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紫光は星空の彼方に 二章5話
暫く、グレモリーが消えていった場所を見つめていたカルトは、長い溜息を一つつくと、ポリポリと頭を掻きながらこちらへ来た。
「どう?何か分かったかしら?」
面白そうに口を綻ばせたセリスが問いかける。博識強記、そして慧眼の士であるセリスは、グレモリーの答えともヒントとも取れる言葉だけで全てを理解したようだった。
「う~ん………、近く、近くね~」
カルトは紫の頭をポンポンと叩く。
「ちょっとぉ~!あ
紫光は星空の彼方に 二章4話
「………それって、本当なんですか?」
八畳一間のアパート。畳張りの部屋は小綺麗に整理されており、紫が抱いていた男子高校生の一人暮らしの部屋とは様子が違っていた。
東の壁には大きな本棚が置いてあり、そこには様々な本が並べられていた。見ると、マンガなどは一切無い。紫とは無縁の小難しい小説や辞典ばかりだ。昨日、大切そうに抱きかかえていた本も並んでいた。南側に吐き出しの窓があり、西の壁には小さな箪笥が
紫光は星空の彼方へ 二章 3話
グレモリーが指を一つ鳴らすと、まとわりついていた炎が一瞬にして消え去った。
グレモリー自身にダメージは見受けられないが、駱駝を倒せたのは大きいだろう。これで、グレモリーは地に降りて戦わなければいけない。カルトの注意を向ける相手は、二体から一体になったのだ。
(長引かせればこっちが不利。だから、決める!)
カルトはグレモリーに走り寄る。距離にして数メートル、常人では視認することさえ困難なスピー
紫光は星空の彼方へ 二章 2話
昨夜逃げた第三種生命体と、目の前にいる火野雪路。その二つが紫の中で繋がろうとしていた。何故そう思うのか。紫自身にも分からない。楽観的な思考。余りにもタイミングが良すぎる展開に、戸惑いながらも雪路の話に耳を傾けていた。
「俺はね、昨夜、女の人が殺された映像を、この目で見ていたんだ」
雪路が示したのは自分の瞳。磨かれた御影石のように真っ黒に輝く瞳には、虹色メッシュが僅かに乱れた、嬉しそうに頬を緩め
紫光は星空の彼方に 二章 1話
二章 私ってダメなニンゲンなのかしらん?
満月まで、後六日。
夕暮れ時、稲城紫は人気の少ない住宅街を歩いていた。
西の空に沈もうとしている太陽。東の空からは群青色のベールが舞い降り、蜜柑色の空を覆い隠そうとしている。春先の太陽の勢力は弱く、最後の力を振り絞って放つ残光も、何処か儚い。
今日の紫は、躑躅ヶ丘(つつじがおか)女子校の制服である、目の覚めるような青いブレザーに、同色のスカート
紫光は星空の彼方へ 一章 五話
カルト・シン・クルト。白河麟世は、コップを洗う手を休め、古代龍人の王の名を持つ青年をしげしげと見つめた。
庇のように長い髪の下には、女性と言っても通じてしまうような、中性的で美しい美貌が隠れている。麟世の視線に気がついたのか、カルトは分厚い本から目を上げると、ニコリと笑ってコーヒーを一口啜った。
「どう? バイトは慣れた?」
「うん、お陰様でね。アルルーナの店長も優しくしてくれるし、とても働き
紫光は星空の彼方へ 一章 4話
人の脇をすり抜け、車の上を滑りながら進む。信号を無視しようがお構いなしだ。ハンターのライセンスは、イコールで殺しのライセンスだ。人を殺そうが、街を破壊しようが、第三種生命体を討つという名目ならば、一切罪に問われる事はない。
人の多い繁華街を抜け、紫は静かな住宅街へと入った。
チカチカと明滅する街灯。
湿り気のある風が流れる。
そう遠くない場所から、まとわりつくような龍因子を感じる。
気
紫光は星空の彼方へ 一章 3話
G県T市。関東平野の北部に位置するこの街は、東京の様に煌びやかで絢爛豪華に発展してはいないが、地方都市としてはまずまずの規模を誇っている。
紫は商業ビルの屋上に立ち、目を細めた。北関東特有の強い風が、紫の髪を波打たせる。
光を纏ったビルの足元には、飲食店や居酒屋が並ぶ雑多な繁華街が広がっていた。普段ならば聞こえて来る下界の喧噪も、今日は強い風の音に紛れてしまい聞こえてこない。
時刻は午後九
紫光は星空の彼方に 一章 2話
満月まで、後七日。
飴色の光が重厚な室内を満たす。
ダークブラウンの絨毯が敷き詰められた室内には、マホガニーのデスクが四つ、一つは南側を向き、他の三つは北側を向いている。部屋の片隅には、本皮の三人掛けのソファーが二つ、ガラステーブルを挟んで向かい合っている。
ソファーには、二人の青年と一人の少女が向かい合って座っていた。青年二人は寄り添うようにして、一冊の分厚い本を読んでいる。
「んもう
紫光は星空の彼方へ 一章 1話
一章 あたしだって一人前なんだから! 春の夜風は、まだ冷たい。
桜の花びらが夜風に舞う。
これが最後の景色だろう。
短い人生だったが、後悔はない。
不思議と、心は満ち足りていた。
だから、俺は満足して逝く事が出来る。
唯一の心残りは、彼女の心がどうなるか。
俺は、彼女の心を連れて逝く事は出来ない。
彼女の心は、こちらに置いていくべきなのだ。
夜の七時を回った遊園地は静かだった
紫光は星空の彼方に プロローグ 3話
改めて近くで見るパナルカルプは巨大だった。身長は紫の三倍以上、優に六メートルはあるだろう。そんな巨大で異形の生物が目の前に居るというのに、紫の心は何一つ乱れていない。それどころか、漸く捕まえた獲物に喜びさえ感じていた。
唸りを上げて尾が紫に迫る。
「カーディナル!」
ポケットから取り出した一枚の布が大きく膨らんだかと思うと、一瞬にして白銀の盾へと変化した。盾を体に密着させ、腰を落とす。龍因子
紫光は星空の彼方に プロローグ 2話
麗らかな春の日差しが降り注ぐ土曜日の昼下がり。平日でも賑わうスクランブル交差点は、土日ともなれば人でごった返す。車のクラクション、人々の喧噪、あらゆる音がない交ぜになり、日常という空間を満たし、創りだしている。
それが、今日は違っていた。
街の中に人気はなく、車もは一台も走っていない。信号が青に変わっても、スクランブル交差点を渡る人の姿は無く、車も停車しているだけで動く気配はない。
この世
紫光は星空の彼方に プロローグ 1話
プロローグ だって仕方ないじゃない!
腹が減っていた。
喉が渇いていた。
喰らい尽くしても満ちる事はない。
何を飲んでも渇きは癒されない。
胸からわき起こる破壊の衝動。
真紅に燃え滾る激しい怒り。
尽き果てる事のない殺意。
沸き上がる漆黒の悪意。
目に映る物、全てを喰らいたかった。
嗅ぎ取る物、全てを破壊したかった。
本能の赴くまま、人を殺したかった。
全てが始まるのは、