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【どうぶつほらばなし】続・喧嘩両生類2(全2話)

これまでのあらすじ

〈純愛大河「喧嘩両生類」第1部あらすじ〉
何故か死闘に及んだ幼馴染のカエル(タマちゃん)とイモリ(イーちゃん)。イモリは、初恋相手のカエルが自分を忘れていることが許せなかった。殴り合いの中ようやく目の前の相手が誰か思い出すカエル。しかし時すでに遅し、直後に命中した渾身のイモリパンチがカエルの記憶をすべて奪い去ってしまう。
そして時は流れた……。


〈純愛大河「喧嘩両生類」第2部前半あらすじ〉
ここは沼の下コロシアム。異種格闘技トーナメント決勝の舞台でふたりはふたたび対峙、またもや死闘を繰り広げる。カエル(タマちゃん)は、自分の記憶を奪った憎き相手を倒すため、イモリ(イーちゃん)は愛しい彼の記憶を取り戻すため、それぞれ格闘技の世界へ身を投じていたのである。
試合はカエルのペースで進み渾身のクロスカウンターが炸裂するも、イモリの予想外のパワーで同士討ちに。ダブルノックダウンとなったふたりの頭上でレフェリーによるカウントがこだまする……。


「喧嘩両生類(カタストロフ)」(2024切り下ろし)

第3章 ふたたびタマちゃんの場合


遠くに聞こえていたくぐもった音が、だんだんと近く、鮮明になる。
耳に伝わるその声を、カウント8(エイト)と認識したとき、僕の身体はすでに立ち上がり、ファイティングポーズを取っていた。

照明が眩しい。
のぞき穴のようだった視界が全面に広がり、僕は自分がリング中央にいることを知る。
そして気づく。
目の前で不安そうにこちらを覗く、グローブ姿のあのイモリ。
間違いない。あれは……!

「イーちゃん?」


第4章 ふたたびイーちゃんの場合


幻聴かと思った。
カウント3で立ち上がったものの、あのカウンターは正直かなり効いた。
ひょっとして私は、まだ夢の中にいるのかもしれない。

しかしあの懐かしい声、そして目の色は疑いようがない。
思い出したんだ! 私のことを。
胸が震える。
もう一度、彼の口から私の名前を聞きたい。

「ファイト」「ファイト」とさっきから、レフェリーが五月蝿く周りを跳ね回る。
だまれ。
彼は目覚めた。
もう戦う理由などどこにもない。
邪魔をしないでくれ。

待ちきれず叫んだ。
「タマちゃん! そう、あたし、イーちゃんよ!」
私は、せっかちだ。

戸惑いの表情を浮かべる彼。
当然よね。
再会したのが、いきなりこんな場所なんて。
状況が飲み込めないのも仕方ない。

次の言葉を待ちわびる私に、
ようやく彼は弛緩しきった表情のままこう告げた。

「え…… 『あたし』? 僕が知ってる幼馴染のイーちゃんは、たしかガタイのいい男の子だったはず。……きみはだれ?」


リングに漂う空気の変化にいち早く気づいたレフェリーは、押し黙って一歩身を引く。
小刻みに震えるイモリ。
その時カエルと、観客は確かに見た。
イモリの胸にある真紅の模様が、紅蓮の炎となって左拳まで広がるさまを。

タマちゃんの……タマちゃんの馬鹿ァ!!

ノーモーションで繰り出されたアッパー気味のフックをもろに食らい、カエルはコーナーポストまで飛ばされ舌を出したまま失神。
そのあまりの威力に観客は息を呑み、試合終了を告げるゴングのあと会場に不気味な静寂が訪れた。


……またやってしまった。
私は今も昔も女の子だ。多少ボーイッシュだったかもしれないが。
怒って当然だとしても、いつものごとくやりすぎた。
どうしていつもこうなんだろう。
こうして抱えあげられるほど身体は近くあるはずなのに、会えたとたんに心は遠く離れてしまう……。


虚空を見上げたイモリの頰に水滴が落ちる。
天が流した涙。
いや。
これは最後のパンチの衝撃波を受けて生じた壁の亀裂、そこから伝わり滲み出た、池の水であった。

間をおかず激しい音を立てながら一斉に壁が、天井が内側に倒壊。同時に大量の水がコロシアムになだれ込む。
悲鳴を上げ逃げ惑う観客の中伸びたカエルを両腕に抱えたイモリは、ただひとりリング中央で仁王立ちのまま微動だにしない。
なにもかも濁流に飲み込まれ、沼の下コロシアムは幻のように姿を消した。

はたしてふたりの運命やいかに__。


(純愛大河『喧嘩両生類』第2部完)

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きりえや(高木亮)
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