を担う報道機関等が政党要件をクリアした政党や各候補者の取り上げ方、時間配分、文字配分において少数者にも不利益のないよう配慮を義務付けている(法148条)。

 しかしながら、いまや勤労層・若年層では既存報道機関よりもSNS経由での選挙情報を重視するケースが増えているにも関わらず、これらの「文書図画」の取り扱いにおいてPF事業者はもっぱら選挙情報の流通を担いながらも実質的に垂れ流しとなっており、流通せしめる動画やポストの中身の真実性を一切担保しないうえ、各政党各候補者に対する平等性に関する配慮もない。したがって、ダークパターンによりフィルターバブル的な利用者の好むキーワードや関連動画をひたすら閲覧させ続け、延々と特定の主義主張だけを観させる仕組みとなる。

 特に深刻なのは、法が想定する「選挙運動」の概念自体が、現代のデジタル空間における情報発信の実態と整合しない点である。従来の選挙運動は、候補者や政党による計画的・組織的な活動として把握可能であったが、現在では無数の個人がSNSを通じて選挙に関する情報を発信・拡散し、その境界線は極めて曖昧となっている。実際、兵庫県知事選で問題となった斎藤元彦陣営とそのSNS後方戦術を担ったMerchu社の折田楓氏の問題は、すでに刑事告発の大正となっているものの、極めてネットにおいて合理的で、その結果として、スキャンダルにまみれて苦戦必至とみられた斎藤元彦氏の再選にまで漕ぎ着けられるだけの実効性を具えていたことを意味する。

 さらに、メールアドレス表示義務等の規定は、匿名性を前提とするSNSプラットフォームの特性により、実質的に形骸化している。また、選挙区外からの情報流入やbotによる投稿の大量生成など、地理的・技術的な制約を超えた新たな課題も発生している。言い換えれば、ネット上での公職選挙対策は実質的に高い匿名性とデマ・誹謗中傷など何でもありの無法地帯である一方、既存の選挙報道は公職選挙法ほか関連法規でガチガチに縛られた状況で選挙が執り行われるという非常にいびつな状況になっていると言える。

 このような状況下で、現行法制度による規制は十分に機能していないと懸念されるのは当然である。特に、公示・告示後から投開票日までの期間における違法行為の認定および警告、処罰の実効性確保が極めて困難となっている。各警察本部による監視体制は、24時間稼働するSNSプラットフォーム上の違法行為に対して、もはや実効的な対応を行うことができない状況にある。

・SNSプラットフォーム、PF事業者の影響力拡大

 デジタル空間におけるSNSプラットフォームの影響力拡大は、選挙における情報流通の質的変化をもたらしている。特に注目すべきは、PF事業者のアルゴリズムがもたらすダークパターンの問題である。

 ダークパターンは、主にインターネット上での商行為において、消費者を騙す悪質な事業者の振る舞いを類型化し、OECDが注意喚起をしている事例集であるが、究極において民主主義の根幹もこのダークパターンによって支配されており、公職選挙においてもっとも重視される問題がPF事業者によるアルゴリズムによる不作為の情報操作である。

 これらPF事業者は、ユーザーの利便性向上を目的としてその興味関心に基づいた情報を選別・提示する仕組みを採用しているが、この仕組みが選挙に関する情報の偏向的な拡散を助長している。例えば、特定の候補者に関する否定的な情報や未確認情報が、アルゴリズムによって「人気コンテンツ」として推奨され続ける現象が観察されている。これらは過激であればあるほどユーザーから「高評価」されて頻回表示の対象となる一方、新たなユーザーによる投稿は拡散の起点となるおすすめ動画に掲載されやすいという別の問題を引き起こす。

 また、従来の選挙報道において重要な役割を果たしてきた既存マスメディアの影響力が相対的に低下し、SNSが選挙情報の主要な入手経路となっている点も看過できない。特に、無党派層や都市圏の有権者に対するSNSの影響力は顕著であり、その傾向は若年層において一層強まっているため、これらのダークパターンが適用されると、低所得者で特段の税負担がないはずの若年層も「減税しないと国によって不当に貧乏にさせられる」「崩壊しそうな年金制度で過剰に負担を強いられる若年層は、高齢者の世話をさせられる」といった憎悪を増幅(レイジベイティング)させる対象となりやすい。これらは、国家全体を運営している政府のあり方とは常に対立する考え方であり、基本的に、冷静で客観的な政策議論とは対極に位置する。荒唐無稽な内容でも断言されると真実性を増すダークパターンなど、閲覧者・ユーザーの理性を奪う仕組みがそこに内在しているのが問題の根幹である。

