
祖母の家を片付ける【嫁入り道具-2 不思議な家紋】
こんにちは。
築70年になる祖母の家を片付ける作業を母と一緒に進めています。
古い大きな木で組まれた美しい家で、住んでいた人の生活が染みついたような家が私は大好きでした。
今回はそんなお片付けの時に出会った祖母の嫁入り道具のお話。
奥の奥の部屋から現れた巨大な木箱、長持。
これは祖母の嫁入り道具だと判明!

この家紋は一体?
長持にある家紋は祖母のお家の家紋でもない。
でも長持だけでなく、同じくでこの空間で見つかった桐箪笥、桐箪笥の中の着物にもはっきりこの家紋が入っていました。
この家紋は一体誰の家紋?
五三桐の家紋
この家紋の名前は、五三桐紋というようです。
五三桐紋は、中心に5つ、左右に3つの花を立てた桐紋。多くの場合、皇室から直接『五七桐』を下賜された家から、家臣などに家紋を与えらる場合に『五三桐』となる。
明治以降、冠婚葬祭用に正装の紋付きの着物を持たない人たちは貸衣装を利用したが、そこに入っている家紋に『五三桐』が多かったため、自分の家もそうだと勘違いした人も多いという。
桐は鳳凰が住む木とされていて、梅、藤、木瓜、片喰とともに五大家紋の一つだそうです。
しかし我が家にはきちんと家紋があるので、勘違いというわけではなさそう。
どうしてそんな家紋が我が家の嫁入り道具に?
祖母の嫁入り道具
真相を知っていたのは、祖母の兄弟のお嫁さん(85歳)
「昔はな、嫁ぎ先の家紋がわからん時に桐の家紋を入れとってん。」
嫁ぎ先の家紋がわからない時に入れる万能の家紋とのことでした。
きっと祖母の両親は相手(祖父)の家紋がわからず、それでも嫁入り道具を準備するのにこの家紋を使ったのでしょう。
今みたいに気軽に電話で聞けるような時代でもない。ネットもない。
なんならどんな相手なのかもよくわかっていなかったのかもしれないですね。
時代とはいえ、自由恋愛で結婚した身としては、ほんの70年前の世界にびっくりです。
漫画の「あたしンチ」でも、お見合い結婚のお父さんとお母さんのお話にはびっくりしておりましたが、改めてびっくり。
たくさんの着物、たくさんの家紋
桐箪笥の金具も桐紋が使われていました。
家紋がわからないお家が多くて、重宝されていたのかしら。
でもおよそ70年ぶりに開けられた?と思われる桐箪笥の中の着物はカビることなく、そのまま時間が止まっていました。
そのくらい、丁寧に作られていました。


毎年、長雨のときに革のバッグに生えるカビと戦っている私からすると本当にすごい!
2020年の梅雨はお出かけもしないし雨だしで、やばかった…。
たくさんの着物が出てくる中、桐の家紋入りの着物も出てきました。
黒い喪服、黒留袖、吉兆の紫色の着物(儀礼用?)
金糸銀糸の使われた豪華な吉兆の帯
真っ赤な長襦袢
しつけ糸の切られていないカジュアルな着物


大変美しい

しつけが取れていないところをみると、祖母は嫁入り道具の着物をあんまり気に入ってなかったのかな?と思いました。
時代的に洋服がすでに入ってきていて、楽ちんでハイカラな服を着たいのにこんなに着物ばっかり…!とぷんぷんしたりしたのかな、母が祖母の用意した嫁入り道具の家具を嫌っているように。
すると母の意見は違いました。
「昔は物がなかったらから。
昔と今では着物の価値が違うやん。昔はお金に困ったら着物や反物を売ってたそうやで。」
物に溢れた時代、大量消費が当たり前の時代を育った私にとって、物がなかった時代背景をささっと想像できない。想像力の欠如。
「おばあちゃんは困窮することはなかったから、嫁入り道具に手をつけんでよかったんやろうな。」
一昔前の家族観や感覚を現代人が理解するのは難しいのかもしれないですが、もしかしたら…
祖母が、嫁ぎ先で困らないように。
優しい人なのかよく働く人なのか、どんな相手なのかもわからない、それでも困らないようにできることをやってあげたい。
桐箪笥いっぱいに詰め込まれたたくさんの着物や、冠婚葬祭で恥をかかないように仕立てた紋入りの着物や金糸の帯。いつかお金に困ったらそれを売って生活ができるように願いを込めていたのかもしれません。
だとしたら、それは愛ですね。

家紋入りの長持も、金細工まで家紋の形をした桐箪笥も、どうか娘の夫なるものが優しい人でありますように。甲斐性のある人でありますように。別の世帯を持つ娘が長く幸せに暮らせますように。
全ては娘への愛ゆえに。
祖母はきっと、両親に愛されていた。
祖母は両親からの着物に手をつけることなく、こうして自分の手元に届いたのです。
留袖は祖父の家紋入りのものが他の桐箪笥にあったので新しく仕立ててもらったようです。甲斐性はあったようですね。
祖母の両親。会ったこともない遠い人ですが、細く長く自分につながった縁のようなものを感じました。
これは決して簡単に手放してはいけない縁だ思います。
蝶よ 花よと 育てた娘 今日は晴れての嫁入りだ
さあさな お立ちだよ
お名残惜しや 今度 来る時 孫連れてナー
そんな祖母に育てられた母も。
母に嫁入り道具をたくさん持たせてくれた祖母も、きっと母を愛していたと思います。
さあさあ お立ちだ 名残惜しや
今度来る時ゃ 孫連れて
傘を手に持ち さらばというて
重ね重ねの いとまごい
重ね重ねのいとまごい。
送り出して最後にお別れの句が入る長持唄、大変美しいですなあ…。
▼お片付け記録はマガジンにまとめております。
精進いたします。
切り絵作家 ひら子