哀捨て iN THE DARK 009/映像脚本+詞(コトバ)
○緑のきれいな森の中
ジョイベル、ショウワァ、ミス・フォーチュンが歩いて来て、森の奥
へとどんどん進んで行く。
と、突然木の上から、ドングリリスの女の子が落ちて来る。
S「(ディーバの所へ行きながら)大丈夫?」
J「ケガはないかい?」
M「木登りの上手なドングリリスさんがどうしたの?」
D「キャー! (ジョイベルを見て逃げようとして、転ぶ)」
S「逃げなくていいんだよ。ジョイベルは、君を喰べたりしないから」
M「本当よ。信じていいわ! (ディーバを助け起こす)」
D「ホントかしら? あなたたち、グルなんじゃないの?」
M「なぜ?」
S「どうして?」
D「あなたたち二人を喰べない代わりに、彼の喰べものを探してあげてるん
じゃなの?」
S「そんなことしないよ!」
M「ジョイベルは、友だちよ!」
D「友だち? オオカミと!?」
M「そうよ! 私に名前をくれたのよ」
D「名前を?」
J「まぁ、その話は長くなるから後にしようよ。それより、足は大丈夫な
の?」
S「そうだね。足を見せてごらんよ」
D「大丈夫よ! ほっといて! (慌てて駆け出すが、すぐに転ぶ)」
J「(駆け寄り、助け起こし)僕は、君を喰べたりしないよ。さぁ、足を見
せてごらん」
ディーバ、恐る恐る足を前に出す。
ジョイベル、その足に触れる。
D「痛いッ!」
J「骨は、折れてないみたいだね。でも、歩けないだろ? だから、治るまで僕が背負ってあげるよ」
D「でも…」
S「ジョイベルは、ゼッタイに君を喰べたりしないよ」
M「私たちは、友だちなの。信じて!」
ショウワァとミス・フォーチュン、ディーバを見つめる。
D「わかったわ。一緒に連れて行って下さい」
S「やったぁー!」
M「わかってくれて、ありがとう!」
ショウワァとミス・フォーチュン、手をたたいて喜ぶ。
J「どうして君たちが、そんなに喜んでるの?」
M「だって、友だちが増えたのよ」
S「そうだよ!」
D「友だち? (三人を見回す)」
J「うん! 僕たち四人は、友だちだ!」
全員「おーッ!!」
J「ていうか、君の名前は?」
D「私は、ディーバ」
J「ヨロシク、ディーバ。僕は、ジョイベル」
S「僕は、ショウワァ」
M「私は、ミス・フォーチュン」
D「こちらこそ、ヨロシクね!」
(四人)「こうして、四人の旅が始まりました」
M「ディーバって、歌姫って意味でしょ?」
D「ええ」
S「歌が好きなのかい?」
D「大好き! でも…」
J「(心配そうに)なにかあったの?」
D「うん。ちょっとね」
J「よかったら聞かせてよ」
M「話すだけでも楽になるわよ」
S「そうだよ!」
D「…。(俯く)」
J「言いたくないことなら、無理して言わなくてもいいよ」
M「そうね」
S「そうだよ」
D「みんな、やさしいのね。ありがとう。私ね、リスの合唱団に入ってい
て、今までは、ずっとソロのパートを唄わせてもらってたんだけど、今度
のコンサートでは、別の女の子が歌うことになっちゃったの」
M「その女の子は、歌が上手いの?」
D「ええ、とっても」
S「(すかさず)その女の子は、かわいいの?」
D「ええ、とっても」
J「そんなこと、関係ないだろ!」
S「ごめん、ごめん」
M「でも、どうして木の上から落ちちゃったの?」
D「昨日、そのことを聞いてから、頭の中が真っ白になっちゃって、どこを
どうやって歩いて来たのかもわからないし、どうしてあの木の上にいたの
かもわからないの」
M「そうなんだぁ…」
D「ええ。それで、いつのまにか寝ちゃってたらしくて、気がついたら木の
上から落ちてたの」
音楽11『まっしろに』イン。
○木陰
ディーバ、歌い始める。
ジョイベル、ショウワァ、ミス・フォーチュン、少し離れた場所に座
り、歌を聴く。
♪
鏡に映った 顔は誰?
見知らぬ気配に 驚いて
息を殺して 覗き込む
しばらくすると すぐ気付き
見慣れた そう…私です
哀しみに 心奪われ
一晩中 泣き明かした
予期せぬことに まっしろに
まっしろになって しまったの
鏡の私は 私じゃない!
