静 霧一 『真っ白』
“大好きなあなたへ
夏の茹だるような暑さが恋しい季節となりました。
明日の天気予報は可愛らしい雪だるまが雪予報を知らせています。
日に日に、お日様を見ることが少なくなりました。
あなたを考える夜が少しづつ増えています。
海の向こうにいるあなたは、夢を追えていますか?
私はそんなあなたの背中が大好きでした。
お返事待っています。
あなたを愛する私より"
真っ白な手紙に、柔らかく、丁寧に言葉を紡ぐ。
それを白い封筒に入れ、糊で封をした。
ふと、手紙を書き終えた私の口からため息がこぼれ出る。
熱を失った指先がひんやりと冷たくなり、温かいコーヒーを少しだけ熱く感じた。
窓の外には大きな満月が白く輝いている。
あなたが私に口づけをしたあの夜も、こんな大きい白い満月でしたね。
半年も前のことのはずなのに、それが昨日のことみたいに、未だに私の唇に熱を灯している。
そっと指先で唇に触れると、少しだけあなたの残り香を感じた。
あれは美しい満月の幻想だったのでしょうか。
私が白いシーツの上で目を覚めると、私の隣には、あなたの抜け殻が横たわっていて、それは朝の光とともに、きらきらとした灰となって消えていった。
悲しいとは思わなかった。
あなたと通じたと思うだけで、私は幸せだった。
私はスマホを取り出し、写真フォルダの中からあなたを探す。
初めて撮った写真は、ちょうど四月の桜の雨の中でしたね。
ぎこちない距離の空けた私は、その恥ずかしさを隠すために俯いてしまっていた。
あんなに鮮明に輝いて見えた桜の雨も、写真越しのそれは、今ではただの花びらに見えてしまっている。
四季の彩があんなにも綺麗だったのは、私の不器用な一方通行の愛のせいだったのね。
時の移ろいが無限だと思っていた私に呆れちゃうよ。
きっとこの冬が過ぎれば、あなたと出会った春になる。
春になれば、私もあの頃みたいに笑えているだろうか。
あんなにも楽しかった日々は、もう昔のこと。
昔のことなはずなのに、私の心はそれをまだ引き留めてしまっている。
君に抱かれた満月の夜のこと。
たった一夜のことだけだったのに、私はすごく幸せだった。
君の隣で見た夢せいなのかな。
真っ白な薔薇に包まれて、あなたと二人、寄り添いながら柔らかな香りで眠っている夢。
このままいられたら素敵だというのに、夢は続かないものなのね。
あなたが私を好きでないことぐらいわかっている。
あなたの笑い方をそっと、本気で真似てみたり、あなたの悲しみに、そっと手を添えてみたり。
でも、あなたはずっと、私の前に現れただけの人だった。
それは、今も変わらない。
夢のために、海の向こう側へ行ってしまったあなたは素敵です。
それに比べて、私はなんて弱い生き物なんでしょう。
「大丈夫さ、また会えるよ」
そんな言葉一つで救われる私に、束の間の春をください。
私のこらえた涙がこぼれださないように。
封をした手紙の宛名は真っ白なまま。
きっとこれはあなたに届かない手紙。
「―――ありがとう」
私は満月に呟いた。
曲を聴いて一目惚れしたので、書きました。
ドラマは見ておりません。
私はアニメMVのほうが好きです。