 このような状況下で、旧プロバイダ責任制限法による対応には明確な限界が存在してきた。同法の公職の立候補者に係る特例規定は、即日差し止め等の規定を欠いており、実効性を持ち得ていない。また、新たに制定された情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)においても、この問題は解決されておらず、仮に公職選挙法で定める虚偽事項公表罪の適用や刑法名誉棄損罪(刑法230条)もまた、当該選挙においてネット上で垂れ流される誹謗中傷・デマなど虚偽情報への対処の実効的な対処法とはならない。

選挙運動の商業化問題

 デジタル空間における選挙運動の商業化は、公職選挙法が前提とする選挙運動の在り方に根本的な変化をもたらしている。

 最も顕著な問題は、選挙に関するコンテンツの収益化である。SNSプラットフォーム上で、選挙に関する情報がコンテンツとして制作・消費され、広告収入や投げ銭などの形で収益化される事例が増加している。これは、公職選挙法で定める選挙運動におけるボランティア原則を形骸化させるだけでなく、商業的な成功を目的とした過度に刺激的なコンテンツの製作を助長している。

 さらに深刻なのは、この商業化が供託金制度の機能を低下させている点である。SNS上での収益獲得を目的とした候補者の出現により、供託金による候補者乱立の歯止め効果が実質的に失われつつある。この現象は、選挙の公平性を担保するための重要な制度的基盤を揺るがすものである。もっとも、公職選挙においては一部政党から供託金を撤廃し、多くの候補者が出馬できるように促すのが公平を担保するという主張も並存する。ただし、本来の供託金の趣旨は、公平で公正な選挙が行われているという信頼が社会的にある前提であって、PF事業者による選挙の実質的な影響力拡大がある以上は、公職選挙という民主主義のインフラで収益を挙げるビジネスモデルは適切ではないと言えよう。

 同時に「当選を目標としない候補者」による選挙の攪乱行為は、この商業化問題と密接に関連している。これらの候補者は、選挙をSNS上でのコンテンツ製作の機会として利用し、実質的な「二馬力」「三馬力」行為を行うことで、選挙の公平性を損なっている。この問題は、選挙公営の観点からも不適切であり、放置すれば「三馬力」以上の悪用につながる懸念がある。SNSでの収益性さえ確保でき、過激な主張を繰り返し行い目立つことでスポンサーを確保できさえすれば、複数の候補者を擁立した政党が勝たせたい候補者に有利な選挙運動を行うことは充分に可能になる。

 このような状況に対し、現行の法制度は有効な規制手段を持ち合わせていない。選挙運動の商業化は、公職選挙法が想定する選挙運動の枠組みを大きく超えており、新たな法的対応の必要性を示唆している。

法改正に向けた具体的な論点

・選挙の自由妨害への対応

 デジタル空間における選挙の自由妨害罪に対する法的対応は、現行制度の最も重要な課題の一つである。選挙の自由妨害罪については、PF事業者での動画投稿において、過激な選挙妨害を行って再生回数を増やし、広告収入やスポンサー、同調者からの資金調達を可能とするものであるから、基本的に行っている政党や候補者、支援者・同調者が特定しやすく、これらを迅速に排除するだけでなく次回以降の選挙で行動を掣肘し、また、投稿するアカウントの剥奪、スポンサーや同調者など周辺の幇助する者の摘発も並行で進められれば、発信の能力を奪われて活動を自律自走出来なくなっていく。

 選挙の自由妨害罪の適用を進めるにあたっては、このデジタル空間における「選挙の自由妨害」の定義と類型の明確化が求められる。現行法では、物理的な選挙妨害を主に想定しているが、SNSプラットフォーム上での組織的な誹謗中傷や、アルゴリズムを利用した意図的な情報操作など、新たな形態の妨害行為に対応できる法的枠組みを構築し、適宜これらを違法行為として認定しつつ、投開票日が終わり次第速やかに摘発できるようにすることで改善していくものと見られる。

 特に重要なのは、立証要件の整理である。実際に、駅前街頭演説などでの妨害行為は別として、もっぱらそれを拡散するデジタル空間での妨害行為は、複数のアカウントや海外サーバーを経由するなど、行為者の特定が困難なケースが多い。このような状況に対応するため、対応する警察本部でもデジタルフォレンジック技術の活用や、PF事業者との協力体制の構築を含めた、実効性のある捜査手法の確立が不可欠となる。この場合、公職選挙法における表現の自由とも直接の整合性を取らなければならないことを鑑みれば、情プラ法ガイドラインで対応可能なものであるかは慎重に議論される必要がある。