見たこともない 顔だった
そんな気がした けれど…私ね
思考回路も まっしろで
何も考えられなくて…
まっしろな夜を過ごしたの
まっくろな闇の中なのに
不甲斐なくて 涙込み上げ
溢れ出し 零れ落ちたの
哀しみに 心奪われ
一晩中 泣き明かした
予期せぬことに まっしろに
まっしろになって しまったの
ディーバ、その場に座る。
J「そうとうショックだったんだね」
D「ええ。もうコンサートになんか出たくないわ!」
J「そんな、ダメだよ! ねぇ、ショウワァ」
S「そうだよ! そんなことくらいでやめちゃダメだよ」
D「そんなことですって! 私にとっては、一番大事なことなの!」
S「別に、そんなつもりじゃなかったんだけど…」
M「ショウワァは、あなたを元気づけようとしただけなのよ」
D「ごめんなさい。わかってるわ。でも、悔しくて…」
J「そうだよね。歌姫の座を奪われちゃったんだからね」
ミス・フォーチュンとショウワァ、頷き合う。
D「そんなことは、どうでもいいの。私は、歌が好きなの! みんなの前
で、唄うことが楽しいの! 唄えることが嬉しいの!」
J「そうだったのか。話を聞いて、ディーバの気持ちがわかったつもりでい
たけど…」
M「なにもわかっていなかったのね」
S「ぜんぜん理解していなかったんだ」
D「いいのよ。話を聞いてくれたおかげで、自分の気持ちに気づくことが出
来たわ。私は、歌が好きなんだ! 唄えることが、私の喜びなんだって
ね!」
S「すごいね! 僕の喜びはなんだろう…」
M「空を飛べるって、ステキなことじゃない!」
S「鳥だから、当たり前だよ」
M「だって、襲われそうになったら、空へ逃げればいいんだから!」
S「空にだって、天敵はいるんだよ」
M「え、そうなんだぁ…」
J「(大きく手を打ち)ねぇ、こうしようよ!」
S「びっくりした!」
J「ごめん、ごめん」
M「またなにか思いついたの?」
J「うん! この森で、ディーバのコンサートを開こうよ」
S「いいね、いいね!」
M「やりましょう! ね、ディーバ」
D「でも、どうやって? 会場はどうするの? お客さんは?」
J「それは、大丈夫。僕たちが全部やるよ」
S「僕たちって?」
M「私たちが、出来るの?」
J「出来るよ! 三人で力を合わせればね」
S「どうやって? そんなこと、僕はやったことないよ」
M「私だって…」
J「僕もないよ。でも、なんとかなるよ」
D「(心配そうに)ホントに、大丈夫なの?」
J「とにかく、やってみなくちゃ何も始まらないよ!」
M「そうね。(ディーバを見て)やってみましょうよ!」
D「わかったわ、やりましょう! 私、唄いたい!」
J「やったぁ! じゃあ、今日は早く寝て、明日からガンバロー!」
M&D「おー!!」
J「あれ、どうしたのショウワァ?」
S「僕に出来ることはあるのかなぁ…?」
J「もちろん、あるよ! 君は空を飛べるんだから、森中を飛びまわって、
お客さんを集めて来てよ」
M「(うらやましそうにショウワァを見て)やっぱり、空を飛べるっていい
なぁ…」
S「そうだよね! 僕は、お客さんを案内してくればいいんだよね!」
D「お願いね、ショウワァ。私、ガンバって歌の練習をするわ!」
S「うん、そうだね!」
J「みんなでコンサートを成功させよう!」
全員「おー!!」
音楽12『泣いてしまえばいい』イン。
○木陰
ジョイベル、ショウワァ、ミス・フォーチュン、歌い始める。
ディーバ、少し離れた所に座り、歌を聴く。
♪
泣いて 泣いて ワンワン泣いて
もっと もっと ワンワン泣いて
泣き疲れるまで
私がそばにいてあげる
そっと 抱いていてあげる
涙 涸れるまで
君がそんな夢を持ってた
なんて 僕は知らなかったから
その涙が 悔し涙なら
いいよ! 泣いて 泣いていいけど
でも その涙があきらめの 涙なら許さない
私は夢を持っている
私は夢に生きている
何度 やぶれても
夢に向かい続けてる
キラリ 瞳輝かせ
夢見つめている
誰にもなんにも言わないまま
独りきりで 頑張ってたけど
これからは 独りじゃないことを
いいね! 知って 知っておいてよ
ねぇ 僕にも夢があるから
叶えよう 一緒にね
だから今夜は
泣いて 泣いて ワンワン泣いて
もっと もっと ワンワン泣いて
泣き疲れるまで
僕がそばにいてあげる
そっと 抱いていてあげる
涙 涸れるまで
泣いてしまえばいい