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掌編小説【ひよこ】
お題「にわとり」
「ひよこ」
「おかあさん、ボク白鳥になりたい」
「…いきなりなにを言うの」
「となりの池の白鳥さん、子どもの頃はあひるだったんだって」
「あの子は最初から白鳥だったのよ。あひるの奥さんびっくりしてたわ。間違えて育てちゃったって」
「ボクもまちがえてるかも…」
「あんたは間違いなく私の子どもですよ」
「じゃ、白鳥にはなれないの?」
「どうして白鳥になりたいの?」
「とてもきれいなんだもの」
「私たちはきれいじゃないとでも?」
「そうじゃないけど…。もっときれいだもの」
「美しさなんて主観的なものよ」
「しゅ…なに?」
「見る人が決めるのよ。お前は白鳥は美しいと思っている。でも誰もがそう思うわけではないわ」
「みんなそう思うよ」
「おとうさんのトサカを見てごらん。あんなに立派で美しいもの、白鳥はもっていませんよ」
「うん…」
「おまえも大きくなったら、美しいトサカをもつようになるのよ」
「うん…」
「とにかく、お前は白鳥にはなりません」
ひよこの坊やはしょんぼりして、となりの池までとぼとぼと歩いた。そして白鳥たちをぼんやりと眺めていると一羽の白鳥が近づいてきた。昔あひるだった白鳥だ。
「やあ、どうしたの」
「ぼくは白鳥にはなれないんだって」
「そうだろうね、ぼくの子どもの頃はもっと大きくて灰色だったもの…」
「きみは、ぼくたちのこときれいだなんて思わないよね?」
「誰がそんなこと言ったんだい。ぼくはきれいだと思うよ」
「それ、しゅかんてき、ってやつ?」
「そうだね、ぼくはそう思う。本当だよ。それに今だって黄色くてふわふわして素敵じゃないか…」
ひよこ坊やはその時はじめて気づいた。白鳥の子どもたちのうらやましそうな視線に。
そして、なんだか「しゅかん」ってやつはよくわかんないな、ぼくはまぁこれでいいや、と思った。
おわり (2022/2 作)
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