ああ・・・・どうすんのよ、これ。
アタシはまた始まった我慢の時間に二分と立たず嫌気が指していた。
目の前にはいたぶりがいのあった、そしてアタシとは違い、合格したネグ。
本当、人参ぶら下げられた馬よね。今の状態。
「・・・・私が、一日だった」
突然ネグが言い出した。
「・・・から、あなたもそうじゃない?」
要は、一日耐えてがんばれ、と言いたいのだろう。冗談じゃない。
アタシはネグと違って我慢できるほど、お人よしでも努力家でもない。
アタシのは、周りの誘惑の数とレベルが違う。
目の前にはイライラの原因の一つ。そして、かつて殺されかけた相手。
さっきまでいたぶっていた相手。
もう一度見たいという気持ちがムラムラとわきあがってくる。
そんなアタシの背後にはどんなにセクシーでなまめかしいポーズよりも誘惑してくる拷問器具達。
そして何をしても大丈夫そうにみえるいつものカミサマ空間で、かつ暇をつぶせるものが他にない。
解ってる!それをしたらまた振り出しに戻るだけ。やっとおカミサマの呪縛から逃れられて、後一歩だってのは解ってる!!
――でもしんどいよ、こんなの。
「しりとり、しましょ。じゃあ・・・リトウ」
アタシの苦悩を知ってか知らずか、馬鹿みたいな提案をしてきた。
しかも単語が完全にアタシをおちょくってる。良く切れる刀のことよね?それ。
「はあ・・・・移り変わり」
「・・・利己的」
「・・・・・義理」
「・・・・・・・リチウム」
「・・・・ムリ!!無理よ無理!!なんでアンタなんかと!?」
やっぱり馬鹿らしい!
アタシはむしろイライラが増して、よりコイツを刺してやりたくなってきた。
「・・・相手を知れば、情が沸くかなあ・・・って」
「だからってなんでしりとりなのよ!??」
アタシの心底解らない、といった裏返った声を聞いて、ネグが無表情で首をかしげた。
「言葉選び。戦略。語彙の広さ。知識、から見える経験・・・良く分かるじゃない、どうして駄目なの?」
それでいて、余分なものがないから知識を吸収することに気が向いて、集中できそう。とネグは続けた。
「ええっと・・・罹病・・・・私達って、眠ってばかりだし、お互い病気よね。きっと。それぞれ、取り憑かれたものもあるようだし」
何かおまけの解説が始まった。余分なものを自ら入れてどうするんだ。
「・・・うっとり。拷問のこと考えると、よくうっとりしてるわね」
でも乗ってやろう、と、なんだか少し楽しくなってきている自分が悔しかった。
「理屈。衝動は、理屈じゃ説明しにくいわ」
「釣り。まんまとエサに捕まって、釣られたわね、アタシもアンタも」
アタシは『カミサマになれる。』コイツは『綺麗になれる。』
案外似たもの同士かもしれない。
「力作。この衣装は誰が用意しているんでしょうね。デザイナーさんに会ってみたい」
「繰り。操られてたんだから、会いになんかいけるわけがない。そんな都合よく、あいつらがいうことを聞いてくれるわけがない」
「・・・・・・粒子。大丈夫。砂粒一つでも可能性にかけてみせる。私がそうして叶ったように」
なんだか、本当に会話をしている気分になってきた。
確かに、集中できるし、知れていい。こんな馬鹿みたいで切れたこと考えてたのか。五分姫は。
「・・・・・・・じんわり・・・・・・信用、出来てきた気がする。アンタ・・・のこと」
どうしちゃったんだ、アタシは。
ああ、きっとあれだ。目の前の少女がネグの格好で、ジッとこっちを見て、喋ってるから、段々麻痺してきたんだ。
少し前の日常が、今を侵食してきたんだ。別にほだされてなんかいない。
「・・・なら、やっぱり粒子にかけて正解ね。じゃあ・・・輪廻。あると思う?」
「眠り。・・・眠り姫はどう思うのよ。答えてから、答えてやるわ」
「・・・・リハーサル。今までの物柄は皆・・・輪廻のためのそれだと、思ったわ。今」
「流罪、だったりはないの?」
納得しかかっていたけど、お互い、罪人だということを思い出していってみる。
なんて返ってくるのか、夢見がちでおとぼけで、愚直な返事に、期待が募る。
「一緒。そしたら一緒に、刑を受けているわね。私達」
読めない。夢見がちどころか、諦めたような返事だ。でも表情は明るい。
「よ・・・よく、一緒にするわね。同じ日同じような時間に死んでるってだけでまとめてるのかしら。そしたら」
そういえば、一応加害者と被害者(お互い、逆の要素もあるが)なんだった。
「く・・ふふ・・・・くふふ・・・・じゃあ大丈夫かしら」
へんな笑い方。でもそういえば、笑い方も知らなかった。
「食らう・・・ことに、もう執着はないの?」
ふときいてしまった。言ってから慌てて「不利」といっておいた。
「不思議とね。大丈夫。もう沸いてはこないわ、あなたも・・・「リジェ」も、あと少しよ」
そういって、優しげでおっとりとしたネグの表情を見て、ほんの少し先の未来で、こうなれていることを祈った。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?