 また、捜査に当たる警察本部の権限強化も検討すべき課題である。韓国やイギリスの例を参考に、デジタル空間での選挙違反を監視・対処する専門部署の設置や、即時的な是正措置を可能とする法的権限の付与が考えられる。ただし、この権限強化もまた表現の自由との慎重なバランスを要する問題でもあり、明確な判断基準と適正手続きの確保が必要となる。

・虚偽情報対策の強化

 虚偽情報対策については、当選目的の虚偽事項公表罪の対象拡大と実効性強化が中心的な課題となる。

 現行公職選挙法では、候補者個人に関する虚偽情報を中心に規制が行われているが、政策に関する虚偽情報や、選挙過程全般に影響を与える組織的な偽情報キャンペーンなど、より広範な対象への対応が必要となっている。特に、SNSプラットフォーム上での拡散力を考慮した場合、虚偽情報の影響度評価や、拡散経路の分析を含めた包括的なアプローチが求められる。特に、政党や候補者に対する明確な誹謗中傷・デマへの対処は真実性の認定をどう判断するかがむつかしく、基本的に、政党や候補者など陣営から対応の申し立てがあったタイミングで即応させられる方法の実現には高いハードルがある。

 また、選挙後の徹底的な捜査と厳正な処罰による再発防止も重要な論点である。現状では、選挙期間中の違法行為に対する即時的な対応が困難であるため、事後的な調査と処罰の実効性確保が特に重要となる。この点について、デジタル証拠の保全義務をPF事業者に課すことや、国際協力の枠組みを整備することなども検討に値する。この場合、当該選挙が投開票日を迎えた後でも誹謗中傷・デマなどの問題があったアカウントについては、迅速に本人確認を行い警告やアカウント削除、訴追などの手続きが取れるような法整備は必要となる。

 さらに、警察本部による「ファクトチェック機能」の制度化も検討課題となる。ただし、この機能は政治的中立性の確保が極めて重要であり、透明性の高い判断基準と、異議申立ての仕組みを含めた慎重な制度設計が必要となる。基本的に、警察庁が選挙管理の業務の一環としてこれらのファクトチェックまで代行し有権者の発言を吟味したり、削除せしめたりという機能を司るのは現状ではほぼ不可能に近い。やはり、申し立てを行う政党や候補者など陣営からの情報をベースに、PF事業者が改正公選法・情プラ法や情プラ法ガイドラインの定め等に応じて、選挙期間中は削除ではなくユーザー・投稿者に対する警告および非表示措置までとし、投開票日を終えてから個別に真実性や悪質性を吟味し、開示請求を経て個別に法的対処を速やかに行う形になるだろう。

・プラットフォーム事業者の責任

 デジタル時代の選挙の公平性確保において、PF事業者の責任と役割の明確化は不可欠な要素となっている。情報プラットフォーム対処法における迅速化規律の導入を中心に法整備が求められる。情報プラットフォーム対処法にまつわる議論については、省令および施行規則(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律施行規則の一部を改正する省令)と、今回問題になるガイドライン(特定電気通信業による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律における大規模特定電気通信役務提供者の義務に関するガイドライン)、そして違法情報ガイドライン(特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律第26条に関するガイドライン)により、法の定めで業者が対処を求められる窓口や有資格者の態様について公開が義務付けられる。今回問題となる情報の流通に関しては、各特定電気通信業者による情報の流通で削除基準の策定・公表と削除申出の申出受付窓口の整備・公表が行われる形であるため、とりあえず法の定めにより求められる省令ないしガイドラインで策定する削除基準の中に公職選挙法とコンパチとなる公職選挙規定を盛り込むべきかどうか、また、盛り込む場合にどのようなハードルを設定するかが焦点となる。ここに関わる問題については、いくつか慎重に検討しなければならないポイントが残されている。

 第一に、政党・候補者など陣営に対する誹謗中傷やデマなど選挙違反投稿への即時対応メカニズムの確立である。もちろん、この項目は特に公職選挙において伝統的な憲法論では表現の自由が最大限に護られるべきとされ、かつ選挙違反投稿といっても政治活動か選挙運動家の峻別が極めて困難であることから、重要な要素であるにも関わらず非常にハードルが高い。現行の情報プラットフォーム対処法では、違法・有害情報への対応は事業者の自主的な取り組みに委ねられている部分が大きく、選挙期間中の緊急性の高い案件に対して十分な実効性を確保できていない。この課題に対応するため、選挙期間中の違法投稿に関する特例的な即時対応義務の導入や、選挙管理委員会との連携体制の構築が必要となるが、憲法上の問題もあることから実効的な対策を情報プラットフォーム対処法で行うにあたっては、ガイドラインではなく再度の法改正が必要なのではないかという議論が説得力を持つ。

