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二人展《空はシトリン》|永井健一&影山多栄子|夜汽車の希求

 「青森挽歌」の対照的な2つの声、亡妹トシへの願いと遺された者の哀嘆が、永井さまの2作に響き渡ります。影山さまの人形1点は、私たちをトシの無邪気な面影へと誘います。

 夜の静けさが、遠くから聞こえるさまざまな声を総動員して、心にのしかかってくる。風景がびゅんびゅんと通りすぎる汽車の中、トシの姿が詩人の頭の中に往来する。

 水族館のように光る窓は、焦点を集めるように降り注ぐ光として描かれている。苹果の香気が漂うガラスに閉じ込められているのは「わたし」。

 たおやかな花咲く野原は、しとやかなパステル調で描かれ、賢治の想像する「明るいいゝ匂」のする夢幻を思わせる。

 すきとおった空色に、ミルキーな薔薇色、ぽつぽつと光る幻灯が、トシが明け方まで見たであろうこの世の夢を伝えている。祈りの静かな瞬間は膨張し、汽車は賢治の見る夢想に満たされている。

 いたずらっぽい大きな耳のような、天使の羽のようにすぐ飛び立って逃げてしまいそうな、菫色の人形。

 夜汽車の沈み込むような菫色に、ぱっと光を投げる黄色の衣服。野原に咲く黄色い花を想ったトシの声は、最期の日にも不思議と軽やかだった。飄々とした茶目っ気を感じさせてくれる眉のアーチと小さなほほえみ。

 永井さまの作品では、人物と風景が融合する作風が、見事に詩と溶け合っています。また、影山さまの人形の持つ幻想世界は、「青森挽歌」で賢治が夢想するこの世とあの世を自在に訪れてくれるようです。

会場風景写真|霧とリボン

永井健一|画家 →HP
大阪大学文学部美学科卒業後に作家活動を開始。個展や企画展等で作品発表をしながら、イラストレーターとしても活動している。絵画に詩や写真を織り交ぜた作品「book opus」やオブジェ作品の制作、演奏会の映像演出など作品発表の形態は多岐にわたる。近年は、生の“寂しさと煌めき“をテーマに制作している。

影山多栄子|人形作家 →Blog
山吉由利子(球体関節人形)、宮崎優人(市松人形)に人形制作を学ぶ。石粉粘土と布を中心に様々な素材を使い、ひとりひとり違うお話を感じさせるような可愛らしさと不思議さを持った人形作りを心がけています。[個展]2003年 「うきわ」ギャラリー古桑庵、2004年 「まくら」ギャラリーNonc Platz。以後数年おきに個展を開催。ほか企画展、グループ展など多数。2007年創作人形専門誌「Doll Forum Japan 49号」表紙掲載。2018年 作品集「遠くをみている」発行。

維月 楓|詩人・英米文学研究者・翻訳家 →Twitter
幼少期より言葉が織りなす世界に魅了され、現在は詩作を行いながら英米文学の研究を行う。古今東西の女性詩人の作品を読み解くことを通して、彼女たちの人生の軌跡に敬愛を捧げている。



作家名|永井健一
作品名|苹果の明滅

アクリル・水彩・色鉛筆・アルシュ水彩紙
作品サイズ|20.3cm×14.2cm
額込みサイズ|33cm×26.7cm
制作年|2022年(新作)

作家名|永井健一
作品名|みんなよるのために

アクリル・水彩・色鉛筆・アルシュ水彩紙
作品サイズ|20.3cm×14.2cm
額込みサイズ|34.5cm×28.5cm
制作年|2022年(新作)

作家名|影山多栄子
作品名|黄いろな花こ

顔のみ石粉粘土・アクリル絵具・布・ポリエステル綿・ガラスベレット・ビーズほか
作品サイズ|身長22cm/座高15cm(羽を含む)
制作年|2022年(新作)
*オンラインショップに別ショットの画像を掲載しています

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