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白砂山(群馬県中之条町)登山

恒例の登山。今年は群馬・長野・新潟の三つの県を分ける白砂山(しらすなやま)に登る。標高は2139m。ここへ野反湖(のぞりこ、標高1513m)の北にある登山口から600m登る。片道6.5km。平均斜度5度というところか。

おじさん三人は草津の宿に前泊する。関西から来るKさん(40代後半)と関東から来るYさん(70代前半)、私(40代後半)のいつもの三人。以前同じ福祉施設に勤めていて知りあい、今もそれぞれ福祉の仕事を続けている。Yさんは我々福祉職のいわば師匠で、70を過ぎても2000mを超える山に登るツワモノである。高校の頃は登山部にいて北アルプスの山を縦走したと言い、今年は今日のために1900mの山に登ってきたというからツヨい。

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11月の三連休、雪のない山に登るには最後の週末。宿に朝食を弁当に変えてくれるよう頼んでおいたのだが断られる。大きなホテルだから融通が利かないんだろうね、とYさん。それで宿で朝食を取ってから登ることにした。車で登山口へ向かう途中、昼食を買い忘れる。それぞれが持って来た非常食と前泊して買い込んだおやつを出して分けあう。カロリーと塩分は十分。これを昼食にすることにした。

9時40分、登山口で車を降りると早速風速10mの西風が吹く。でも今日はかろうじて晴れ。一昨日まで台湾に台風があり、今日から明日にかけて熱帯低気圧が日本を横断するという天気だが、信越はなぜか晴れ、しかもこの季節としては温かい空気を運んでくれて標高1500mでも気温9度であった。車で登ってきた、おそらく野反湖キャンプ場の管理をしているおばちゃんが、登山届は出しましたか? 今からじゃ遅いんじゃないですかねと声をかけてくれる。否定のしようもない。行ってきますと応えて9時50分に登山開始。

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平均斜度5度といっても緩急はある。森の中、初めに急な登りがあり、下って二つの沢を越える。登山道は整備されていて道に迷うことはない。今日は標高計も用意した(スマホのアプリにある)。登り半分、3.2kmのところにある次の水場を目指す。

11時、途中にある堂岩山(どういわやま)と南下する八間山(はちけんさん)の分岐手前にある水場の上に着く。ここで登りの半分。ここから200mほど下ると沢がある。ここは木が生えておらず広くなっていて、20平米ほどあるだろうか、ここにテントを張ることもできますねと話す。後日調べると「堂岩泊場」と呼んでいる人もいて、つまり白砂山はテント泊の縦走が可能なのだ。

私自身はいわゆる赤筋体質で、瞬発力はないが持久力に優れる筋肉が多いらしい。そして下りより登りの方が楽に感じるupper typeだ。登りは黙々と進めば良い。数年前に鋸岳(のこぎりだけ、新潟県妙高市)を登頂できなかった時の反省から、息の上がるような登り方はしない。軽く下ったり平らだったりする時には力を抜いて筋肉を休めながら歩く。きつめの登りは小刻みに歩いて筋肉を強く使わない、ということを心がけていたら今年の登りは楽だった。

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泊場を過ぎて少し登ると間もなく堂岩山頂(2051m)に着く。でもまだ森の中。そこから少し下ると一気に視界が開ける。ここまで登ってきた人の誰もが思うのであろう、あぁ、この眺望を見るために登ってきたのだなぁと思う。こんなに見事な山の風景を私は見たことがあっただろうか。子どもの頃に叔父に連れられて登った茶臼岳(栃木県那須塩原市)の山容はどうだったかなと思う。

堂岩山から先は稜線を歩く。ということは高い木がなくなり、風に吹き晒されて耐える東石楠花(アズマシャクナゲ)や這松(ハイマツ)の低木と熊笹の中を歩くということだ。1mほどの幅に下藪が切り払われている。この藪をよく切り払ってくれたなぁと登山道を整備する人たちに感謝する。

稜線の下りと登りを繰り返し、間もなく猟師の頭(りょうしのかしら)に着くと、吹き晒しの山頂に先に登って下りてきた一人の男性が立っている。Kさんがこの先どうですか? と訊くと、結構アップダウンがあって、きつかったですとのこと。分岐を八間山へ行きますか? と訊くと、否、(白砂山の)ピストン(往復)で帰りますとのことであった。

この先、何も遮るものがなく白砂山の頂が見える。あそこへ登っていけば良いのだと「見えて」いることは登山者にとってどんなに励みになることかと思う。「見えているあそこへ登っていけば良い」のだ。