 第二に、プラットフォーム事業者のアルゴリズムに関する透明性確保である。現状では、推奨アルゴリズムによる情報の偏向的な表示や、特定のコンテンツの過度な拡散が選挙の公平性に影響を与える可能性があるにもかかわらず、その仕組みは依然不透明なままである。選挙期間中における選挙関連コンテンツの表示アルゴリズムの運用方針の開示や、選挙関連コンテンツの表示基準の明確化を義務付けることで、より公平な情報環境の整備を図る必要がある。

 しかしながら、過去に韓流村・食べログ裁判でもあるように、PF事業者においては表示アルゴリズム自体が競争の源泉であり営業秘密に類するものであって、当局と言えどこれをみだりに開示することが困難だという意見が多い。また、海外事業者において日本法人はあくまで事業主体としての出先機関に過ぎず、日本法人にいくら誰何しても当該アルゴリズムの何が核心でどのように機能しているのかすら情報が渡されていないケースも少なからず存在する。欧州AI原則のように、欧州議会が定めた望ましくないアルゴリズムによってPF事業者が運営しているかどうかを立入検査で情報収集し吟味検討する仕組みが我が国には公正取引委員会以外にないことから、政府がいくら事実確認を海外PF事業者に求めても不可知と回答されたらそれ以上事実関係を確認する術をもたない。このため、常識的に求められるPF事業者の透明性については、公職選挙という我が国の民主主義の根幹のインフラが誹謗中傷やデマにより脅かされているにも関わらず国内法規の届かないところで行われていることについては異議を唱えるべきであろう。それゆえに、透明化を求めるのであればPF事業者に少なくとも選挙期間中は政治情報の流通を行わないよう求めるほかないが、先にも述べたとおり当該選挙区以外からの誹謗中傷やデマによって兵庫県知事選は投票行動を左右させられたことから、年中どこかしらで大小を問わず選挙が執り行われている日本にとってはPF事業者に選挙での投票行動に影響する一切の政治情報を流通せしめないのが公職選挙法上の公平になると解されるため、あまり現実的な対処策とは言えない。

 第三に、選挙関連コンテンツの収益化に関する規制である。プラットフォーム上での選挙関連コンテンツの商業化は、誹謗中傷やデマなどを含む虚偽情報の拡散や選挙の攪乱行為を助長する要因となっている。この問題に対処するため、選挙期間中の選挙関連コンテンツの収益化制限や、収益化を目的とした違法行為への罰則強化など、実効性のある規制の導入が検討されるべきである。

 ただし、この論点も述べた通りPF事業者がガイドラインにある通りに法26条に基づき削除を行うにせよ、当該ポストが削除されるに足る誹謗中傷やデマなどの有害情報と言えるのか、また、これは政治活動によるものなのか選挙運動に該当するのかの判断をPF事業者が主体的に判断することはむつかしい。

 これらの規制は、表現の自由やプラットフォームビジネスの発展との適切なバランスを取ると標榜すること自体は容易だが、実際に運用するとなるとPF事業者による独自の判断というよりは被害を蒙った政党・候補者からの具体的な通報ベースで対処する形にならざるを得ない可能性はある。逆に、一定の学習データに足るレベルで有害情報が蓄積された場合には、PF事業者側の工夫で人工知能による対処も可能となる。また、法26条に基づき削除する段階の一つ手前に問題となる恐れのあるコンテンツの非表示を、投開票日が終わるまで仮に行う措置も想定し得る。

今後の展望

 公職選挙法及び関連法規の改正は、デジタル時代における選挙の公平性と民主主義の健全な発展を確保するため、公職選挙法にも明記されている選挙の自由妨害罪について厳格に適用しつつ、PF事業者向けには虚偽事項公表罪に該当する投稿・ポストを投開票日後にも警告や摘発を行って、次回以降の選挙でこれらの介入ができないように運用し、可能な限り当該人物や組織を排除していくプロセスが必要となる。

 そのうえで、選挙期間中にも極力誹謗中傷やデマなどの行為に有権者の投票行動が左右されないよう、技術の進展に合わせた形で公職選挙法自体を以下のように改正し続けていくことが求められている。

