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紫光は星空の彼方へ 一章 4話

 人の脇をすり抜け、車の上を滑りながら進む。信号を無視しようがお構いなしだ。ハンターのライセンスは、イコールで殺しのライセンスだ。人を殺そうが、街を破壊しようが、第三種生命体を討つという名目ならば、一切罪に問われる事はない。
 人の多い繁華街を抜け、紫は静かな住宅街へと入った。
 チカチカと明滅する街灯。
 湿り気のある風が流れる。
 そう遠くない場所から、まとわりつくような龍因子を感じる。
 気配から察するに、どうやら相手は止まっているようだ。
 紫はマフラー代わりに巻いていたカーディナルを手に取ると、小降りのナイフに変化させた。一車線の細い道だ。ここは小回りの効く武器の方がいい。
 気配を消し、流れてくる龍因子を頼りに歩を進める。路地を一つ、二つ曲がった時、ツンッと鼻をつく異臭を嗅いだ。血の臭いだ。
「しまった! 遅かった?」
 紫は駆けだした。胸の鼓動が早くなる。匂いからしてかなりの出血だ。これが人間だとしたら、恐らく、相手はもう……。
 紫の気配を感じたのか、相手が動いた。紫がT字路を右手に折れると、目の前にポツンと街灯が一つ灯っていた。冷たい光が照射されているその先には、血にまみれた一人の女性が横たわっていた。女性の手足は千切れ、胴体から離れた首は街灯の足元に雑に転がっている。生死は確認するまでもない。
 これでは、スポットライトに照らされた悪趣味なステージだ。
 紫は歯ぎしりをした。
 遅かった。助けられなかった。もし、これが紫ではなく、カルトや大地だったら結果は変わっていたかも知れない。せめて、紫が大地から拝借した呪符を巧く使えていたら。街へ消えてしまった呪符を見送ってしまった自分に、紫は激しい怒りを感じた。
 どうして自分はこんなにも迂闊なのだろう。注意力が散漫なのだろう。これでは、大地の事を悪く言えない。
 自分への怒りはそのままに、紫はこの悪趣味な演出をした第三種生命体を探った。
 後悔しても始まらない。ならば、次に同じ後悔をしないためにも、邁進しなければいけない。その為には、まずは彼女の命を奪った第三種生命体を倒す事だ。
 紫は遠ざかる第三種生命体を追った。相手は潜伏成長型だ。次も都合良く相手の気配を捕らえられるとは限らない。何としても、ここで滅しておくべきだ。
 第三種生命体の龍因子を追った紫だったが、不意に相手の気配が消えた。龍因子の残滓さえ残さず、消え去った。
「まさか、逃がした?」
 第三種生命体の気配が消えた場所まで来た紫は、目の前に佇むアパートを見上げた。アパートは四階建てで、一階につき四部屋あるようだった。どの部屋にも明かりが灯っていた。
 紫はもう一度、第三種生命体の気配を探ったが、やはり、第三種生命体はこの辺りで忽然と姿を消してしまったようだ。アパートや一戸建て住宅が密集したこの場所で、第三種生命体は消えたのだ。
「くっそッ、こんな事なら、大地から呪符のちゃんとした使い方を習っておくんだったわ~」
 顔をしかめた紫は、途方に暮れたように周囲を見渡しながら、虹色メッシュの髪をクシャクシャと掻きむしった。

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