燐寸箱 002/映像脚本
○真紀の部屋・内
テーブルを挟んで、真紀と友紀が座っている。
真紀「否定的なことを言っちゃダメだって言っただろ!」
友紀「だって、あんなところで飲んだらベラボウな金額を請求されるぞ!」
真紀「あ~あ、飲みたかったなぁ、キレイなホステスさんと!」
友紀「二人でだって払いきれないって!」
真紀「まぁな」
友紀「なぁ、もう一つ取ってみろよ」
真紀「なんだよ、信じたのか?」
友紀「いや、三度目の正直って言うだろ」
真紀「わかった。じゃあ、マッチをとるぞ」
友紀「おお」
真紀「いいか、絶対に否定的なことを言うなよ!」
友紀「絶対に言わない!」
真紀「よし!」
と言って、大量のマッチの中から一つを取る。
ブラックアウト。
○マッチを擦る音
パッと火が灯る。
○黒塗りのVIPルーム・内
友紀「今度はどこだ? 日本か? 外国か? 外国ならパスポートはどうし
たんだ!?」
真紀「落ち着け! (マッチを見ながら)ここは、六本木だ」
友紀「銀座の次は六本木かよ!? マサキのおやじさんは何をしてるんだ?」
真紀「商社マンだったんだ。今は辞めて、田舎で家業を継いでるよ」
友紀「みかん農家だっけ?」
真紀「ああ」
友紀「この店の雰囲気とは、まるで結びつかないけどな」
真紀「農家をバカにするなよ!」
友紀「してないよ! するわけないだろ! それより、ここも高いんじゃな
いか?」
真紀「だろうな。お得意さんの接待に使ってたんだろうな、たぶん」
友紀「ダメ! 高いのは絶対にダメ!」
真紀「あッ!」
○真紀の部屋・内
テーブルを挟んで、真紀と友紀が座っている。
真紀「否定的なことを言っちゃダメだって言っただろ!」
友紀「だって、あんなところで飲んだらベラボウな金額を請求されるぞ!」
真紀「さっきも、全く同じことを言った」
友紀「言いたくもなるよ。破産しちゃうって!」
真紀「じゃあ、もう帰れ」
友紀「いや、もう一度やってくれ。頼む!」
真紀「わかった。でも、今日はこれが最後だからな」
友紀「なんで?」
真紀「昨日、一人でやってたら、五度目はダメだったんだ」
友紀「へぇ、そうなんだ。わかった」
真紀「そして、否定的なことは絶対に言うなよ」
友紀「うん、わかった」
真紀「よし、じゃあマッチを取るぞ」
友紀「ああ」
真紀が大量のマッチの中から一つを取る。
ピッというリモコンの音―暗転。
友紀「うわぁ、真っ暗だ!? ここは、どこなんだ?」
ピッというリモコンの音―照明イン。
友紀「(周りを見回し)どこだ? どこだ? あれ、マサキの部屋じゃない
か!」
真紀「ああ、そうだよ」
友紀「おとうさんは、この部屋のマッチも持っていたのか?」
真紀「ば~か! そんなわけないだろ」
友紀「だ、だよな」
真紀「悪いな。これは一日三度までなんだよ」
友紀「えッ? でも、さっき」
真紀「昨日、四度目をやってみたらダメだった」
友紀「なんだよ、そういうことかよ」
真紀「まぁ、続きは明日のお楽しみということで、今日はもう帰れ」
友紀「ちょっと待てって! マサキ、これを普通に受け入れてるのか?」
真紀「受け入れるって?」
友紀「このマッチの現象をだよ」
真紀「現象って? トモキ、これが現実だと思ってるのか?」
友紀「え、どういうことだよ? これは現実じゃないのか?」
真紀「違うだろなぁ」
友紀「ど、ど、どういうことだよ? じゃあ、これはなんなんだよ!? 手品
か? イリュージョンか?」
真紀「俺たちは、古いマッチに、いや、マッチ箱に、迷宮へと誘(いざな)わ
れたんだよ」
友紀「すげぇな、マサキ。この現象を、そんなメチャクチャな論理で受け入
れちゃうのか!?」
真紀「だって、それしか手立てはないだろ? 真剣に考えてたら頭が爆発し
ちまうよ、俺たちの平凡な頭じゃな」
友紀「そういう結論でいいのかなぁ…」
真紀「まぁ、そういうことだよ。興味があるなら、明日また来いよ。もう帰
れ」
友紀「なんだよ、それ。俺はマサキに相談があって来たんだよ」
真紀「なんだ、恋愛相談か? ムリムリ。早く帰れ!」
真紀が友紀を無理矢理立たせ、部屋から追い出す。
友紀「おい、待てって」
○真紀の部屋・外
友紀がポツンと立っている。
友紀「なんだ、なんなんだ!? 訳がわからないよ! 今夜、眠れるかな
ぁ…」
そう言いながら歩き出す。
(終)
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