13時30分、白砂山登頂(2139m)。山頂は何本かの這松が切り払われていてやはり広くなっている。Yさんが担いできてくれたビニールシートに座って食事をする。強すぎない風が吹いていて汗を乾かしてくれる。山の海とでも呼ぶべきだろうか、眼下に広がる樹林帯と、北東に見える新潟から福島の山塊、南西には北アルプスが見える(ような気がする。山の同定は難しい)。

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30分ほど休んで14時に下山開始。ここまで4組、6人の人とすれ違ったが、我々が一番最後であることが判る。4時間近くかけて登ったことを考えると、下りが3時間だとしても下山は17時。日没が17時過ぎだから、分岐を南下して八間山に縦走することは諦める(しかないかなと思う)。

猟師の頭、岩堂山と戻るのが結構つらい。往路、下りもそこそこにあって楽だった分、復路にも登りが結構ある。でも一度来た道で下りには安心感がある。

登りで結構頼りにしていた一本杖(ストック)が役に立たない。三つに折り畳めて持って登るのに良いかなと思い買ったのだが、畳める部分に緩衝のバネが入っていて、それを下りで突こうとするとバネが伸びて折れてしまう。軸の中にあるワイヤーを巻き取る仕組みが入ってないからワイヤーが戻りきらずにこうなっちゃうんだろうなぁ、やっぱり○国製は駄目だなぁ、日本製ならこういうことはないだろうなぁと思う。弱い者が更に弱い者を叩こうとする。

それにしても復路の気持ちは軽い。やたらと長いな、まだ着かないかなと思いつつ、三人が勤めていた施設の子ども達の誰がどうした、彼は何してる、彼女はこうしてるという話が尽きない。それにしても岩堂の泊場から先の下りが長い。同じ道を登ってきたとは思えないほど長く感じる。15時30分、そろそろ日が傾いてくる。

少し緩かった登山靴の足指の痛みに気づく。実は一昨年買ってあった軽登山用の靴を実家に忘れ、家にあったハイキング~軽登山用の少し大きめの靴を履いてきたのだった。登りは靴の中でつま先の当たることがあまりないから痛みもないのだが、下りは靴先につま先が当たり続ける。歩くスピードが落ちる。

16時30分、まだ二つの沢に着かない。日は間もなく沈む。薄暗くなってきたせいか、膝の痛みに気づく。下りで膝が痛くなるのは自然だ。体重を一方の膝にかけてから足を地面に着き、反対の膝にかけてから足を着くという動作を繰り返すから、筋肉のない膝関節を酷使することになる。関節周りの筋肉をいくら鍛えても関節自体に痛みが出てきてしまう。

二人に追いつけなくなってきた頃に日が暮れる。Yさんがヘッドライトを出してくれる。でも私にはそれを着ける気力がない。二人の後を追い続ける。17時30分、ようやく一つめの沢に着く。もう空の明かりはほとんどない。渡れそうな石を踏み沢を渡る。二つめの沢には途中から橋がかけてある。それをそろそろと進む。

17時50分、先頭を行くYさんが駐車場が見えてきましたよと教えてくれる。18時、下山。駐車場に残っているのは我々の車だけであった。結局下りも4時間かかってしまった。下山する恐ろしさとでもいうべきか。

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草臥れているのにYさんが運転してくれる。でも全身に力が入らないという具合で、眠いわけではない。むしろ頭は興奮気味で、帰って来れたことに安堵と充実感がある。

18時40分、宿に戻る。夕食前に入浴できそうで風呂に浸かる。草津の温泉は硫黄くさくて良い。疲れが融け出していく感覚に加えて、筋肉を解してくれるという感覚もある。

夕食が旨い。カロリーを消費し尽くして食べるから何でも旨い。そもそも体が求めているし、今回はYさんの言うことに従ってバイキングでない宿にしたから量より質のおかずが旨い。東京から来たという(チェーンのホテルだから異動で来た?)手足の長いお姉さんが給仕をしてくれて、おじさん三人は幸せである。

三年前に登頂できなかった鋸岳以来の登山。二年前には雨で妙高山に登れなかった。名字から一字ずつ取って山北田と名づけたこの登山隊で初の登頂は群馬の白砂山となった。

のんびりと帰る三日目に車で草津白根山に登った。森林限界を超え、岩山に硫化水素の噴き出す地獄谷を眺めながら、早速来年どこへ行こうかと話す。

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