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掌編小説【カレーポット】
お題「サブスク」
【カレーポット】
レトルトカレーを食べたら当たりが出たので、カレーポットをもらった。
魔法のランプみたいな形をしたアレだ。意外に高級感があっていい感じだったので撫でてみた。すると案の定、魔人が出てきた。撫でた瞬間、ふとイヤな予感はしたのである。あ、やばい出ちゃうかも、って。
しかし、出てきたのは映画で観たような大きな魔人ではなく、小さなマッチ箱サイズの魔人だった。
「ご主人様、あなたの願いを、叶えます」
小さな体にぴったりの甲高い声で、魔人は言った。
(『ちょっと待って』とか言うと、願い事にカウントする気かしら)
と、私は心の中で思った。しかし
「ご主人様。私は『ちょっと待って』とか言われて、それを願い事にカウントするような器の小さな魔人ではありません。体は小さくても」
ミニ魔人は胸をはって言った。さらに
「もちろん、『私の心を読まないで』という言葉も、願い事にはカウントしません」
と、言い足した。
「…わかったわ」
心を見透かされた私がそう言うと、魔人は胸をはったまま満足そうにコクンとうなずいた。小さいくせにえらそうだ。
「まず質問なんだけど、これ、カレーポットよね。魔法のランプじゃなく。どうしてここから出てきたの?」
「魔法のカレーポットだからです」
ミニ魔人だけあって簡潔だ。なるほど。
「あなたが小さい理由は?」
さらに聞いてみた。
「そういう時代ですからね」
これまた簡潔だ。ミニマリストか。
「しかし小さくなっても、ランプ時代よりサービスがよくなっています」
ミニ魔人は胸をさらにはって言った。
「どこがよくなったのかしら」
「サブスクを取り入れました」
「え?」
「このカレーポットを毎日使っていただくことで、毎月ひとつずつ願いを叶えます。永遠に」
(……要するに、これからずっと魔人を食べさせろ、ってことか)
と私は心の中で思った。
図星だったのか、魔人はちょっとだけ恥ずかしそうに咳払いした。
まだ私の心を読んでいたらしい。
「このカレーポットを普通のカレーポットに変えて」
そう言った瞬間、カレーポットがカタンと動いて魔人も消えた。再びカレーポットを撫でても何も出てこない。
ごめんね魔人。私、サブスクってきらいなの。
食べたい時だけカレーが食べられれば、それ以上願うことなんてないわ。
おわり
(2023/1/15 作)
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