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【9】切り絵 針と刃

レンガのくぼみに 沿う ぬい針
針山から 離れた 一本

拾いかけたら するりと 手から落ちる
すり抜けるように レンガに なじむ

消え入りそうな か細い 針
探していたもの いや 探していたものではなかった
必要のない 刃先が 折れた針と
共に 虚空に 消えた

子供の頃から 好きだった 針しごと
ほぼ使った形跡のない 母から借りた裁縫箱

いつも 針山に マチ針が きれいに 刺さってて

口を酸っぱく言われた 唯一のこと
針は必ず 針山に 戻すこと

その辺に 置きっぱなしにしたら 絶対に だめだって
針を無くしたら いつのまにか 刺さって
体の中に入って 全身を泳ぎ回るって

そんな 脅し文句を 子供だから 本気にしちゃって

つい その辺に置きっぱなしにして
どこいったか わかんなくなって

心臓がバクバクしながら 血眼になって
針を探したっけ

でも 見つかんなくて
途中で もうだめだって
もう 体に針が入って死んじゃうんだって
半べそ かいたら

やっと 見つかって 嬉しくて
これからは ちゃんと 針山に 戻すって 誓うのに

また 忘れたころに うっかり 無くす
人間なんて そんなもん

そんなこと 繰り返して 気がついたら 大人になってる

後始末に 大層な労力使って
本来の目的を忘れたり
結局 時間が無くなって やりたいことがやれないとか

そんなこともあるけど それも 悪くない

自分や 誰かの 尻拭いは つきものだから
何事も すんなり 上手くはいかなくて 当然

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