【短編小説】悪友の君へ、無垢なラブレターを。
放課後の教室に、たった一人の僕が校庭を眺めながら座っている。
16時30分だというのに、すでに秋の空は太陽を半分隠し、眩いほどのオレンジ色の斜光を放っていた。
ふわりとそよ風が吹くたびに、教室の白いカーテンが翻る。
僕はここから見る景色が好きだった。
好きになった理由は単純で、そこにはいつも君がいたからだ。
君がいなければ、僕はここからの景色を好きになることなんてなかっただろう。
僕は頬杖をつきながら、ただぼうっと夕日に映える君だけを眺めていた。
近いと思っていた君も、このごろ心だけがすごく遠く感じる。
そんな寂しさのせいか、普段ならよく話す言葉も、この気持ちだけはどうも言葉にできない。
口を開こうとするたびに、ごもごもとどもってしまい、どうしたことかうまく発音ができなくなってしまう。
もしかしたら、僕はこの気持ちに罪悪感を抱いているのかもしれない。
そうなのだとしたら、僕は君に謝らなければいけないのかもしれない。
気づけば僕は、景色なんて見ておらず、校庭で短距離を走る君を見つめていた。
息を上げ、腕で額の汗を拭く君が、なんでこんなにも僕を惹きつけるのだろうか。
僕は思わず見てはいけないものを見てしまったと目を背けるが、見続けたいという欲望が私の理性を支配して、ちらりと細目で君を覗き見した。
もうこの気持ちを否定するつもりはない。
少女漫画のヒロインが女の子であるとは限らないのだ。
言葉にできないのなら文字にしよう。
僕はボールペンと便箋を机の上に用意する。
初めて書くラブレターに指が震えた。
それでも僕はこの気持ちを君に伝えたかった。
『悪友の君へ』
"部活動お疲れ様。
君にこうやって手紙を書くのは初めてのことだね。
僕も誰かにこうやって手紙を書くのは初めてだから、うまく伝えられなかったらごめんね。
僕、どうも君のことが好きみたいなんだ。
幼馴染だとか友達だとか、そういう好きとかじゃなくて、そのなんていうのかな。
たまに君が少女漫画に出てくる主人公みたいに見えるんだ。
そういう憧れとか尊敬とか、君の隣にいたいなっていう好きって言えばいいのかな。
もし、迷惑なら僕は君のもとを離れるよ。
ちょっぴり寂しいけれども、僕と君はそうしたほうがいい気がするんだ。
この気持ちが理解されないってこともわかってるし、気持ちが悪いってことも自分がよく知ってるよ。
僕も子供の頃は、女の子を好きになるものだって思ってた。
だけど、いくつになっても僕の目は君を映していたよ。
だから、もうこの気持ちを否定することは出来ないんだ。
ここまで読んでくれてありがとう。
これが君と僕の始まりになるかもしれないし、終わりになるかもしれない。
だけれども、この気持ちを抱いたまま平然と過ごすことは、到底出来そうにないや。
僕に出会ってくれてありがとう。
僕は君のことが大好きです。
平沢 匠 より"
書き終えた便箋を白い封筒に入れ、封をする。
僕は校庭を見つめながら、ふと涙を流した。