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大きすぎる鏡 002/映像脚本

○大きすぎる鏡
   その中に白い光が浮遊している。
   と、チャイムの音。
恵紀「(声)来た!」
育生「(声)やって来た!」
昌子「(声)良い匂~い!」
淳子「(声)ご苦労様~!」

○リビング
   テーブルの上に、食べ、飲み散らかしたものが置かれている。
   その周りに、四人が寝転がっている。
   と、突然電気が消え、白い光が浮遊し始める。
昌子「(目を覚まし)ん? あれ? (隣の淳子に)ちょっと、ねぇねぇ、
 起きてよ」
淳子「(薄目を開け)なに?」
昌子「空中を見てよ」
淳子「え、なに? (パチッと目を開け)なに、これ?」
昌子「(起き上がり)アツコにも見えるよね?」
淳子「見える。白い光が、宙を舞ってる」
昌子「だよね、だよね」
淳子「(身体を起こし)イクオ、シゲノ、起きてよ!」
育生「(目を開け)なんだ?」
恵紀「(身体を起こし)どうした? ていうか…」
育生「(身体を起こし)なんだ、あの白い光は?」
恵紀「ていうか、白い光が一ヶ所に集まり始めたぞ」
昌子「ホ、ホントだ!」
淳子「どうなってるの?」
   白い光が徐々に人間の形になって行く。
   美紀がそれを見ながら立ち上がり、光の前に行く。
昌子「アツコ、どうしたの?」
   昌子、育生、恵紀も光の前に行く。
淳子「(涙を流し)お、おばあちゃん…」
昌子「え?」
育生「なに?」
恵紀「おばあちゃん?」
淳子「(光を見つめ)うん、うん。わかった。ありがとう、おばあちゃん」
   すると、白い光が鏡の中へ戻って行き、電気が点く。
昌子「ねぇ今、おばあちゃんと話してたの?」
淳子「(鏡を見つめ)ええ」
育生「おばあちゃんはなんて?」
淳子「おばあちゃんは、いつもお前を見守ってるよ」
恵紀「(頷く)」
淳子「早くお婿さんを見つけて幸せになってねって」
   昌子がワーっと泣き出し、座り込む。
恵紀「どうしてマサコが泣くんだよ」
昌子「だって、私の祖母も去年…」
育生「亡くなったのか?」
昌子「うん…」
恵紀「マサコのおばあちゃんも、きっと見守ってくれてるよ」
昌子「うん…」
育生「(淳子にティッシュを渡し)なぁ、アツコ」
淳子「(ティッシュを受け取り涙を拭き)なに?」
育生「俺に、この鏡を貸してくれないか?」
淳子「え?」
育生「俺も、ばあちゃんに逢いたくなっちゃてさ…」
淳子「いいけど、この鏡、私の祖母の形見だから、イクオのおばあちゃんは出て来ないと思うんだけど…」
育生「そうかなぁ?」
恵紀「そりゃあそうだよ!」
昌子「私も、そう思う」
淳子「それに、これ運ぶの大変だよ!」
昌子「宅配便を頼まなきゃ」
育生「シゲノに手伝わせるよ」
恵紀「イヤだよ! 持って行ったとしても、イクオのばあちゃんが出て来て
 くれる可能性は、ほぼほぼゼロだぜ!」
育生「そうかなぁ…」
淳子「私は、喜んで貸してあげるよ」
恵紀「止めろ、アツコ!」
昌子「私も、イクオのおばあちゃんに逢いたいなぁ」
恵紀「マサコまで止めろ!」
育生「シゲノは冷たいなぁ…」
恵紀「いや、だから…」
淳子「ねぇ、この話はもうおしまいにしよ」
昌子「そうだね」
恵紀「そうだよ」
育生「わかった。諦めるよ…」
淳子「今日は、わざわざみんなに来てもらっちゃたから、私の奢りでカラオ
 ケに行こうよ」
恵紀「お、いいね!」
昌子「よ、アツコ、太っ腹!」
育生「太鼓ッ腹!」
淳子「イクオには奢らない!」
育生「ゴメンナサイ、アツコ様!」
淳子「ま、今日は許す! おばあちゃんに逢えたから」
恵紀「ていうか、俺たちさっきのことをなんの疑いもなく受け入れちゃって
 るけど…」
昌子「この世の中には、常識では考えられないことが起こるってことよ」
恵紀「えッ?」
育生「こういう現象を、受け入れて行こうぜ!」
恵紀「(首を傾げフリーズ)…」
淳子「そうそう。受け入れるために、カラオケに行こう!」
昌子「行こう!」
育生「行こう!」
   淳子、昌子、育生の三人が玄関に向かう。
淳子「(振り返り)シゲノ、ほら行くよ!」
恵紀「(首を傾げたまま)ああ…わかった…」
   淳子が恵紀の手を引っ張り、四人で玄関を出て行く。



                               (終)

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