 まず、デジタル空間特有の選挙違反行為に対する実効性ある規制の確立である。これには、選挙の自由妨害罪に該当する行為の明確な類型化と、デジタル証拠の収集・保全に関する新たな法的枠組みの整備が含まれる。特に重要なのは、SNSプラットフォーム上での組織的な誹謗中傷や虚偽情報の拡散に対する具体的な対応手順の確立である。

 次に、選挙管理体制の現代化である。現行の選挙管理委員会と各警察本部による管理体制と仕組みでは、24時間稼働するデジタル空間での違法行為に十分な対応ができない。この課題に対応するため、デジタル空間における選挙違反監視の専門部署の設置や、AI技術を活用した監視システムの導入など、即応が可能な新たな管理体制の構築が必要となる。

 そして、プラットフォーム事業者の責任明確化である。情報プラットフォーム対処法の改正を通じて、選挙期間中の違法投稿への即時対応義務、アルゴリズムの透明性確保、選挙関連コンテンツの収益化規制など、具体的な義務付けを行う必要がある。これらの規制は、表現の自由との適切なバランスを保ちつつ、段階的に導入されるべきである。

おわりに

 デジタル時代における公職選挙法の改正は、単なる技術的対応にとどまらず、民主主義の根幹に関わる重要な課題として捉える必要がある。なぜならば、牧歌的な選挙報道にすべての選挙広報が隷属していた時代は確かに過ぎつつあるが、これは有権者が既存のマスメディアからネットでの動画配信に情報を依存するという有権者側の行動の変容があるからに他ならない。

 有権者の「知る権利」と「適切な判断のための環境整備」の両立を考える上では、デジタル空間における情報の氾濫は、有権者の判断を困難にする一方で、情報への過度な規制は民主主義の基盤となる表現・言論の自由を損なう危険性がある。選挙以外の偽情報対策でも同様の議論が発生しているが、この課題に対しては、中立的なファクトチェック機能の整備や、メディアリテラシー教育の強化など、情報の質を担保するための社会的基盤の整備が多面的に検証され実施されなければならない。しかしながら、放送法も含めた既存の法制度の外にあるネットでの情報流通に対して、誹謗中傷やデマなどを被害者からの通報・相談ベースでPF事業者が即応するにも課題は残される。公職選挙の将来を見据えて、何が最適な着地点であるかという議論はどうしても必要になるだろう。

 公職選挙における「選挙の公平性」と「表現の自由」のバランスの確保は簡単には両立し得ない。デジタル空間における選挙運動は、従来の地理的・時間的制約を超えて、より広範な市民参加を可能にする一方で、組織的な選挙妨害や虚偽情報の拡散といった新たなリスクをもたらしている。この両者のバランスを取るためには、明確な法的基準の確立と、透明性の高い執行体制の整備が不可欠であるが、憲法上の要請と、あるべき民主主義・公職選挙のあり方、そして有権者が情報取得で依存する既存メディアとネットの問題とを整理しなければならない。

 この場合、デジタル時代にふさわしい「選挙運動の在り方」の再定義と、それに基づいてデジタル立憲主義、私人間効力的に、国民において然るべき権利が守られるために、国は主体的にPF事業者に介入し、ネットに流れる情報の適正化や公職選挙における公平の実現を果たさなければならない。SNSや動画サイトなどのプラットフォームの影響力拡大と選挙運動の商業化は、従来の選挙運動概念の根本的な見直しを迫っているが、制限の中の平等と解される現行の公職選挙法においては特に、デジタル空間における適切な選挙運動のルール作りと、それを支える技術的・制度的基盤の整備が必要となる。

 強調すべきは、これらの課題への対応が、民主主義のデジタル化への過渡期であり、適応過程として捉えられるべきという点である。法改正は、単に現状の問題に対処するだけでなく、将来的なテクノロジーの発展も見据えた的確で柔軟な制度設計を目指す必要がある。例えば、今後予想されるメタバースでの選挙運動や、AI技術の更なる進化がもたらす新たな課題についても、予見的な検討が求められる。あるいは、土地を離れてサイバー空間にいる有権者も選挙人を輩出し国政に参加するような制度さえも想定されるかもしれない。

 このように、公職選挙法改正を通じたデジタル時代の選挙制度の確立は、我が国の民主主義の質的向上に直結する重要な課題である。その実現に向けては、法制度の整備だけでなく、市民社会との対話や国際協力の推進など、多層的なアプローチが必要となるだろう。

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山本一郎(やまもといちろう)
神から「お前もそろそろnoteぐらい駄文練習用に使え使え使え使え使え」と言われた気がしたので、のろのろと再始動する感じのアカウント