三人展《シェイクスピアの妹たちの部屋》|書斎|花モト・トモコ
書斎といえば、本を読んだり何か書き物をしたりする部屋のイメージが浮かぶ。周囲は本棚に囲まれ、重厚な机の上には積み上げられた本が置かれている風景だ。
実は書斎の本質は家具や用途にはない。書斎の「斎」という字は一定の場所に「こもる」ことを意味するという。自分ひとりでその部屋にこもって読書なり書き物なりに没頭する。
つまり書斎とは、自分だけの部屋のことなのだ。
ヴァージニア・ウルフの『私ひとりの部屋』には、かつて存在し得たかもしれないシェイクスピアの妹が登場する。まだ女性に様々な権利や自由がなかった時代、ものを書くための自分だけの空間など、その妹には存在しなかった。
才能豊かな彼女にもし書斎があったなら、どんな作品を書いていただろうか。
花モト・トモコの代表的な作品として、異なる素材の紙に描かれた絵を切り抜き、立体的に再構築する切絵がある。
モノの存在感に焦点を絞ったその作品は、二次元と三次元の合間に位置する不思議な浮遊感を漂わせている。
書斎には欠かせない本。積み上げられた本たちは、まるで空中に漂っているかのようだ。一番上に添えられた黒薔薇は書斎の主の美学の象徴か。
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読書や書き物にはそれに適した椅子が必須と言える。
知恵の象徴たる蛇が背後を守り、美を象徴する馥郁たる薔薇が描かれた優美な菫色の椅子は、自分の城である書斎の中心的な存在だ。
古のデザインを現代に甦らせたゴーストチェアは、ひとりだけの思索に耽る書斎に相応しい。
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自分だけのプライベートな空間には、優しい光が似合う。
お気に入りのアクセサリーを外し、素の自分に戻ることができる時間。書斎に置かれた卓上ランプは、花モトの卓越したデザインセンスに彩られ、静かに夜の闇を照らす。
画面から浮かび上がるランプは、色鉛筆と鉛筆の柔らかな筆致で描かれている。ゆったりとしたその形に浮かび上がるイメージに、穏やかなひとときを思う。
何処に在ってもどれほどの広さだろうと、誰にも邪魔されない空間があれば、それは書斎足り得る。
ウルフが語った言葉を経て、幾多のシェイクスピアの妹たちの挑戦と挫折の上に、また新たな物語が自分ひとりの部屋である書斎から始まる。
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作家名|花モト・トモコ
作品名|Tower of books
鉛筆・水彩絵具・水彩紙・ボール紙・ジェッソ
作品サイズ|28.8cm×20cm
額込みサイズ|39.5cm×30.4cm
制作年|2017年(アーカイヴ作品)
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作家名|花モト・トモコ
作品名|Ghost Chair
水彩絵具・水彩紙・ボール紙・ジェッソ
作品サイズ|28.8cm×20cm
額込みサイズ|39.5cm×30.4cm
制作年|2017年(アーカイヴ作品)
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作家名|花モト・トモコ
作品名|Lamp of dream
画材・支持体|色鉛筆・鉛筆・水彩紙
作品サイズ|33.6cm×26cm
額込みサイズ|44cm×36.4cm
制作年|2018年(アーカイヴ作品)
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