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薬を使わないアルツハイマー施設とデザイン inイタリア
イタリアを訪問した際、Piazza Graceという薬を使わない認知症施設を案内してもらったのでそちらのレポートを書きます。デザインはもしかしたら薬の代わりになるのかもしれないと思えた体験でした。
ミラノ初のアルツハイマー施設 Piazza Grace
Piazza Graceは、ミラノのフィジーノというエリアにあります。Borgo Sostenibile di Figinoという村(伝統的な村ではなく、新たに居住スペースや広場、コミュニティスペース、お店があるようなところ)内に位置しており、子供、老いも若きも一緒に生まれ、成長し、お互いを理解し、感謝することを学ぶ場所として生まれました。
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Piazza Graceは、アルツハイマー病がもたらすあらゆる限界を克服するための実験的な施設です。広場、デイセンター、アパートによって形成されています。さまざまな視点から人を見るさまざまなプロの協力の結果であり、関係的、治療的、ケアの可能性を提供しています。
食べられる広場
建物の真ん中に位置しているのが、この広場です。なんとすべて食べられる植物!
まずこの広場を作ったのは、どの部屋からも外と繋がるため。私の中でこういったアルツハイマー施設は、ザ・病室でホワイトキューブのなかにいるような、ちょっと息がつまるイメージでした。
しかし、この施設は全然違っていて自宅で窓に向いて外を眺めているような雰囲気。広場を見学していると、施設にいるおじいちゃん・おばあちゃんやスタッフさんが手を振りかえしてくれました。
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植えているのはラベンダーやローズマリーなどハーブ類が多く、香りが良いのも特徴です。昨今フィトテラピーを実践されている日本の介護施設などもあるようですが、植物療法や香りが私たちの助けになるんですよね。薬以外のセラピーは、中医学に影響された日本にもたくさんあるんじゃないでしょうか。
なぜ病院は白というイメージでいたのか
この施設を見学する中で、あれ、なんで真っ白な病棟って必要だったんだろうと思いました。もちろん、汚れが分かりやすく衛生面で必要な場所もあると思いますが、すべて真っ白である必要はないよなぁと。
日本でも病棟の壁に絵を描いたり、木をふんだんに使ったような病院がありますが、それでも私の中で病院は白いというイメージ。それが、一気に払拭される体験でした。
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使っている家具も新品ではなく、自宅で使っていたようなベンチやコート掛けが多かったです。本が至る所に置かれていたり、ボードゲームが置かれていて、そうそう自宅ってこんな感じだよねと思わせてくれました。
自宅や記憶を思い出すセラピールーム
施設の一室には、自宅を思わせるセラピールームがありました。
アルツハイマーの人に関わらず、自分もそうですが、ホワイトキューブのような場所にいては記憶を思い起こしにくいですよね。そんな考えをベースにできたのがこのセラピールームです。
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まず壁の色は、黄色。よくこのような施設には、紫や赤などのカラーが使われますが、それは家の壁の色とは不自然なので、黄色にしたのだとか。施設全体的に、黄色になっています。
左手のストライプの壁は、リバーシブルになっていて、裏返すことでシチュエーションを変えることができます。他にも古いミシンが置いてあったり、小物が随所に散りばめられています。
正面の扉の中には、3つのシチュエーションが詰まっています。写真で見えているのはドレッサーで、ベッドルームのような雰囲気。右の扉を開けると、キッチンがありました。
ミラノ工科大学のAlessandro Biamonti先生を中心に、学生たちが協働して考えているのだとか。Alessandroはインテリアや建築を中心としているので、このようなアプローチが取れたのでしょうね。これぞまさに知識の統合といった感じで素晴らしかったです。
特別にしすぎないこと
私が印象的だったのは、その人がどんなものから、何を思い出すかわからないから(そこはデザインできない)いろんなものを置いているんだという言葉です。
確かに、記憶を呼び戻すことはデザインできません。人によって思い出し方も違うし、そもそも思い出させる必要もないかもしれない。
ただ、記憶を呼び起こしやすくすることだけができることだと学びました。それは、ホワイトキューブのような場所ではなく、随所に本やカードゲームが散りばめられていたり、ハーブのいい香りがしたり、外をぼんやり眺めるというような、自宅でできるようなこと、特別すぎないことから実現できます。
デザインの役割を改めて考えさせられました。