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《episode》vol.2 by Director KAZUYOSHI OKUYAMA

口笛を吹くピエロ人形について(後編)

3年ほど前のある日、過去の映画資料を整理していた。掘っても掘ってもきりがない、膨大な量。俺がいなくなったら、ただのゴミとして処分されるだけだろう。そんな情ないことを考えている時、30年近く会っていなかったピエロとの再会。
スイッチを入れてみる。ピクリとも動かない。あの口笛をハッキリ覚えている。でも聞けない。電池を見る。液が出てサビていた。そのサビはスイッチまでを溶かしており絶望的。どうしてもあの時のあの口笛を聞きたい。悔しかった。
何ヶ月か経った時、街中でふと「玩具直します」の手書きの看板を見つける。すぐ持っていくと「治るかどうか、分からないけどやってみますね、1週間の入院ということで」これまた昭和にタイムスリップした如くの優しいおじいちゃん。
そして「退院」の日、スイッチを入れると足を揺らし首を振り、あの懐かしい口笛が。ピエロの目が光って見えた。全てを知っている様な目。
親父はあの一晩、このピエロの目を見ながら話しかけていたかもしれない、自分がどんな目にあったかを。
口笛をききながら走馬灯のように蘇る記憶、、、我を忘れ話しかけていた。 「親父、あの夜、どんな目してた?何いってた?」 生き返ったピエロに魅せられていった。過去を共有してきた親友のように。いつも近くにいた気がする。
ピエロとはよく話した。時には自分の映画人生を振り返っての話もするようになった。俺はなぜ映画を作るという道だけを疾走してきたのだろうか。助監督として現場を走っていた時から数えれば約50年、製作本数は100本以上。これからも作り続けるのか。いつまで続けるのか。
ちょうどその頃、宿願の企画だった『奇麗な、悪』が動き出していた。たった一人の女優がほぼワンカットで演じきる、それで映画を支えきるという異常な企画。それに耐えうる理想的女優の出演が決まったのだ。瀧内公美だ。 ピエロの口笛を聞きながらはっと思った「そうだ、お前もこの映画に出ろよ!この口笛が必要だ」

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